アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 745

(狭山事件裁判資料より)

【公判調書2337丁〜】

                  「第四十六回公判調書(供述)」

証人=岸田政司(五十四歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課・警察技師)

                                         *

橋本弁護人=「その地下足袋に見覚えがありますか」

証人=「ありますね。私はこれで鑑定したのでしょうね」

橋本弁護人=「鑑定資料の地下足袋ですか」

証人=「そうですね。間違いないと思います。右足の親指の先、要するに足先部に切れているところがあるのと、同じく右足の足弓部というか、竹の葉模様の切れているところに見覚えがあります」

橋本弁護人=「左足はどうですか」

証人=「足弓部の外側に切れているところがあったのを覚えています」

橋本弁護人=「(前同押号の二八の二の地下足袋を示す)その地下足袋は十枚こはぜと言われていますね」

証人=「こはぜが十枚あるから十枚こはぜと言われています。こはぜは十枚のものばかりでなく、十二枚ぐらいのも七枚ぐらいのもいろいろあります」 

橋本弁護人=「どの種類のも十枚とは決まっていないわけですか」

証人=「はい、決まっていません。履き具合の関係で長さがいろいろあるのではないかと思います」

橋本弁護人=「長さと底とは何か関係がありますか」

証人=「関係ないのではないかと思います。作業しやすいからこういうものが出来ているのだと思いますが、その点については私はわかりません」

橋本弁護人=「十枚こはぜの場合は底型はこうだとか、七枚こはぜの場合は底型はこうだとかいうことはないのですか」

証人=「そういうことはないと思います」

橋本弁護人=「(前同押号の二八の一の地下足袋を示す)その地下足袋の裏にはメーカーの商標のようなものがありますね」

証人=「はい。商標だと思います」

橋本弁護人=「あなたはそれを鑑定資料に使ったそうですが、どこのメーカーのものか調査しましたか」

証人=「ちょっと記憶ありませんが、私の方としてはこれとこれとが合うか合わないかというようなことを調べるので、そういうことはあまり関係がないような気がします」

橋本弁護人=「メーカーを調査したかどうかは分かりませんか」

証人=「忘れました」

橋本弁護人=「型に流し込んで底を作るということですが、同一の型に流し込んで作った場合には同一の形の底が出来るということは常識でしょうね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「しかし、それは履く人によって変形する可能性があるわけですね」

証人=「そうですね」

橋本弁護人=「その二八の一の地下足袋は、左右同一のメーカーのものですか」

証人=「そうでしょうね、商標が同じですから」

橋本弁護人=「右のこはぜの止糸は上部より六個までは三線、下部の四個は二線である、とあなたの鑑定書に書いてありますね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「左については、上部より七個までは三線、下部の三個は二線である、と書いてありますね」

証人=「はい。その通りです」

橋本弁護人=「左右違うのは意味があるのですか」

証人=「意味はないでしょうね。製造過程において糸を付ける場合にそうなってしまったのではないでしょうか」

橋本弁護人=「あなたは左右とも同一のメーカーで作られたものと考えるわけですか」

証人=「私はそう思っています」

橋本弁護人=「底の左右はどういう風にして作るのですか」

証人=「底型を左右両方作っておいて、それによって作るわけです」

橋本弁護人=「それを合わせて一足にするわけですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「鑑定書によると、その二八の一の地下足袋の長さは約二四.五センチで、それは拇趾先端から踵部ほぼ中央後端までという風になっていますが、拇趾先端とはどこですか」

証人=「先は底のゴムの先端、最後はやはりゴムの後端です」

橋本弁護人=「それをどういう風に測るのですか」

証人=「スケールで測ります」

橋本弁護人=「すると斜めになりますか」

証人=「そうですね。しかし斜めと言っても一定の基準を作って測ればいいのではないでしょうか」

橋本弁護人=「先端、後端と言っても特定の一点を指すわけにはいかないですね」

証人=「針の穴でも突き刺すように決めるのは難しいのではないでしょうかね」

橋本弁護人=「そうすると約というのは」

証人=「そう言わざるを得ないと思うのですが」

橋本弁護人=「右足の拇趾先端に何か特徴がありましたか」

証人=「縫い付けたその外側のゴムの縁が切れています」

橋本弁護人=「(昭和三十八年六月十八日付警察技師関根政一、同岸田政司連名作成の鑑定書"記録第四冊第一〇三三丁"の鑑定図第八を示す) その左側の写真はあなたが今見た地下足袋の右足の写真ですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「その写真のHという符号で示されている部分は地下足袋のどういうところですか」

証人=「拇趾先端が切れている箇所です」

橋本弁護人=「(同第七図を示す)それは現場足跡の石膏の写真に間違いありませんか」

証人=「はい。私はそういう風に指示を受けて鑑定したわけです」

橋本弁護人=「その写真の下側に写真説明がありますが、それはあなたが記載したものですか」

証人=「関根技師が誰かに指示したのではないかと思います。私の字ではありません」

橋本弁護人=「しかし、関根技師とあなたの見解を記載したものであるわけですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「その写真説明は、あなたが今言った二八の一の地下足袋の、右足の親指先端の破損部分は現われていない、というようなことですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「それはどういうわけですか」

証人=「泥か何かが詰まっていたのではないかと思います。あるいは、泥が詰まっていなくても足跡が印象されたのちに足跡の上に周囲の泥が落ち込んだためにわからないのではないかと思います」

橋本弁護人=「いずれにしても、先端部分は現場の足跡石膏には現われていない、という風に聞いていいわけですね」

証人=「そういうことですね」

橋本弁護人=「第七回の写真の踵の部分の写り具合はどうですか」

証人=「あまりはっきりしていなかったと思います。印象された当時の泥が非常に柔らかくて、地下足袋の足跡を印象するについて好条件でなかったからこういうようなことができるのだと思います」

(続く)

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「立体足跡採取資料には石膏、ロウ、セメント、樹脂類などがある。しかし現在のところ、石膏に匹敵するものはない。

平面足跡採取資料には石膏、セルロイド溶液、アルミニウム粉末、カーボンブラック、グラハートなどがある。石膏粉は履き物、素足などに付着した泥土の印象足跡の採取に使用している。塵芥の堆積した所の足跡には適さない。

セルロイド溶液は板の間、屋根瓦などに土砂塵芥の付着から生じた足跡を採取するのに使用している。アルミニウム粉末、カーボンブラック、グラハートなどは、いずれも潜在足跡採取に使用する資料であって、採取方法は指紋採取の方法と同様である。またゼラチン紙、写真印画紙などの使用方法もある」("足跡"鑑定暮らし30年・内田常司)