アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 726

(「朝日新聞」一九六三年五月四日朝刊より)

【公判調書2287丁〜】

                  「第四十五回公判調書(供述)」

証人=大谷木豊次郎(五十八歳・浦和自動車教習所法令指導員。事件当時、埼玉県警察本部捜査一課・課長補佐)

                                          *

福地弁護人=「その62のところの比較的鮮明な足跡についてお伺いしますけれども、まず、62の地点では幾つぐらい確認出来ましたか」

証人=「幾つ取ったか、その記憶ははっきりしておりません。とにかく数個取ったです」

福地弁護人=「そうすると、その足跡は当然、川越街道と言っている佐野屋の前の通りのほうから歩いてきたときの足跡ですね」

証人=「そういう風に認めました」

福地弁護人=「つまり、この図面で言うと61点のほうを向いた」

証人=「何かそういうような記憶がありますですが、もう、長いので、とにかく、ここにあった足跡ということがあれですが、どちら方向からということは、はっきりしたことは申し上げられませんが」

福地弁護人=「ただ、あなたの記憶では64から続いてきた足跡が、62で特に鮮明になっておる」

証人=「64から62までの繋がりはあったと、どちらにしましてもですね」

福地弁護人=「そうすると、62で鮮明になったあと、今度、農道に出ているわけですね。それで、農道のところで、あんまりはっきりしなくなったというような供述でしたね、今の供述は」

証人=「ええ、そういう風に記憶しております」

福地弁護人=「これ、前夜、雨が降っているので、農道にもある程度の足跡はあるんじゃないですか」

証人=「農道の足跡は、ほとんどああいうような土ですから、ほとんど付きませんですね」

福地弁護人=「全然分かりませんですかね」

証人=「全然付いてなかったかどうか、それはよく分かりませんでしたけれども、とにかく、足跡の採取可能のものはなかったですね」

福地弁護人=「あなたは63の地点から62方向へ向かって百メートルぐらい追っかけたと仰いましたですね」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたの足跡はこの農道の上にありませんでしたかね」

証人=「農道には付かなかったような気がしますね。付いてあったかどうか、その点ははっきり確認しておりませんし、憶えてもおりません」

福地弁護人=「62の地点の比較的鮮明な足跡を警察のほうでは採取致しましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「採取したのは誰だったか憶えてますか」

証人=「これは憶えておりません」

福地弁護人=「あなた御自身が採取したわけではありませんね」

証人=「私が採取したのではありません」

福地弁護人=「この足跡を最初に発見したのは誰ですか、あなたですか」

証人=「いや、私ではないです」

福地弁護人=「誰が最初に発見したか、記憶ありますか」

証人=「記憶ありません」

福地弁護人=「この足跡を採取しているところをあなたは見ましたか」

証人=「これは見ました。初めから最後までは見ておりませんが、採取しておることは知っております」

福地弁護人=「当然、64、62のあたりの足跡以外にもですね、この第三見取図で畑と書いてある部分ですね、足跡について相当綿密な調べがあったんだろうと思いますけれども、そういう記憶ですか」

証人=「その記憶はこの畑と書いてある方面に対しては私は記憶ありませんですね」

福地弁護人=「あなたは足跡を捜して歩いたことはないんですか」

証人=「ええ、特にありませんです。ここにあったという報告を聞いただけです」

福地弁護人=「ほかの人が足跡を捜しているというような状況ではなかったですか」

証人=「ほかの人も捜しておったろうと思いますけれども、うまい足跡にぶつからなかったと思いますね。結局、この64の地点に繋がる足跡というものがほかには発見されなかったということではないかと思いますが」

福地弁護人=「それはあなたの想像ですか」

証人=「ええ、そうです」

福地弁護人=「この図面で、町田忠治の家から61というところを通って権現橋のほうへ行く道がありますね」

証人=「ええ」

福地弁護人=「この通りから右側の部分について足跡の捜査を当然なさったろうと思うんですがね」

証人=「捜査はやっておりましたですね。引続きやっておりましたけれども、はっきりしたのが見つからなかったと思いますが、あるいは、あったという報告があったけれども、これは何か採取したような気もするし、採取しなかったような気もするし、何かあったというんだけれども、どうも、この62のところでもって発見した足跡と違うような風だと言うので、それはあるいは、捜査員が残した足跡かも知れないということで、これは不問に付せられたような記憶があるんですが、はっきり、そこら辺は記憶しておらないです」

福地弁護人=「今私が言った、この61という数字がある権現橋のほうへ行く道の右のほうですね」

証人=「ええ、右のほうの畑の中です」

福地弁護人=「その発見されたという報告だけあって、結局不問に付されたという足跡ですが、数はどれぐらいあったという風に記憶しておりますか」

証人=「ある程度の連続したものはあったらしいんですけれども、それが捜査員の足跡であるか、あるいは犯人の足跡であるか、それについての確認が出来ないと」

福地弁護人=「その足跡はこの図面で言うと、おおよそ、どっちのほうからどっちのほうへ向かっておったか、あなたの記憶で」

証人=「私、現認しておりませんので」

福地弁護人=「あなた現認しておらなくても、そういう話があったわけでしょう。だから、たとえばこの道に沿って、横だったのか、それとも道とは交差するような、角度のあるようなものか、権現橋に向いたのか、不老川のほうへ向いたのか」

証人=「それは記憶ないです。どっち向いておったという話までは聞いておらないです」

福地弁護人=「そういう話を誰から聞きましたか」

証人=「捜査員の誰かが言ったと思いますけれども」

福地弁護人=「それは五月三日の朝ですか、つまり張込みの翌朝ですか」

証人=「翌朝だったか、その次の日あたりだったか、その点もあんまり、はっきりしませんが」

(続く)