アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 710

(この写真は芋穴であるが、大野喜平作成の実況見分調書添付写真と同一かどうかは確認出来ない。従ってイメージとして載せておく。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)

【公判調書2234丁〜】

                  「第四十四回公判調書(供述)」

証人=大野喜平(六十歳・会社員)

                                         *

橋本弁護人=「じゃ、次の質問に移りますが、あなたが実況見分をした時に、芋穴の蓋はどうなっておりましたか」

証人=「蓋は・・・・・・・・・」

橋本弁護人=「開いていましたか、閉まってましたか」

証人=「私の感じではコンクリートのちょっと厚いものが二枚で、こう合わさって蓋になるようになってまして、それが、全部完全に閉まってはないんですが、何分開きかに開いてあったというような、ちょっと扇型のように開いてあったと思うんですが」

橋本弁護人=「それは第一発見者が発見したときにそうなっておったんですか、それとも、その後誰か手を加えてそうなったんですか」

証人=「そこまで私が言えないと思うんですがね。ただ、私が見たときには扇型のように、ちょっとこう半開きになっていたということで、第一発見者が見たとき、どうかということは聞きませんでした」

橋本弁護人=「しかし、あなたは芋穴の実況見分もしておるわけでしょう。この記載を見ますと芋穴についても書いてありますからね、だから第一発見者が誰であるか、そして第一発見者が見たときに、芋穴の蓋はどうであったかという確認をしたんじゃないですか」

証人=「それは第一発見者から、それは報告すべき事項じゃないんでしょうか。あるいはその後、その状態が変わるかもわかりませんから、開き具合等がですね。第一発見者が見たものは第一発見者が真正のものを報告すべきであって、私は私の見たときの状態を記録すればいいんじゃないかと思うんですが」

橋本弁護人=「あなたの調書を見ると、こういう風に書いてありますよ。『ビニールの風呂敷一枚、及び棍棒を発見した旨の報告に基き、同隊員の指示する貯蔵穴を見分して発見当時の状況を再現した』と。再現したんじゃないですか」

証人=「再現したというのは、こんな風だったんだという風に、棒と風呂敷の関係位置、そういうものをちょっと見たように置いて写真を撮ったということで、その写真を撮ったと思うんですね」

橋本弁護人=「そうすると、芋穴の中の風呂敷と棍棒について再現をしたと」

証人=「風呂敷と棍棒についての関係位置を、もう一度置いて、そして写真を撮ったという記憶があります」

橋本弁護人=「そうすると、芋穴の蓋の状況については再現しなかったんですね」

証人=「当然、こんな風になっていたんだということで再現したように記憶します。再現という言葉はあれですが、したと思います」

橋本弁護人=「その再現したときの蓋の状況はどうだったですか」

証人=「はっきりは憶えてませんけど、それは写真で撮ってありますから、何かこう、一方が余計開いたような扇型のように記憶があるんです」

橋本弁護人=「つまり、蓋が開いているということですね」

証人=「ええ、合わさっていないんです。多少開いておるわけです。角度は分かりません」

橋本弁護人=「多少と言っても、何センチくらいかお分かりでしょうか」

証人=「古いですからね、約十年前、八年も前ですから」

橋本弁護人=「先に戻りますが、死体を発見したとき着衣は濡れておりましたか」

証人=「濡れていました」

橋本弁護人=「これは感じになりますが、どの程度濡れておったんでしょうか」

証人=「どの程度というのは」

橋本弁護人=「たとえば、びっしょり濡れておったとか、少し濡れておったとかですね」

証人=「かなり濡れておりましたですね」

橋本弁護人=「どの部分でしょうか、濡れておったのは。つまり、平均的に着衣の全部が濡れておったのか、あるいは、どこか特定の部分が濡れておったのか」

証人=「乾いていたというところはなかったように思います」

橋本弁護人=「そうすると全体的に濡れておった」

証人=「全体的には濡れておりました」

橋本弁護人=「特に濡れておったという部分はあるんですか、濡れ方の多いところと少ないところはあったんじゃないでしょうか」

証人=「着衣でですか、荒縄は特に濡れておったという記憶はあるんですがね。着衣については、まあ乾いたところはないですね」

橋本弁護人=「私の質問しておるのは、どこか特別に濡れておったところがありましたかと聞いておるんです」

証人=「記憶ないですが、着衣に比べて荒縄のほうがひどく濡れておったということは記憶があります」

橋本弁護人=「死体の髪の毛の濡れ具合はどうですか、記憶ありませんか」

証人=「なにしろ泥まみれですからね、乱れていたということは事実ですね」

橋本弁護人=「泥まみれで、髪の毛に泥が付着しておる」

証人=「外側は当然付着してますね」

橋本弁護人=「髪の毛の中はどうですか」

証人=「中というのは皮膚ですか」

橋本弁護人=「皮膚と接する部分ですね、毛髪の中です」

証人=「記憶ないということで、仕方ないですね」

橋本弁護人=「それから、もう一点お伺いして終わりますが、死体の左右の大腿部に擦過傷があったという記載があるんですが、あなたの作成した実況見分調書にね。その擦過傷はいいんですがね、あなたが発掘したときに、その擦過傷のあった部分は着衣で覆われていたいたんでしょうか、それとも、裸にむき出しになっておったんでしょうか」

