アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 675

【公判調書2121丁〜】

                 「第四十三回公判調書(供述)」②

証人=中  勲(五十七歳)

                                          *

主任弁護人=「事件の進展、推移に応じて捜査本部を移すことは通常ありますか」

証人=「あります。従来出先に居たが人員を縮小する関係で署に引上げるという場合もあります」

主任弁護人=「捜査本部には常に看板を掛けるのですか」

証人=「掛ける場合もあるし、掛けない場合もあります」

主任弁護人=「あなたは行方不明になった人が既に殺されているという風に五月三日の朝、直感したわけだが、その日の捜査は、行方不明の人を捜すということだったか、あるいは誘拐事件として扱うということだったか、それとも殺人に主眼を置いて扱おうとしたのか、その辺はどうでしたか」

証人=「私としては、この前も述べたと思いますが、そういう感じがしたので生きていてくれとの切なる願いを秘めながら両面捜査をしました。もし生きていれば救出する、殺されているかも知れないから合わせて死体の捜索をする、という両面捜査をしたと覚えています」

主任弁護人=「三日から四日にかけて、新聞などでは山狩りといわれた捜査をやっていますね」

証人=「はい」

主任弁護人=「山狩りをやった区域はかなり広いものと思われるが、中田栄作さんの家から佐野屋にかけて、更にそれから南の方ですか」

証人=「それに学校。相当広い範囲です」

主任弁護人=「先般あなたは、西武園伝々ということが脅迫状に書かれていたので所沢の署員に警戒に当たらせた、ということを述べましたね」

証人=「はい」

主任弁護人=「五月三日の朝、先ほど言った直感をしたのちには所沢の方に捜査をするように命じたことはないのですか」

証人=「確か脅迫状に西武園の池に死体が伝々ということが書いてあったと思いますが、私は所沢では署員を集めて西武園に通ずる道路その他の警戒を命ずると同時に、池が果たしてあるかどうか、そういう付近に対する警戒、捜索を、死体が発見される時点まで命じていました」

主任弁護人=「あなたの直感は不幸にして当たり、翌日死体が発見されたわけですね」

証人=「そうです」

主任弁護人=「捜査本部として、死体が発見されたという報告を受け新たな捜査方針を立てたようなことがありましたか」

証人=「はい。たまたま吉展ちゃん事件というのがあり、それまでは脅迫状からいっても営利誘拐という風に考えていましたが、死体が発見されたので、これはもう当然殺人、死体遺棄ということに切り替わってくるわけで、捜査方針も、死体に付いていた手拭い、タオルの捜査、あるいは六日になって石田一義さんがスコップを取られたというようなことも出て来て、これについての捜査、それから死体内から発見されたB型の血液型に関する捜査、それに死体埋没現場付近の地取り、聞込み、あの辺の地理に明るい者に関する捜査、という風に営利誘拐から強盗強姦殺人、死体遺棄、恐喝未遂というような捜査に切り替えました」

主任弁護人=「五月四日、死体発見後、直ちにそういう捜査方針に切り替えたわけですか」

証人=「証拠が死体にだいぶ付いていましたから、解剖が終わるとその晩の捜査会議で捜査方針をそういう風に変えたように記憶しています」

主任弁護人=「中田栄作方に差し込まれた脅迫状と封筒も犯人の手掛りには最も有効な物でしょう」

証人=「はい」

主任弁護人=「五月四日当時、それについてはどういう捜査をしていたのですか」

証人=「筆跡を収集する作業をしました」

主任弁護人=「五月四日当時、既に筆跡の鑑定に回していたのですか」

証人=「鑑定まではいきませんが、一応容疑があるような人物を洗って筆跡を収集する作業を始めたと思います」

主任弁護人=「四日の段階でですか」

証人=「筆跡の収集については死体が発見される前から捜査官としては当然やらなければならないことです」

主任弁護人=「四日の段階で容疑のある人がいたのですか」

証人=「いません。容疑者があればそういう筆跡の収集をしなさいという指示をしたと思います。私は直接の捜査は全然していません」

主任弁護人=「そういう捜査方針で捜査を進めたということになるが、捜査本部あるいは捜査に当たっている警察官の中で、この事件を多数の犯行とみるか単独の犯行とみるかについて、意見が別れていましたか」

証人=「若干そういうことがありました」

主任弁護人=「あなたは当初から単独犯説だったのですか」

証人=「私は終始単独であろうという見方をしていました。これは将田警視あたりの証言を検討して頂ければわかると思います。佐野屋の所に来たのも一人ですし、脅迫状を届けるのに被害者の自転車を使っているわけですが、同行する者がいれば他の自転車に乗って来るという感じになるわけですから、まあ、単独ではなかろうかという主張をしていたわけです」

(続く)