【公判調書2527丁〜】
「第四十九回公判調書(供述)」
証人=岸田政司
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橋本弁護人=「当時、資料を集めたと言いましたが、資料というのは何を指すのですか」
証人=「地下足袋です」
橋本弁護人=「どういう種類の地下足袋ですか」
証人=「横縞の地下足袋です」
橋本弁護人=「横縞の地下足袋だけですか」
証人=「そうですね。最初そういう説明がありましたから。それでは横縞の地下足袋を集めようということで集めたわけです」
橋本弁護人=「最初とはどういう意味ですか」
証人=「事件が発生して現場足跡を採取した当時です。私の方で鑑定を依頼される前です」
橋本弁護人=「現場足跡を採取した人からあなたの方にこういう種類の足跡を採取したという連絡があったのですか」
証人=「そうです。ですから、それではこれを集めようということで集めたわけです」
橋本弁護人=「それと同種の地下足袋を集めたわけですか」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「この前の証言ではメーカーはずいぶん沢山あるという話でしたね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「各メーカーの地下足袋を集めたのですか」
証人=「各メーカーの地下足袋を集めるということは容易なことではありませんから、そのうちの一部です」
橋本弁護人=「どういう基準で集めたのですか」
証人=「県内で売っているもので、自分で手近に入るものです」
橋本弁護人=「県内で発売されているものですか」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「メーカーとしてはいくつぐらいのを集めましたか」
証人=「三種類か四種類ぐらいだったと思います」
橋本弁護人=「三つか四つのメーカーから一つずつ集めたのですか」
証人=「そうです。一足ずつです」
橋本弁護人=「横縞の地下足袋ですか」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「横縞は各メーカーとも共通の横縞を付けるのですか」
証人=「そういうことはないと思います。各メーカーが自分自分で考えて作っているのが多いようです」
橋本弁護人=「そうすると、横縞はメーカーによって相違するということですね」
証人=「厳密に言うと違うのが多いです」
橋本弁護人=「(東京高等裁判所昭和四十一年押第一八七号の二八の一の地下足袋を示す)その地下足袋の底には大きく分けると横縞の模様と、あなたの鑑定書でいう竹の葉模様と半月状模様とが付いていますね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「それはそのメーカーの特殊の模様ですか」
証人=「特殊とは言い切れません。大体どこのでもこういう横縞も竹の葉模様も付いています。半月状模様も付いています」
橋本弁護人=「厳密に言うと相違するけれどもおおよそは同じですか」
証人=「そうです。こういう風に出来ているのが多いです」
橋本弁護人=「たとえば、横線の数とか竹の葉模様の大きさは決まっているというか、共通ですか」
証人=「大体の形は同じですけれども違うのもあります」
橋本弁護人=「今言った大体同じとか違うというのは埼玉県内で発売されていた地下足袋について言っているのですか」
証人=「それはもちろんそうですが、現在全国的にそうです」
橋本弁護人=「昭和三十八年の事件当時はどうですか」
証人=「その当時の現在です」
橋本弁護人=「全国的に取り寄せて調べたのですか」
証人=「全国的に調べませんが、私の方で現場足跡というものが他の事件でも沢山取れますし、当時いろいろあったわけです。それから言って、これはよその県で製造されている物であるということが判るわけです」
橋本弁護人=「そうすると、あなたが事件で遭遇した各種の地下足袋を観察してそういう結論になったということですか」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「改めて全国の地下足袋メーカーから発売されているすべての地下足袋を検査してそういう結論になったわけではないのですね」
証人=「はい」
(続く)
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橋本弁護人が法廷で示した東京高等裁判所昭和四十一年押第一八七号の二八の一の地下足袋、あるいはその他の証拠品の資料など、私が入手できる立場である筈は無く、したがってその手がかりになりそうな情報を載せておく。法廷でのやり取りを読みつつ画像を拡大し凝視すれば、何か掴めるかも知れない。
これらの写真は「自白崩壊 狭山裁判二〇年 狭山事件再審弁護団編=日本評論社」より引用。