(被害者の遺体を発掘する埼玉県警機動隊員ら。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)
【公判調書2206丁〜】
「第四十四回公判調書(供述)」
証人=大野喜平(六十歳・会社員)
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裁判長=「あなたの経歴を簡単に聞きますが、警察官になったのはいつですか」
証人=「昭和十年十月でございます」
裁判長=「何に」
証人=「埼玉県巡査を拝命しました。それから外務省に昭和十三年頃出向しまして、領事館警察として中華民国に九年くらいおりまして」
裁判長=「いつまでいたんです」
証人=「終戦が二十年ですから、二十一年三月頃引揚げて参りました。それで再び埼玉県警察へ戻ったような格好です」
裁判長=「どこに」
証人=「埼玉県の小川警察です」
裁判長=「そこで何を」
証人=「警備の主任です。公安主任巡査部長です」
裁判長=「警備主任ですか」
証人=「その頃は公安主任と申しておりました。それからそこに、二年くらいで埼玉県加須警察署に移りました」
裁判長=「二年というといつになりますか」
証人=「利根川の水が出た時ですから二十三年です。そして加須警察の大越巡査部長派出所ですが、幹部派出所そこに四年おりましてからのち埼玉県越ヶ谷警察に移りました」
裁判長=「それは何年頃ですか」
証人=「二十七年頃越ヶ谷警察署に警ら交通主任で同じく巡査部長ですが、それから次に五年くらいおりましたですが、年数は忘れましたが所沢警察に転勤になりました」
裁判長=「大体いつ頃になりますか」
証人=「五年くらいおりましたから三十二年頃ですねえ、所沢警察に参りましてやはり警ら交通主任です。それからそこに二年くらいおりましたが、それから狭山警察署に転勤しました」
裁判長=「狭山警察署に行ったのはいつ頃ですか」
証人=「所沢に二年くらいですから・・・・・・、こういうことは聞かれると思ってなかったからどうも・・・・・・」
裁判長=「それは忘れてもいいがあなたの答えによってあなたの記憶の程度はどれくらいのものかということを確かめる一つの目的もあるんですから、それは構わないんです」
証人=「ああ、そうですか」
裁判長=「何月としては覚えていませんね」
証人=「はあ」
裁判長=「三十二年頃所沢に行って二年くらいしてのち」
証人=「警部補に進級しましてそして狭山警察に参りました」
裁判長=「どういうことをやったんですか」
証人=「刑事部防犯係長ですね。それから辞めたのが三十九年ですからそれまで狭山警察署におりました」
裁判長=「狭山警察署ではどういうことをやりましたか、同じことばかりですか」
証人=「同じです」
裁判長=「刑事部防犯係長として警部補として終始したんですか」
証人=「そうです」
裁判長=「三十九年何月に辞めましたか」
証人=「十一月です」
裁判長=「そして、あとはどういう経歴ですか」
証人=「あとは浦和市の中央自動車教習所で法令の指導をやっております」
裁判長=「自分で運転しますね」
証人=「やります」
裁判長=「それから現在に至るんですか」
証人=「そうです」
裁判長=「今の浦和市中央自動車教習所で指導員をやっておる」
証人=「そうです」
裁判長=「今の地位はどういうのですか』
証人=「学科の指導課長ということです」
裁判長=「そこの学科方面では一番上ですね」
証人=「そうでございます」
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橋本弁護人=「善枝さん殺し事件の捜査に関与しましたね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「五月四日付で死体発掘現場の実況見分調書を作成しておりますね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「それ以外にこの事件で捜査を担当したことありますか。実況見分調書を作成したこと以外に」
証人=「やっております」
橋本弁護人=「それはどんなことですか」
証人=「やはり一般的な聞込みとか、そういう捜査をやりました」
橋本弁護人=「あなたが担当して現に聞込みをやったというのはどんな事項についてですか」
証人=「まあ、はっきりと記憶したものはありませんが、その都度やったことは報告書にして署長に提出しているわけです」
橋本弁護人=「勿論その都度上司から指示をされて、それによって聞込みをしたということになるわけですね」
証人=「その都度、ですか。その都度指示を受けてというより、捜査というのはある程度ですね、聞込みですからその結果を報告するということで、その都度細かい指示をされる場合もあるし、されない場合もありますね」
橋本弁護人=「一般的な聞込みと仰いましたが、もっとわかりやすく言って頂くとどういうことでしょうか」
証人=「具体的に例えばまあ、二人一組になって、捜査に従事するわけですから、そうして特異なことは報告書にしたためて捜査本部に報告すると、こういう役目ですね」
橋本弁護人=「あなたが今、記憶している範囲ではどういう事項について捜査報告書を作成して提出したか仰って下さい」
証人=「具体的な細かいことは忘れましたですね。捜査記録に残っているわけですから、そういうのは我々の不完全な記憶によってこの神聖な法廷で証言するということ自体に・・・、具体的に申上げられないし、一切そういうことは記録が残っておるわけですからね」
橋本弁護人=「一切の記録を弁護人の我々は見ることが出来ませんので、だから聞いておるんです」
証人=「やむを得ませんなそれでは・・・・・・」
橋本弁護人=「今、あなた一般的な聞込みに従事したことがあると仰るわけでしょう」
証人=「えっ」
橋本弁護人=「どういう事項について聞込みをなさったかという問いに対してはまだ答えておりませんね。私の問いに対して、一般的な聞込みと言われても分からないわけですよ、どういう聞込みをなさったのか」
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裁判長=「さっきは、覚えてないことは述べなくてよろしい、不完全なことは述べなくていいと言ったんだが、あなたは一般的な聞込みに従事したと仰った。この事件によって特殊性はありますが、一般的な聞込みということを言葉の上で言う以上は、いろいろな事件に共通した聞込みという事項があるから、それだから一般的な聞込みという言葉が出て来るんだろうと思う。そうすると弁護人の言うことはすべての事件に、大体共通したところの一般的聞込みということを言うからには分けてみればどういうことによって構成されているか、一般的聞込みの中にはこうこう、こういう事柄が大体あるんだということが言えるんじゃないかということを聞いてるんだと思うが、それを言えばいい」
証人=「まあ例えばですね、何かの目撃者なんかがあったという情報があるとそれを捜査に行ったわけです」
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橋本弁護人=「この事件についてですか」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「目撃というのは被害者の目撃ですか、それとも」
証人=「何かちょっとした記憶に、そんなのがあるんですが・・・・・・、何か子供か何かが見たとか、見ないとかいうことで捜査に行ったことはありますね」
橋本弁護人=「聞込みと言いましても、例えば被害者の足取りの聞込みという事項があるでしょう」
証人=「はあ」
橋本弁護人=「被害者はこの日学校に行ってその帰途行方不明になっているんですね。だから被害者がその日学校に行ってどういうところを通って学校から帰宅したかを捜査する必要があったんでしょう」
証人=「えっ、そうですね」
橋本弁護人=「だから被害者の足取りを聞込みによって掴む、あるいは被疑者のアリバイを聞込みによって確かめるとか、あるいはいろいろな証拠物件の出所などを、その聞込みをやるとか、聞込みというのはいずれにしても何か特定な事項について聞込みをやるんだろうと思いますが、あなたの従事したのはその聞込みのうちのどれかと聞いたんです。そうすると子供が目撃した事実を聞込みに行った記憶があると」
証人=「そういうのもありますね」
橋本弁護人=「そういうのもあるというと」
証人=「長期間にわたってますからね、いずれにしても・・・・・・」
(続く)