アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 709

(荒縄・木綿細引紐のようす)

(木綿細引紐の長さ。-大野実況見分調書による- 写真は"狭山差別裁判・第7集 部落解放同盟中央本部編、部落解放同盟中央出版局"より引用)

【公判調書2231丁〜】

                「第四十四回公判調書(供述)」

証人=大野喜平(六十歳・会社員)

                                         *

裁判長=「三十八年五月四日付の領置調書というのは二通あるんですね」

橋本弁護人=「甲乙とございますね」

裁判長=「片方の六三〇丁の方にはタオル、手拭いはあるんだ、それから六三一丁の方はさっき問題のボタン一個というのはあるんだがね。あれは従来、写真だけであったのか、現物があったのか、ちょっとはっきりしませんけれども、弁護人はどうですか、見たことあるんですか」

橋本弁護人=「見たことはあります」

裁判長=「隅のほうが破れたようになっているやつですね」

中田弁護人=「二十九号で当裁判所に領置されております」

裁判長=「あなたのにはないんだ」

証人=「それについて古い記憶ですが、あるいは、県機動隊の職員がその穴を先に見ておりますから、それがやったのかどうか、私も見ることは見てますが、その領置が本当に私がしていないとすれば、機動隊の警察官があるいはやっているかも分からないという、かすかな記憶です」

裁判長=「つまり、『前記祝用風呂敷一枚、及び棍棒を被害者の兄に提示したところ、被害者のものでないことが判明』という記載はあるんだね。で、『本件犯行に使用した疑いがあるので、これを領置調書乙の通り領置した』と書いてあるが、乙の方にはいずれもないんだ。棍棒もないし、それからビニールの風呂敷もない。が、実際には他の個所で押さえられていることは押さえられている。あなたの調書にはそう書いてある。ただね、これは死体発見の場所と、芋穴とは場所が違うんだから、それで、ビニールの風呂敷の破れたのと、棍棒というのは芋穴にあったということになっておるんだがね」

証人=「それは間違いないんです」

裁判長=「だから、そういうことがあるからね、それで、あなたのに書いてない、押さえた如く書いてあるが、書いてないのは、どういう理由に基づくものかということを説明すればいいんじゃないですか」

橋本弁護人=「そうしますと、あなたは当然、領置したと見分調書のほうで書いている以上、領置したという風に記憶しておるわけですね。現在」

証人=「記憶していますが、それが領置していないとすると、多少はミスはあったにしても、もし、事実、それが私の記録になければ、他の職員がやっていると思うんです」

橋本弁護人=「現実には領置されておるんですよ、誰が領置したか知りませんがね。そしてそれは裁判所に提出されておるんですから、領置されたことは間違いないんです。しかし領置調書には領置されていない、領置したと書いてあるにも拘らず領置されていない。その食い違いはどう説明するんですか」

証人=「それ、一番最初私が発見したのではないですね。ですから、機動隊の人かが先に発見したので私はそれが伝聞であるが故に、きっと私が領置しなかったのじゃないかと、これは私の想像ですが、していないとすれば」

橋本弁護人=「実況見分調書、あるいは領置調書は何通作るんですか」

証人=「そうですね、炭酸紙で、複写でとりましたから、写る程度ですから、記憶はありませんが、たくさんの枚数は炭酸紙写りませんから、せいぜい多くても四部か五部、四部くらいしか複写でとれないように思います」

橋本弁護人=「そして、原本はどうするんですか。どれを原本にするんですか」

証人=「複写ですから、上を原本とするのが当たり前じゃないかと思うんですが、うしろは複写によって写ったものですから、上を原本にするのが一番いいんじゃないかと思います」

橋本弁護人=「いずれにしても、複数作ったわけですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「それで、どれかを原本にするわけですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「それで原本はどこで保存するんですか」

証人=「保存するしないは、それは私等の係ではございませんから、要するに署長に提出するわけです。それをどうするかということは私達の権限を越えた問題になるわけですが」

橋本弁護人=「権限は越えているかもしれませんが、あなたも警察長いこと働いておったんだから、実際はどうなるのか、知っておるんでしょう」

証人=「それがおそらく事件記録として検察庁に送付したんじゃないかと思います」

橋本弁護人=「だから、四通とも全部ですか」

証人=「四通とも全部じゃないと思うんです」

橋本弁護人=「全部じゃないでしょう。狭山警察署あるいは埼玉県警本部で、一部は残すんでしょう」

証人=「そういうことです」

橋本弁護人=「で、一部は検察庁に送致すると、そういうことになるわけですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「あなたはその領置調書を二回作ったという記憶はないんですか。書き直したとか、作り直したとか、そういうことがあったんじゃないですか」

証人=「ないと思うんですがね」

橋本弁護人=「先ほど、玉石の目方のことを聞きましたが、あれも片方は四.六五キロ、片方は六.六五キロという風に明白に相違しておるんです。今度はビニール風呂敷についても、調書のほうでは領置してある、押収品目録では領置していないという明白な食い違いがあるんですがね。書き直しか何かしたんじゃないですか」

証人=「その辺はですね、玉石のほうは確かに文字の間違いだと思います。風呂敷についてはですね、これは領置したと書いてあって、品物がないということなんですね、弁護士さんの仰っているのは」

橋本弁護人=「いや、品物はあるんです。品物は現に裁判所に出ておるんです。領置したと書いてあって、領置調書にその旨の記載がないんです。領置調書は見分調書と一体を成している書面でしょう」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「その一体の書面の前のほうには領置したと書いてあり、あとのほうでは書いていないという、そういう書面上のミスは一体どうして行なわれたかということです」

証人=「詳しく分かりません」

(続く)