アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 705

(農道に埋められていた遺体の頭部に接する位置から、人頭大の玉石が掘り出されている。小石さえも見い出し難い関東ローム層の土質からみて、現場にたまたま存在した石とは考えられないという。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)

【公判調書2219丁〜】

                    「第四十四回公判調書(供述)」

証人=大野喜平(六十歳・会社員)

                                         *

橋本弁護人=「それでは実況見分調書を更に読んでいきますと、次にはこう書いてあるんですが、『死体の右側頭部に接して人頭大の玉石一個を発見し』こう書いてあるんです、これは事実ですね」

証人=「事実です」

橋本弁護人=「この玉石は押収してありますね」

証人=「あるように思います」

橋本弁護人=「押収調書を見ますと押収になってますから間違いないでしょう」

証人=「はい」

橋本弁護人=「事件に関係があると思ったから押収したんですね、玉石は」

証人=「関係があるかないかは分かりませんが、その付近にないものだから、その付近にないものは、珍しいものがあったから特異なものがあったからこれは記録に留めたほうがいいんじゃないかと、これは私の自主的な考えです」

橋本弁護人=「それは大変結構な考えですが、玉石については事件に関係があるかどうか分からないが特異なものであったから押収したと」

証人=「私のこれは自主的な考え方です」

橋本弁護人=「ビニールについては事件に関係がないと思うから押収しなかったと」

証人=「その時はそういう感じです」

橋本弁護人=「玉石のあった位置ですね、更に聞きますが、死体の右側頭部に接してと、こう書いてありますね。これは文字通り死体の頭にくっついたということですか」

証人=「直接くっついてはいないように思いますね。皮膚に直接くっついたという、字句をどういう風に解釈されるかわかりませんが、私そういう意味に書いたんじゃ、そういう風に受け取られれば仕方がないんですが、多少の間があったように思いますね」

橋本弁護人=「実況見分調書の解釈をやっているんじゃないんですから事実どうなっていたんですか」

証人=「感じですからね、そこへ行くと記憶がある程度十年近くもなりますとね、とにかく掘ってる内にそういう子供の頭くらいの大きさの石が出て来たわけですね。頭部の右の脇のほうから、まあ、上は上ですねえ」

橋本弁護人=「上というのは」

証人=「幾分頭より上の地点であるということは事実です」

橋本弁護人=「頭の上にのせてあったということですか」

証人=「のせたという言葉もそうはっきり言いかねるんですが、掘っている内に石のほうが先に見えたんだから上の位置であると、しかも右側だったということは言いきれると思います。石のほうが先に出たんですから、頭よりも。接しという言葉からすれば近かったということは間違いないと思いますね」

橋本弁護人=「この石は押収をして目方を測りましたか」

証人=「記憶ないですね」

橋本弁護人=「実況見分調書のあとのほうに、玉石は二十センチ×十三センチで高さ十三センチ重さは四.六五キロという風に書いてあるんですが、押収目録のほうには縦二十センチ、横十六センチ、高さ三(注:1)センチ、目方六.六五キロと書いてあるんです。どうしてでしょうか」

証人=「・・・・・・・・・」

橋本弁護人=「いずれにしろ目方は測ったんじゃないでしょうか、断定的にキログラムでぴったりと数字が出ているところを見ますと」

証人=「あるいはそうかも知れませんが」

橋本弁護人=「ただその目方が実況見分調書と押収目録で違うのはどうしてなんでしょうかね、どっちが正確なんでしょうか」

証人=「違ってますか」

橋本弁護人=「違ってるんですよ」

                                          *

裁判長=「両方ともあなたの名義になっているが四.六五キロと、押収目録のほうには六.六五キロということになっているが、自分で見て下さい」

証人=「(証人手に取って記録上、確認した)そうですね」

                                          *

橋本弁護人=「どっちが正確か、またどうしてそういう調書と目録で違っているかわかりますか」

証人=「・・・・・・・・・、まあ膨大な記録ですからそれは記録する上におけるエラーがあったということを認めざるを得ません」

橋本弁護人=「エラーであることはわかりますがね、明白に食い違っているんですから」

証人=「ええ、エラーです」

橋本弁護人=「どっちが正確なのか、ということを聞いているんです」

証人=「それは石ですから測ればはっきりすると思います。私には分かりません、どっちが正確であるかは」

橋本弁護人=「この石は事件に関係あるかも知れないし、ないかも知れないと思ったんですね、それで押収したんですね」

証人=「まあそうですね」

橋本弁護人=「事件に関係があるということは、つまりどういう風に関係があると思ったんですか」

証人=「それは付近にないものだったからです。周囲に同じものがなかったから」

橋本弁護人=「犯人が何か特別にどこから持ってきたとか」

証人=「そういう風に周囲にないものだから一応それを領置したんじゃないかと思いますね」(続く)

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(注:1)原文となる公判調書には押収目録にある玉石の高さが三センチと印字されているが、これでは実況見分調書記載の高さ十三センチに対し相当な誤差が発生する。そこでその調書の該当箇所を拡大してみると、

"高さ"と"三"との間に、一マス分空きがあることが確認できる。つまり"十"という文字が脱字している可能性が高いと思われるのだ。これはあくまで推測であるが、しかしその推測を補強するものとして次の意見を挙げておこう。今回引用している法廷での問答が、もし調書通り(高さ三センチ)の内容であれば、当然この玉石の高さの測定値についても大野喜平は追及を受けることになるが、弁護人は玉石の重量の誤差のみを問題にしていることだ。となると、つまり法廷では実際には実況見分調書、押収目録共に玉石の高さは十三センチとして問答が進行していたと考えられ、その速記録が調書化される段階で、反訳ミスなり印刷ミスが起きたと、こう私は推測するのであるが。