アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 815

写真のスコップは、麦畑から発見されたスコップと同種の物である。

発見された時のスコップ。左側に柄の部分が確認できる。写真左端が柄であり写真上中央が刃先となる。証人は、スコップの回りの土の表面を"うなって" あったと表現している。写真を注視し、"うなって"とはどういう状態をいうのか確認したい。写真二点は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用。

【公判調書2520丁〜】

                  「第四十九回公判調書(供述)」

証人=福島英次(五十三歳・警察官=埼玉県警察本部刑事部捜査第一課勤務、巡査部長)

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福地弁護人=「スコップの回りの上の表面の状態はどうでしたか」

証人=「うなって(注:1)あったような感じがします。麦の間を鍬でさくったというか、そういう状況だったと思います。平らではなかったように思います」

福地弁護人=「麦の株と株との間一面がそうだったのですか」

証人=「はい」

福地弁護人=「でこぼこになっていたわけですか」

証人=「はい」

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山上弁護人=「最初、五月三、四日頃から聞込み捜査をしたということでしたね」

証人=「はい」

山上弁護人=「その中で、特に豚屋に出入りしている人の聞込みをしたという記憶はありませんか」

証人=「直接はありません」

山上弁護人=「直接はないけれども知っているのですか」

証人=「聞込みをしたという状況は聞いております」

山上弁護人=「それはいつ頃からやっているのですか」

証人=「割合早い時期ではないかと思います。私が知る限りでは、あそこのスコップが無くなっているんだというようなことを佐野屋の主人から聞込んだ捜査員がいるのです。それというのは、豚屋のおかみさんが佐野屋に買物に来て、うちのが無くなっているんだよと、これは死体が発見されたのちだと思います。それで、スコップを使ったんだろうということで話が出たということでした。うちのが無くなっているんだよという話を聞いた捜査員はそれを本部に報告したので確かめた結果、事実そのようなことであり、それから豚屋さんについて元使用人とか出入り関係を捜査したような記憶があります」

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裁判長=「それはあなたが直接やったことではないが、あなたが聞いたところではそういう経緯らしいということですか」

証人=「そうです」

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山上弁護人=「その豚屋さんは石田という人ですか」

証人=「そうです」

山上弁護人=「そういうことをあなたが捜査の過程で聞いたのは、捜査会議にあなたも出席して聞いたということなのですか、それとも別に根拠があるのですか」

証人=「特に根拠はないのですが、特命班にいて自然と捜査状況が耳に入ったのです。幹部から直接に聞いたのではありません」

山上弁護人=「今、そのスコップは私のところのだよというような話がありましたが、それは誰が言ったのですか」

証人=「それは、石田さんのおかみさんが佐野屋に買物に来て、うちのが無くなっているんだよ、というようなことを言ったということです。それは死体が発見された直後、翌日あたりではないかと思います」

山上弁護人=「長谷部さんだったか諏訪部さんだったかの証言に五月二日頃から石田豚屋を中心に聞込みをしたという証言もありますが、スコップが発見される前から豚屋さんを中心に出入りする人の動静を聞込み捜査したということはありませんか」

証人=「スコップ発見以前はもちろんやっていると思います。スコップ発見というのは、特に石田さんの話が出たのよりずっと後のことです。死体が発見されたのち、あの堀ようで使用したものはスコップだろうということで、死体は比較的早く発見されていますが、その後翌日かそこらにそういう話が出たのです」

山上弁護人=「スコップが発見される以前から石田豚屋辺りを特に聞込み捜査したということもあるのですね」

証人=「はい。うちのが無くなっている、という話が出てから」

山上弁護人=「あなたは直接石田豚屋について聞込み捜査をしたことはあるのですか」

証人=「ありません。面接もしておりません」

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裁判長=「死体発見の翌日ぐらいかも知れないが石田豚屋の妻君が佐野屋に買物に来た時にうちのスコップが無くなっていると言った、という風な話を捜査員が聞き、それからそのスコップに関して石田豚屋の捜査をしたという順序のようである、というのですね」

証人=「はい」

裁判長=「五月二日頃から既に石田豚屋の聞込み捜査をしていたとして、その時に、既にスコップが無くなったかどうかということの捜査をしていたということを聞いていたのですか、それとも、そうではなく一般的な聞込み捜査をしていたということなのですか」

証人=「一般的なことではないです」

裁判長=「スコップに特に限定して、お前のところでスコップが無くなっただろうというような見込みの捜査を石田方について前々からしていた、ということは聞いていないのですね」

証人=「ええ。前々からのことではなく、紛失したということを聞いてからです」

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検事=「先ほど、雨の降る日に被害者の家を聞かれた農家の人を調べに行ったと言いましたが、その名前を覚えていますか」

証人=「内田さんというような感じがしますが、あるいは違うかも知れません」

検事=「内田幸吉」

証人=「はい」

検事=「その奥さんの名前は」

証人=「覚えていません」

検事=「その家の前辺りの実況見分をしたようですが、昭和三十八年六月五日付であなた名義の実況見分調書が出来ているのですが、その頃実況見分をしたことは間違いありませんか」

証人=「間違いありません」

検事=「先ほど弁護人からスコップ発見現場付近から地下足袋が発見されたかとの問がありましたが、付近という言葉はあいまいですが、スコップが発見された場所と死体が発見された場所との間の距離はどのくらいありましたか」

証人=「ちょっと記憶していませんが、三百メートルないしは五百メートルぐらいではないかと思います」

検事=「そんなにある感じですか、直線距離でですよ」

証人=「ちょっと記憶にありません」

検事=「それはあなたの実況見分調書によると百二十四.六メートル、地下足袋が出たといわれるのは方向が逆になるのですがスコップ発見現場から直線で二百五十メートルとなっているのですが、そういう距離のところで発見されたということは聞いていませんか」

証人=「聞いていません」

(写真は"狭山事件 続 無罪の新事実=亀井トム・JCA出版"より引用)

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福地弁護人=「先ほどあなたはスコップ発見現場付近から地下足袋かゴム長の足跡が取れていると言いましたか」

証人=「私が聞いたのは死体発見現場というような感じでした。しかしそれははっきりした記憶ではありません」                                                                      (以上)

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(注:1)「うなって」あった=耕してあった、の意。