アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 746

「石膏の使用方法(採取方法)は、なめらかなアスファルトなど、いずれの平面を問わず足跡があれば、まずその周囲に土砂、または石膏粉、取りワク、その他これに類するものを利用して、適度の高さで囲うことが必要である。水に溶解する石膏の濃度はふつう凹凸地面の足跡採取のよりも、やや濃いものがよい。石膏液をかき混ぜ粘着状態を呈したさい、凝結の寸前の時期を見計らい足跡型に注入する。

石膏液が凝結を始めて三、四十分以上経ってから足跡を採取するのが適当である。こうすれば石膏が壊れずに取れる。ふつう凹凸がある地上の足跡を採取する時機よりもしっかり固まってからゆっくり取り上げる方がよい。

採取後は足跡が残った土砂その他の性質により日時の経過にしたがって消滅する恐れがあるときは、印象物質の部分にクリヤーラッカーを塗り、さらに足跡全面に特速乾燥用ニス(別名ツヤ出しニス)を塗っておけば最適である。

ただし、足跡印象面の物体の性質によっては、乾燥のため足跡模様が肉眼でよくわからないような場合も生ずる。たとえば乾燥した土の様な、いわゆる色素の少ない付着物質は、写真撮影して鑑定する場合には、水分を与えて特徴を再現する必要を生ずることもある。この様な場合、ニス類の使用を避けた方が良いようである」("足跡"鑑定暮らし30年・内田常司)

【公判調書2339丁〜】

               「第四十六回公判調書(供述)」

証人=岸田政司(五十四歳・埼玉県警察本部刑事部鑑識課・警察技師)

                                        *

橋本弁護人=「あなたは現場の土壌を見たことがありますか」

証人=「あります」

橋本弁護人=「現場まで行って見たのですか」

証人=「現場まで行って見たのではありません」

橋本弁護人=「現場から採取してきた土を見たわけですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「あなた自身が採取したのではないわけですね」

証人=「はい。私は採取していません」

橋本弁護人=「現場の土壌の土性はどうでしたか」

証人=「泥は、さらさらしたいい泥ではありませんでした。肥料か何かを畑にやったごみみたいなものが混じっていたように記憶しています」

橋本弁護人=「鑑定書の『三、鑑定経過』中の『2.対照足跡の採取実験』の頁に『鑑定資料(一)の比較検査資料とするため、埼玉県警察本部構内において、鑑定資料(二)の地下足袋を使用し砂土質状および壌土質状の地面および足跡採取用油土等に、現場足跡とほぼ同一条件で足跡を印象し、これを石膏で採取した。』と書いてありますが、この意味は、現場と同じような条件を作って足跡を採取したということだと私どもは解釈していたのですけれども、どうですか」

証人=「現場足跡を取った状態はどういう風であったのかを取った人から聞いて、そういうような泥の形を作ってそこに印象したわけです」

橋本弁護人=「砂土質状と壌土質状の二つの地面を作ったのですか」

証人=「砂土質状というのは、埼玉県の荒川付近に砂と泥の両方が割合よく混じった、足跡を採取するのに割合具合のいいような砂土というのがあるわけですが、それを利用したわけです。壌土というのは県庁構内にあった泥を使ったわけです」

橋本弁護人=「砂土と壌土というのは粘土の含有量の違いですか」

証人=「そうですね。泥の性質の違いですね」

橋本弁護人=「もう一つ植土質状というのがあるでしょう」

証人=「それは専門的な言葉であって、これが植土でこれが壌土という風には本当のところちょっと分からないでしょうね。その差ははっきりしているわけではないですから。中間のものもあるでしょうし」

橋本弁護人=「しかしあなたの鑑定書には二種類出ていますね」

証人=「一応そういう風に分けたのです」

橋本弁護人=「現場の土は砂土でもなければ壌土でもなく、むしろ植土質状ではありませんか」

証人=「畑だからそういうことになるでしょうね」

橋本弁護人=「ですから、有機物の腐食したもの、肥料などが多分に含まれている土壌であると思われますが」

証人=「私は土質学者ではないから、そういう詳しいことは本当のところ分かりません」

橋本弁護人=「鑑定書に『現場足跡とほぼ同一条件で足跡を印象し』たと書いてあるのは」

証人=「要するに同じような泥の形を作っただけです」

橋本弁護人=「泥の性質は問題にしていないのですか」

証人=「性質ももちろんです。印象されたといわれるところの泥を持って来たり、あるいは砂土を持って来たり、また、県庁構内にある赤土みたいなところとか採取用の油土とか、そういうものをいろいろやってみて、いろいろの条件を作ってやったわけです」

橋本弁護人=「足跡は一般にどういう土性に印象されやすいのですか」

証人=「柔らかいところなら何でも付くでしょう」

橋本弁護人=「海岸の砂浜でも付きますか」

証人=「付きます」

橋本弁護人=「すぐ崩れてしまうのではありませんか」

証人=「それは乾いているからです。湿度の関係です」

橋本弁護人=「土性だけでなく、天候、湿度などにも影響されるわけでしょうね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「土の性質によって足跡の印象状態はかなり相違するでしょうね」

証人=「はい。違います」

橋本弁護人=「鑑定書に添付されている写真によると非常に鮮明に印象された足跡と不鮮明な足跡とがありますが、それは石膏の取り方の巧拙にもよるのでしょうけれども」

証人=「石膏の取り方以上に印象状態ですね。石膏というものは印象状態そのものをズバリ取るものですから」

橋本弁護人=「印象状態は土性によって大きく左右されるのではありませんか」

証人=「湿度などいろいろな関係がありますから一概に言えないと思います」

橋本弁護人=「(同第十三図及び第十四図を示す)第十四図は現場から採取してきた土に印象した足跡ですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「第十三図の方は何に印象したのですか」

証人=「これは砂土です」

橋本弁護人=「湿度等が同じ条件で印象しても印象状態が明瞭に違うのではありませんか」

証人=「湿度によって相当違ってきます」

橋本弁護人=「湿度というのは何の湿度ですか」

証人=「土壌に含まれている湿度です」

橋本弁護人=「水分のことですね」

証人=「そういうわけです」

橋本弁護人=「土性が違えば水分も違うのでしょう」

証人=「水分の違いはあるわけでしょうけれども、水が含まれている量によってそういうようになるのではないでしょうか。雨が降った場合とか、水を撒いた場合とか、その時によっていろいろ違うと思うのですが」

(続く)

本件における現場足跡と押収地下足袋の大きさの差(平均値)。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用。