アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 706

(掘り出された遺体の縄の状態。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)

【公判調書2222丁〜】

                  「第四十四回公判調書(供述)」

証人=大野喜平(六十歳・会社員)

                                         *

橋本弁護人=「さらに実況見分調書を読んでいきますと、被害者の服のことが出ているのですが、『服の長さは〇.五七m、袖の長さは〇.五mで地面を引きずった形跡が認められた』と書いてあるんです。これもよく分からないんですが、地面を引きずった形跡というのは服に付いておったんですか、袖のほうに付いておったんでしょうか。あるいは両方に付いておったんでしょうか」

証人=「その、そういう字句が残っているということはかすかな感じですがほかの部分よりか著明に濃く付着しておったということですね」

橋本弁護人=「何が付着しているんですか」

証人=「粘土のような土が強くそこに他の部分よりかある一定の部分に強く泥が付いていたということなんです。普通の状態じゃないんですね」

橋本弁護人=「普通の状態、つまりこの死体は穴の中に埋めてあったんですね、だから泥なんかが付くのは普通ですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「そうすると穴の中に埋めてあった泥なんか以外の泥、あるいはそういうものが付着するという意味なんですか」

証人=「そんな風な感じだからそこにそんな風に表したように思うんですね。埋める時のその土じゃない土が強く厚く一部に走っているようにあったということなんです。見た感じがですね」

橋本弁護人=「しかし地面を引きずった形跡と言いますと、泥が付くという以外にも例えばその部分が擦り切れておるとか破れておるとか皺が寄っておるとかいう風にも考えられますけれども、あなたの認めた地面を引きずった形跡というのは粘土のようなものが余計にくっ付いておったということだけですか」

証人=「見た感じでそういう風に感じたから特にそういう風に記録したという風に了解して頂きたいと思うんですね」

橋本弁護人=「いや、私の聞いているのは地面を引きずった形跡が認められたと書いてあるけれども、どのような根拠があって地面を引きずったような形跡が認められたのか、これについては書いてないんで」

証人=「形容ですからね、それは。ような、というのは形容でしょう。泥の付着状態を形容したわけでしょう。私は事実は分からないんです」

橋本弁護人=「それじゃ今の部分の少し前を読んでみましょうか」

                                          * 

裁判長=「証人にそこを見せて、読んでもらって下さい(記録第二冊中大野喜平作成実況見分調書中、三、死体発掘の実況(2)、五六四丁を示す)」

                                         *

橋本弁護人=「『上着の表裏とも土が付いていたが、背部の上半分及び両袖の背面に土の付着が著しくその他の損傷は認められない。服の長さは〇.五七m、袖の長さは〇.五〇mで地面を引きずった形跡が認められた』となっていますね」

証人=「ええ、なっておりますね」

橋本弁護人=「ですから地面を引きずった形跡は何で認めたのか、ということを聞いているんです」

証人=「それは私が実況見分をやったんですから私が感じたことなんで、それが不当であると言われれば甘んじて受けます。その字句が不適当であると言うならばですね」

橋本弁護人=「そう先走って言わないで下さい、不当なんて言ってませんので・・・・・・」

証人=「私はそういう風に感じました、一般の状態と違うんです。その泥の付き具合からして」

橋本弁護人=「あなたは地面を引きずった形跡を認めたんですね」

証人=「それは粘り付くような、ただ単に泥を付けたというんじゃなくて粘り付いたような感じなんです。他の部分とは違ったそういうところが著明に出ているんです。強くね」

橋本弁護人=「(東京高等裁判所昭和四十一年押第20号の12号紺サージ背広学生服上着を示す)あなた仰る服というのはこれですか」

証人=「と思います」

橋本弁護人=「あなたが調書に引きずった形跡が認められるというのはどの部分でしょうか」

証人=「この部分はこんなものじゃないです。もっともっと粘り付くようにねっとりとこの部分は付いていたんです」

橋本弁護人=「この部分というのはどこでしょう」

証人=「肩や左袖の下部に当るところです。このところは他のところにはないでしょう。その何もないところに比較してねっとりと粘り付くように強く痕跡があったんです。今でも分かるじゃないですか、これ全然泥のないところがあるでしょう。背中の上の部分、左腕の後ろ右腕の肘から下の部分が特にですね」

