【公判調書2528丁〜】
「第四十九回公判調書(供述)」
証人=岸田政司
*
橋本弁護人=「(前同押号の五の3の石膏を示す)その石膏を見てズレというのはどこに指摘できますか」
証人=「この辺(踏付部内側の側縁あたりを指示)にズレがあるように感じています」
(橋本弁護人は裁判長に対し、本件足跡の鑑定書に添付の鑑定図第二図=鑑定資料一-2及び同一-3の写真、記録第四冊第一〇五六丁を複写した写真を提供するから証人に指示を求める箇所をそれの該当部分に印させ且つ説明を記入させて、それを本公判調書に添付することとされたい旨を述べ、山梨検事は、右に異議ない、と意見を述べた。裁判長は、証人に右の記入をさせ記入をした右写真を本公判調書に添付する旨を告げた。)
橋本弁護人=「(右写真を証人に示す)その一-3の写真にズレた部分を記入して下さい」
証人=「はい」(証人は同写真の右側に赤線を記入し、且つ写真の下に"朱示線部がズレを生じていると推定される・・・一-3右側"と記入した。)
橋本弁護人=「あなたが今記入したズレはどちらからどちらの方向に走ったのですか」
証人=「小趾球側から母趾球側にズレています」
橋本弁護人=「今写真に赤線を引いたのは何を示すのですか」
証人=「ズレて最後に止まったところです。その部分については実際の足幅よりも若干大きくなっています」
橋本弁護人=「その部分というのは今記入した赤線の範囲内ですね」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「ズレの幅はどのくらいあると測定しましたか。その石膏の現物を見て」
証人=「忘れました」
橋本弁護人=「現物を見て、ズレがどこからどこまで走っており、その幅がどのくらいと言えないのですか」
証人=「強いて数字で言えば二、三ミリでしょうね」
橋本弁護人=「鑑定書にいくらと書いたか記憶していますか」
証人=「忘れました」
橋本弁護人=「素人目では現物を見てもどこがズレたか見当がつきませんが、ここがズレたところだというズレの特徴、痕跡があるのですか」
証人=「地下足袋に欠損痕があり、それが移行しているので、それだけのズレがあるというわけです」
橋本弁護人=「欠損痕が移行してあるというのがズレの根拠であるというわけですか」
証人=「そうですね」
橋本弁護人=「欠損痕が移行しているということはどうして判断出来たのですか」
証人=「先日説明した通りです」
橋本弁護人=「先日は、欠損痕は二カ所ありそれはこことここであるということを聞いたのですが、なぜそれを移行したものだと見たのですか。二個の別個の欠損痕ではないのですか」
証人=「一部の欠損痕だけどうこう言われますが、ほかにも欠損痕があると私の方では信じているわけです。それから比較していっているということもあるわけですから」
橋本弁護人=「それから比較するとどうして移行したと言えるのですか」
証人=「距離が変わってますから」
橋本弁護人=「前提として確かめますが、二カ所欠損痕があるのですね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「そして、それはズレの結果同一の欠損痕が重複して印象されたものである、というのがこの前の証言の趣旨でしたね」
証人=「ええ」
橋本弁護人=「どういう根拠で同一の欠損痕が重複して印象されたものだと言えるのか、ということを尋ねているわけなんですが」
証人=「ですから、ズレたから重複して印象されたのです」
橋本弁護人=「なぜズレたと言えるのかを聞いているのです」
証人=「対照の足跡をいろいろ採取したわけですが、そういう点から推してこの辺にあるキズらしいものが該当すると逆算して指摘に含めたわけです」
橋本弁護人=「対照足跡にはあなたが今問題にしている欠損痕はいくつかあるのですか」
証人=「一カ所ですね」
橋本弁護人=「今問題になっている部分は鑑定書によるとdとd'ですが、これは一カ所ですか」
証人=「一カ所です」
橋本弁護人=「現場足跡には二カ所あるわけですか」
証人=「ええ。私の方はズレの足跡を取っていないものですから、それが出来なかったということが言えるのです」
橋本弁護人=「対照資料で採取実験をして足跡を何個か採取しましたね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「その採取した石膏の中にはズレはないのですね」
証人=「そんなに目立つズレはないと思います」
橋本弁護人=「ところで今尋ねていることは、あなたの鑑定書及びあなたのこの前の証言によると、今あなたが見ている五の3の石膏に二個の欠損痕がある、それはズレて出来たものであると言うのですが、どうしてそういう意見を出したかということなのですが」
証人=「今、私が写真に印を付けた所が多少なりともズレているわけです。ですから逆に、そこの所にそれらしいものがあるから私の方ではこれは一個の欠損痕であるという風に解釈しました」
橋本弁護人=「そうすると、足跡の拇趾側の外縁にズレのある跡がある、したがって二個の欠損痕も一個の欠損痕のズレによって生じたものであると推測した、というわけですか」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「今あなたが見ている五の3の石膏の足幅は鑑定書によると約九・二センチ内外となっていますが、これはズレているわけだから実物よりも多少広くなっていると見ていいわけですね」
証人=「そうですね」
橋本弁護人=「実物はズレた分だけ狭くなるわけですね」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「この前、それは縫付地下足袋の足跡であると証言しましたね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「その足跡が縫付地下足袋の足跡であると言える固有の痕跡はどこにあるのですか」
証人=「この前も説明したと思いますが、外側にある竹の葉模様の踵寄りのところに三本の横線がありますが、これがその特徴です。それと竹の葉模様がありますから」
橋本弁護人=「今言った三本の横線模様の上、つま先寄りに平たく白く光る部分、それが普通縫付地下足袋にある竹の葉模様だと言うのですか」
証人=「そうです」
(続く)
*