鑑識課・警察技師である岸田政司証人による足跡鑑定に関する証言、これに対応する写真や図面等の資料は私の手元に無く、従って法廷での弁護人との問答は調書に残された文章の引用のみとなる。これはかなりのストレスとなるが致し方ない。やや関連する写真などを載せるとし、その雰囲気ぐらいは味わいたいと思う。
(写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)
【公判調書2335丁〜】
「第四十六回公判調書(供述)」
証人=岸田政司(五十四歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課・警察技師)
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橋本弁護人=「縫付地下足袋の特色はどういうところにあるのですか」
証人=「一つは、焼込式という方法で底を作るわけです。たとえば、二十四センチのもの、二十五センチのもの、二十六センチのもの、いろいろの底の型を持っていて、その中に生ゴムを入れて焼き込んで作るのです」
橋本弁護人=「型に流し込んで作るのですか」
証人=「そうです。焼き込んで作るので、それを焼込式と言います」
橋本弁護人=「縫付とはどうして言うのですか」
証人=「甲の布と底とをミシンか何かで縫い付けて作るからです」
橋本弁護人=「切抜地下足袋の特色はどうですか」
証人=「大きな底の模様板を作り、それを底型に切り抜いて、それと甲の布とを貼り付けて作ります。縫付地下足袋の場合は底を見ると縫い付けた糸が見えますが、切抜地下足袋の場合はそれがありません」
橋本弁護人=「縫付地下足袋の足跡と切抜地下足袋の足跡とを見た場合、一見して相違が分かりますか」
証人=「分かります」
橋本弁護人=「(東京高等裁判所昭和四十一年押第一八七号の二八の二の地下足袋を示す) その地下足袋は縫付地下足袋ですか」
証人=「そうです。底を見ると糸が見えます」
橋本弁護人=「足跡を見て、縫付地下足袋か切抜地下足袋かが分かるのは、縫い付けた糸の痕跡が足跡に残っているからですか」
証人=「残っているというのではありません。底に泥が付いていればそれは残りませんから」
橋本弁護人=「足跡にどういう特徴が出るのですか」
証人=「模様が出ます」
橋本弁護人=「模様だけで縫付地下足袋と切抜地下足袋の違いが分かりますか」
証人=「分かります。縫付地下足袋の底は焼込式という製法なのですが、一見して分かります。というのは切抜地下足袋の底は同じ模様のゴム板を長く作ったのを切り抜くのですから縁取りがないのが普通です。縁取りまでを切抜で作るのは中々むずかしいと思います」
橋本弁護人=「縁取りが切抜地下足袋にはないということが一つ、それから底の模様に相違がありますか」
証人=「切抜地下足袋の方は、底の一番端まで同じ模様がある、ということがあります。今示されている地下足袋の底には横縞がたくさんありますが、その一番外側、すなわち底の周りに縁が付いています。こういう底は焼込法で作られ、地下足袋の場合、縫付になっているのが多いです」
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裁判長=「焼込法で作った底を甲の布に接着剤で付けることは出来ますか」
証人=「それは出来ます」
裁判長=「そういう風にして作った地下足袋も実在するのですか」
証人=「私の経験した範囲内ではありません」
裁判長=「切り抜いた底を甲の布に縫い付けた地下足袋はどうですか」
証人=「それも私は見た経験はありません」
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橋本弁護人=「(前同押号の二八の一を示す) それも縫付地下足袋ですね」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「あなたの鑑定書には職人足袋とも書いてありますね」
証人=「これは職人が履くことが多いのです。建築現場などで履くことが多いです。それで、一般的に職人足袋と言っているところもあります」
橋本弁護人=「職人というのは大工とか鳶などですか」
証人=「そうです。仕事師とかね」
(続く)