橋本弁護人=「それに関連してですが、その上着のボタンのことですが、ボタンについて異常を認めましたね、あなたは」

証人=「これは古いことだから記憶が完全じゃないですが、一つくらい欠損しておったようにも思うんですね」

橋本弁護人=「今の、シングル三つボタンのうち上より第一第二ボタン二個が脱落していたと」

証人=「ええ、何か欠損していたように」

橋本弁護人=「二つ無かったんですか」

証人=「一個か二個か・・・・・・」

橋本弁護人=「一個は被害者の自宅で解剖する際に取れてしまったというような意味のことを一審で言っておるんですね。そうですか、事実は」

証人=「現場では一個と思ったからそうなるかも知れませんね」

橋本弁護人=「あなたは現場で発見した時には脱落しているボタンは一個であると、こういうことになるわけですね」

証人=「現場というのは掘ってから一応自宅へ持って行っていろいろな状況を調べましたからね、途中一応輸送を多少してますからね」

橋本弁護人=「あなたが死体を掘り出したでしょう。着衣を見分したでしょう」

証人=「ええ。でもそこではあんまり詳しくは、そこではね、野っ原ですからやらなかったんです」

橋本弁護人=「死体を発掘した時にはボタンは一つであったか二つであったか三つであったか確かめてなかったと」

証人=「そこまではやらなかったけど、詳しくはやらなかったということなんです。それを一度移動してから詳しくやったということなんです」

橋本弁護人=「もう一度見て下さい。ボタンの状況はどうですか」

証人=「二個無くなってますね」

橋本弁護人=「あなた実況見分調書を作成する際作成した押収目録によりますと、ボタン一個を押収しておるんですよ。そうしますと最終的にはこの上着のボタン一個は紛失しておるということになるわけですね。一個は現に上着に付いておりますから、一個はあなたが押収しておるからそうすると一個が無くなったことになる」

証人=「そうなりますね」

橋本弁護人=「ところでもう一度確認したいのは、あなたが押収したボタンは一体どこから出て来たんでしょうか、ということなんですが」

証人=「・・・・・・・・・、自宅に行った際、見分する時じゃないかと思うんですが、記憶ですから」

橋本弁護人=「一審でもあなたそう証言しておりますね」

証人=「そうだと、思うんです」

橋本弁護人=「そのボタンの点について死体を発掘した穴、あるいはその付近の芋穴がありましたね、そこを意識して調べたということはないんですか」

証人=「意識してというのは」

橋本弁護人=「ボタンが一個取れている以上はその付近に落ちているかも知れないということがあって、捜索をしたということはありませんか」

証人=「小さなものですからね」

橋本弁護人=「意識してなかったんですか、その段階ではボタン一個紛失しているということは」

証人=「その穴は同時にありましたからね」

橋本弁護人=「私の聞いておるのは実況見分をした際にボタン一個紛失しているということをあなたは認識しておったんですか」

証人=「穴のそこでは認識しておりませんでしたから、自宅に行った時には認識しておりますね。そこでは、その場ではそこまでの細かいことはやらなかったんです」

橋本弁護人=「そうすると芋穴や死体の発掘した穴、その穴についてボタンを意識して調べたことはないということになりますね」

証人=「・・・・・・」

橋本弁護人=「死体を被害者の自宅まで運んで解剖に付する段階まで来て、無いということが判明したんでしょう」

証人=「確実にはですね」

橋本弁護人=「死体を掘り出している段階、あるいは死体掘り上げた現場で、その段階ではボタンが紛失しているということはまだ気が付かなかったんでしょう」

証人=「気が付かなかったというのがいいと思いますね。その段階ではボタンがいくつ取れているかということまで詳しく見分しなかったというのがいいように思うんです」

橋本弁護人=「事実はどっちだったんでしょうか」

証人=「その時は記憶しておりません。その段階では」

橋本弁護人=「ボタンのことを意識しておったか、おらなかったか、その段階では記憶しておらないと」

証人=「ええ、そうです。その段階では」

(続く)