アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 747

「石膏による平面足跡採取は、その鮮明度と信憑力などから観察して合理的な方法である。多くの場合、肉眼でやっと特徴を捉えうる程度の足跡なら、採取したものの方がかえって実物よりも優れていることが多い。また採取後も印象物体に残された形態は、採取前よりも鮮明な足跡と変わったりする。」(写真・文章共に「"足跡"鑑定暮らし30年・内田常司」より引用)

【公判調書2341丁〜】

                 「第四十六回公判調書(供述)」

証人=岸田政司(五十四歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課・警察技師)

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橋本弁護人=「土性には砂土、壌土、植土の三大種類があるということは常識的なことではないかと思うのですが、あなたの鑑定書には砂土と壌土は出ているのに、植土は全然出てこないわけだけれども、砂土と壌土は準備しながらなぜ植土質状の地面を準備して採取実験をしなかったのですか」

証人=「そこまでは気が付きませんでした」

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裁判長=「鑑定書には砂土質状及び壌土質状の地面、油土、現場の土は出ており、そういうものは考えたがそのほかの土については本件の鑑定の時には特に考えなかった、用意しなかった、という風に聞いていいのでしょう」

証人=「そうです」

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橋本弁護人=「(同第七図を示す)拇趾先端と踵部後端いずれも不鮮明であるということだと、足跡の長さを測ることは難しいですね」

証人=「難しいですけれども、たとえば先端の湾曲の部分の一番先のところが欠けている場合、欠けているところの左右の湾曲の状態から一番先は大体この辺であろうという推定がつくので、そこから測るわけです。それで約という言葉も付くわけです」

橋本弁護人=「つまり、先端部が写っていないとすれば先端部を推定して、その推定したところから長さを測るというわけですね」

証人=「私たちは一般的にはそうやっているのが多いです。鑑定をする人は特にひどい無理はしていないつもりです」

橋本弁護人=「あなたの鑑定書によると第七図の足跡の長さは約二四.五糎内外となっていますが、それは推定をしたからですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「内外というのは一定の誤差を認めるという意味なのでしょう」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「誤差をどのくらい認めるのですか」

証人=「ほんのわずかなものと思います」

橋本弁護人=「一センチぐらいの食違いということはありますか」

証人=「一センチ食違っては駄目ですよ、こういうものは」

橋本弁護人=「五ミリぐらいは」

証人=「五ミリ程度でしょうね。足長の場合と足幅の場合はちょっと違います。足長の場合は長いし足幅の場合は狭いですから」

橋本弁護人=「内外というのは二四.五糎より短いこともあり得るし長いこともあり得る、その前後である、という意味ですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「前後というと、どの辺が誤差の限界なのですか」

証人=「広く見て一センチでしょうね」

橋本弁護人=「狭く見るとどうですか」

証人=「はっきり言えないので内外としたわけです」

橋本弁護人=「(同第八図を示す)第八図にGという符号で示されているところがありますが、それは何ですか」

証人=「破損痕です」

橋本弁護人=「ゴム底の横線模様の破損をG部として示したわけですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「その破損痕は、現場足跡、あなたの鑑定書でいうと(一)(2)あるいは(一)(3)の足跡に同一のものがある、というのがあなたの鑑定書の趣旨ですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「鑑定書添付の写真で示すとどれになりますか」

証人=「第七図のGです」

橋本弁護人=「その部分が地下足袋のGに対応するという意味ですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「(前同押号の五の3の石膏を示す)現場足跡といわれたものはそれですか」

証人=「そうですね」

橋本弁護人=「それは右足の足跡ですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「鑑定書添付の第七図の写真はその石膏を撮影したものですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「写真にGと示されている部分は石膏のどこに当たりますか」

証人=「この辺(第七図の写真のGに相当するあたりを指示)です」

橋本弁護人=「(前同鑑定書の鑑定図第五を示す)その右の写真の説明1に"A.B.C.F.Gは土塊痕跡"とありますね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「それに相違ありませんか」

証人=「足跡が印象されその上に周囲の泥が落ちたという場合、それを取り除かないで石膏を流すと窪みのある石膏が出来るわけですが、それを言っているわけです」

橋本弁護人=「(前同押号の五の3の石膏を示す)鑑定図第七図の写真でGと示されている部分はその石膏のどの部分に当たるということを言葉で表現できませんか」

証人=「難しいです。言葉では表現できません」

橋本弁護人=「そこの特徴は周囲とこういう風に違うのだということを言葉で表現できませんか」

証人=「窪みが若干あるということは言えます。横縞が本来ならここまであるという風に推定できるのにそれがないわけです」

橋本弁護人=「本来窪みが出来てはいけないところに窪みがある、というわけですか」

証人=「そういうわけです」

橋本弁護人=「横線模様がありますね」

証人=「はい。横線模様があるべきところに無いから、そこが破損痕であろうと推測したわけです」

橋本弁護人=「私ども素人の目で見てこれが破損痕であるという風に、特別に指摘できるような特徴は何もないように思われる、つまりあなたの言う窪みというものは他に無数に近いくらいありますが、そういう他の窪みと言った破損痕とはどう違うのですか」

