アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 676

(狭山事件裁判資料より)

【公判調書2124丁〜】

                「第四十三回公判調書(供述)」③

証人=中   勲(五十七歳)

                                          *

主任弁護人=「死体と一緒にかなり沢山の証拠物が押収されていますね」

証人=「はい」

主任弁護人=「被害者の衣服はもちろんのこと、タオル、手拭い」

証人=「体液ですね」

主任弁護人=「死体と一緒に埋めてあった玉石は押収しましたか」

証人=「記憶にありません」

主任弁護人=「玉石があったことは覚えていますか」

証人=「最近の新聞等を見ると出ていますが、私は玉石のことははっきりした記憶がありません」

主任弁護人=「最近の新聞とは」

証人=「週刊埼玉という新聞です」

主任弁護人=「死体の頭の右上の方に玉石があったという事実を当時知っていましたか」

証人=「私は気が付きませんでした。現場はちょっと見ましたが発掘の詳しい状況はわかっていません」

主任弁護人=「捜査官の中には複数犯説をとる人もいたわけでしょう」

証人=「いました」

主任弁護人=「そういう人々の意見はどういうことでしたか」

証人=「意見と言っても、一人ではないのではないかというようなことで、特別にこういう風だから複数だと言っていたような記憶はありません」

主任弁護人=「その後の経過で、証拠物がかなり広い地域からばらばらに出て来ているとか、死体の埋められていた状態などから単独犯とは考えられない、との意見もあったのではありませんか」

証人=「そういう確たる根拠に立っての複数犯説は私共の耳には入っていません」

主任弁護人=「あなたの証言によると、かなり早い段階から浦和地方検察庁の検察官も捜査に加わっていたということですね」

証人=「はい」

主任弁護人=「検察庁の方は原検事が中心だったのですね」

証人=「はい。大体原検事が主任でやっていました」

主任弁護人=「原検事を含む浦和地方検察庁と警察の間に、この事件の捜査の経過を通じて意見の食い違いがあったことはありますか」

証人=「別にありません」

主任弁護人=「全然ありませんか」

証人=「強いて言えば原検事も複数ではなかろうか、私は、いや単独だ、というようなことはありましたが、根本的な意見の食い違いはありませんでした」

主任弁護人=「原検事は当初複数犯説の考え方を持っていたのですね」

証人=「私はそういう感じを受けました」

主任弁護人=「どういう根拠を挙げていたか覚えていませんか」

証人=「覚えていません」

主任弁護人=「例えば、最初の逮捕の満期が近付いたときに検察庁と警察の間に意見の食い違いは特段ありませんでしたか」

証人=「再逮捕については、私はそのものズバリという考え、原検事の方はもう少し慎重に模様をみて、ということは言っていたらしいです」

主任弁護人=「あなたが再逮捕について、そのものズバリという考えを取った理由を説明してください」

証人=「もう既に、体内からの血液型、筆跡鑑定、五十子米屋の手拭いが入手可能な状態にあったこと、月島食品のタオルが入手されているということが推定されたこと、石田豚屋のスコップを犬に吠えられずに盗むことが出来ること、その辺の地理にも精通していること、足跡が、押収されたものと佐野屋付近に印象されたものとが一致するという、群馬県警の足跡の専門家の鑑定もあって、そのものズバリで逮捕状を請求出来るという風に判断しました」

主任弁護人=「今、あなたが挙げた事柄はほとんどすべて五月二十三日、最初に石川君を逮捕する時に分かっていたのではありませんか」

証人=「分かっていません。足跡にしても捜索をして押収をして初めて地下足袋が入手できたのです」

主任弁護人=「そのほかにありますか」

証人=「血液型は大体一致するということが分かりました」

主任弁護人=「あなたはこの前は、血液型が分かった段階で石川君を逮捕したという風に述べたでしょう」

証人=「筆跡鑑定のとき既に血液型は分かっていました。しかし、血液型が一致するだけでは令状の請求はちょっとできませんから、当初の逮捕状の請求の際は筆跡が一致するということによって、少なくとも書いたのは被疑者であるということで恐喝未遂を付けたわけです」

主任弁護人=「最初の逮捕から二度目の逮捕までに新たに加わった資料に足跡があり、その他には何がありましたか」

証人=「月島食品のタオルが入手されているということが推定されるということ、これは野球の試合の参加賞に出ております。そのほか、五十子米屋の手拭いも配付範囲内である、従って入手可能である。石田豚屋のスコップも、二月二十八日までですか、そこに勤めていたので犬に吠えられないで取り得るであろう、あの辺の地理にも精通している。足跡も一致するというようなことで、一応私としては、そのものズバリで逮捕状の請求ができるのではないかという判断をしました」

主任弁護人=「あなたは前回の証言では、筆跡鑑定の中間報告を聞いたこと、唾液から血液型がわかったこと、スコップがなくなったという報告から捜査本部が石田豚屋の出入り関係に目をつけたということ、そういうことが最初の逮捕の理由になっていると言いましたね」

証人=「言いません」

主任弁護人=「言っていますよ」

証人=「言ったとすれば間違いです。最初の逮捕状請求に使ったのは筆跡鑑定、これが恐喝未遂の疎明資料で、あとは窃盗、暴行の疎明資料を付けた、という風に言ったと思うのですが」

主任弁護人=「そうすると、最初の逮捕のときは筆跡鑑定の中間報告だけを恐喝未遂の疎明資料にしたということですか」

証人=「はい」

主任弁護人=「間違いありませんか」

証人=「間違いありません。当時の疎明資料を見ていただければわかると思います。古いことですからあるいは間違っているかも知れませんが、私はそういう風に記憶しています」

(続く)