証人=「学生服のスカートが上に、腰の辺まで、こういう風に上がっていた、伏せてたですから、上がっていたようで、その傷の部分が出ていたかどうかという問題ですか」

橋本弁護人=「そうです」

証人=「それは下に女性の下着があった、ように思うんですがね。だから、直接出ていたということはちょっと考えられないと思うんです。女性の下着が少し下がっていたように、膝か、この辺まであったように思うんですが」

橋本弁護人=「下着というと、パンツとシミーズがありますね」

証人=「パンティーですね。ですから、膝のちょっと上ぐらい、もうちょっと低目にあったですから、傷の部分が出ていたということは考えられません。また、そういう状態ではないですから、とても、ひどい中ですから」

橋本弁護人=「そうすると、大腿部にも泥と言いますか、土が付着していましたか。死体を掘り出しましたね、そのときの状況で」

証人=「・・・・・・・・・」

橋本弁護人=「それじゃ質問変えましょうね。先ほど上着に泥が付いているのをご覧になりましたね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「ああいう泥の付き方と、死体の大腿部についた泥の付き方は、大体同じものですか、それとも違いますか」

証人=「上着に付着した土の方が少し濃いものがあったように思うんですがね、それははっきりしませんですがね」

橋本弁護人=「先ほどの上着に付いておった泥というのは、単に土を上からかけたから付いた泥ではないような、あなたの言う土の上を引きずったために付着した、どういう風に引きずったかは別として、引きずったために付着した泥のようであると、こういう意味の表現でしょう」

証人=「そういう風に見たんですね」

橋本弁護人=「大腿部の方はどうだったですか」

証人=「大腿部というのは、女性の下着がそこにあるから、そんなに泥が付いておったということはちょっと考えられないんですが。女性の下着があったわけですから」

橋本弁護人=「いや、私が聞くのはですね、この大腿部に擦過傷がありますね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「そういう記憶ありますか」

証人=「それが、掘ったときの現場で、そういうものを見るほどの、見やしなかったんです。そういうことをそこでやれる場所じゃないんです、また」

橋本弁護人=「あとで、擦過傷であったということは分かったでしょう、左右の大腿部にね」

証人=「はいはい」

橋本弁護人=「ですから、死体発掘したときに擦過傷があったかどうかは私は聞いていないんですがね。発掘したときに、その擦過傷があった部分の泥の付着状態がどうであったかということを聞いておるわけです」

証人=「正確な記憶はありませんですね。全般的に泥は付いていたんですが、正確な記憶はありません。着衣の下の方はそうひどく泥が付いていたとは考えられません。着衣があったんですから、下着は」

                                         *

裁判長=「ちょっと、念のために、これは今後再びあなたを法廷に呼び出す機会があるとは思われないので、あなたが今日、芋穴のことを言ったんでね、三つばかり、あなたの実況見分調書に写真がある、これを見せます(記録第二冊五五八丁、昭和三十八年五月四日付、司法警察員大野喜平作成の実況見分調書添付の現場写真十三号、十四号、十五号を示す)。それによるとあなたが実況見分するときには、最初発見したときの原状に復させてやったつもりのようなことを先ほど言ったんじゃなかったかと思うんだけれども、そうであったかどうかということの記憶が蘇りますか。あなた、何か扇状に少し開いていたとか何とか、原状に復させてやったつもりのようにも聞いたんだが、あるいは、正確でないかも知れない。その写真の三枚を見て、最初の方のを見ると、ちょっと遠くから撮っているね。これは」

証人=「これは道路の方から撮っておるんですね」

裁判長=「そこから見ると、何か片方がちょっと広くなって、片方はちょっと細くなっているように見えるんだがね。その次のは明らかに食い違っているからね」

証人=「はい」

裁判長=「ぴたりと蓋が塞がっているのもあるし」

証人=「これはこういうものなんだという一つの」

裁判長=「それは最初見たときの写真じゃないね。最後のはね。二枚目と一枚目のだ。一枚目のは、あなたが原状に復させて最初見た状況を撮影したものと思うのかどうかということだがね。まあ、しかし、いずれにしても、あなたより先に見た人があるんだということですがね。特にそれについて、こうだったということを思い出すというあれはないね」

証人=「ありません」

(続く)