証人=「あるべきところに無い、そこに泥が付着していればもっと出っ張りがなければならないのですが、それがないからです」

橋本弁護人=「しかし、横線模様は問題の場所付近にも写っていないですね」

証人=「そうでもないですよ」

橋本弁護人=「一般的なことを尋ねますが、横線模様が切れていると、それは足跡にはどういう風に印象されるのですか」

証人=「よく出ている場合は現物を見た目と同じように出るのが普通です」

橋本弁護人=「(前同鑑定書の鑑定図第八図を示す)その右側の写真ではそれが出ていますか」

証人=「出ています。やはりGで示しています」

橋本弁護人=「印象状態がよければ非常にはっきり出るわけですね」

証人=「そういうわけです」

橋本弁護人=「あなたは先ほど、足跡が地面に印象された後でその上に土の固まりなどが落ち込んでいるところに石膏を流し込むと石膏にへこんだ部分が出来る、という風に言いましたね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「(前同押号の五の3の石膏を示す)たとえば、それの拇趾先端部分とか土踏まずの部分などにあるへこみがそれですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「(前同鑑定書の鑑定図第六九図を示す)それにa、a'の符号が付けられていますが、それは何を意味しているのですか」

証人=「足跡を印象した場合に、ズレか何かでこうなったのではないかと思います。人間が歩いているとズレますね。そのためにこういう痕跡が出来たと思います」

橋本弁護人=「aとa'は同一の痕跡が重複して印象されたものですか」

証人=「そういうことですね」 

橋本弁護人=「aとa'は先ほどのGと関係ありますか」

証人=「a'が鑑定図第七図のGに当たります」

橋本弁護人=「aの方がa'より後から付けられたのですか」

証人=「その点が実験しても何しても・・・・・・、先か後かということは、先に付くこともあるし後で付くこともあるし、どっちか決めろと言われてもちょっと困るんですけど」

橋本弁護人=「ズレがどちらからどちらへ走ったかは分かりませんか」

証人=「写真面でいって左から右へ行ったのだと思います」

橋本弁護人=「第六九図のa、a'の部分にズレがあるということは、その周辺にもズレがあるということになりますか」

証人=「そういうことはあり得るでしょうね。浮いているわけではないですから」

橋本弁護人=「どの範囲までズレが生じたか確認できましたか」

証人=「その点については忘れました」

橋本弁護人=「(前同押号の五の3の石膏を示す)その石膏でa、a'の箇所を示して下さい」

証人=「a'はこの辺(先ほどこの石膏上に鑑定図第七図のGに相当する箇所として指示したあたりを指示)、aはこの辺(右指示箇所より足の外側方向へ一センチメートル余り離れたあたりを指示)です」

橋本弁護人=「その石膏を見て、ズレたとあなたが言うところを言葉で表現できませんか」

証人=「横縞模様が切れて無くなっているので、私はその切れている場所を示したわけです」

橋本弁護人=「横線模様が切れてそこにどういう特徴が出ているのですか」

証人=「切れて無くなっているからそうである、というわけです」

橋本弁護人=「その切れたところが第六九図のaですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「(前同押号の五の2の石膏を示す)その石膏に見覚えがありますか」

証人=「あります」

橋本弁護人=「鑑定書の鑑定資料(一)(2)という石膏ですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「右足の足跡ですね」

証人=「はい。右足です」

橋本弁護人=「先ほど示した石膏とは違うのですか」

証人=「足跡が違いますね。別に印象されたものです」

橋本弁護人=「あなたの鑑定の結果によると、先ほど示した二八の一の地下足袋の右足の足跡と、今見ている石膏とは同じものである、ということになっていますね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「五の3の石膏に存在すると指摘した破損痕Gと同一の破損痕が今見ている石膏にも認められますか」

証人=「そのことは鑑定書に書いてあります」

橋本弁護人=「その石膏を見て指摘できますか」

証人=「私はこれを絶対的に同じだと鑑定書に書いた覚えはありません」

橋本弁護人=「あなたが先ほど見た石膏にあると指摘した破損痕と同じ破損痕はその石膏に認められますか、認められませんか」

証人=「今これを見せられてどうだと言われても、今は分かりません」

(続く)