アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 964

【公判調書3016丁〜】

                  「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                           *

三上弁護人=「あなた先ほどの、六月二十日に石川さんが、三人説を自白した時にあなたとしては、その通りだと思った、それを信用したという証言をされましたね」

証人=「はい」

三上弁護人=「そうしますと、あなた方としては当時複数犯の可能性があるという考え方を持っておられたんでしょうか」

証人=「特別に先入観はございません。複数であろうが、三人であろうが、そういう考え方を持ってはおりません」

三上弁護人=「何も考えてなかった」

証人=「勿論無心でやっておったわけです」

三上弁護人=「五月初めに死体が発見されて、死体の埋没状況とか、鑑定書などもご覧になっておりますね。死体についての五十嵐鑑定書もご覧になってますね」

証人=「鑑定書、写真、そういうものは見ております」

三上弁護人=「そうしますと当然捜査官としては単独犯か複数犯か、何らかの想定を持って捜査するものじゃないんですか」

証人=「想定ですか、今はそういうことは許されないんです」

三上弁護人=「いやいやこれから捜査を進めて行くんですからね」

証人=「進めて行くにしても、先入観はいけないということになっているんです」

三上弁護人=「先入観じゃなしに、今後捜査をして行くには、どういう線から捜査を進めて行くかについては当然議論も出るし、考えられるでしょう」

証人=「ええ」

三上弁護人=「この中で、これは一人でやったものか、それとも複数でやったものかということは重大な問題じゃないでしょうか」

証人=「そうだと思いますね」

三上弁護人=「当然捜査官の会議の中でもそういう議論は出ておったんでしょう」

証人=「いろいろ捜査会議の時にも一人であろうか、二人であろうか、あるいは三人だろうか、もっとだろうかというようなことは捜査会議ではございましたね」

三上弁護人=「そういう中では、一人でやったものか複数でやったものかについてはどちらの意見が強かったですか」

証人=「さあ、どちらの意見が強かったかについては今記憶ございませんが、それぞれ皆意見が違いますから、誰がどう言っておったということは今、記憶ございません」

三上弁護人=「いろいろ意見があるということですが、あなたとしてはどういう風に考えておられたんです」

証人=「私は三人であろうが、二人であろうが一人であろうが、そういう点について、三人じゃなかろうかというような気持ちでもって人を調べるわけにはいきませんから、先ほど申し上げました通り無心ですよ」

三上弁護人=「あなたが石川さんの三人説の自白があった時に、それをその通りだと思ったというからには、何らかの合理的なあなた自身の捜査官としての今まで考えておった状況と、やはり合致するような点があったからそういう風に信じたんじゃないんですか。つまりいろいろな点からして、あなた自身が複数犯じゃないかという考えを持っておったから三人説の自白があった時もすぐそれを信じたんじゃないですか」

証人=「そんなことはないですね」

三上弁護人=「捜査会議の中で、複数犯じゃないかという主張の根拠として、どういう点が指摘されておりましたか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

三上弁護人=「一人じゃなくて多数でやったんじゃないかというご意見もあったという風に証言されましたけれども、どういう根拠でそう考えられるという意見があったんですか」

証人=「理由についてははっきり申し上げかねる、よく分かりませんが、いずれにしても状況から言って一人じゃ出来ないんじゃないかという人もあれば、いや一人でも出来るという意見もあったように思います」

三上弁護人=「状況から言って一人じゃ出来ないんじゃないかというような、その状況というのはどういう点を指しておったんですか」

証人=「それは何ですなあ、死体が出てからの話だったと思いますなあ」

三上弁護人=「死体が出てから、どういう点をみてこれは一人で出来ないんじゃないかと」

証人=「それは死体が出てからということについて、私は当時死体の発掘の現場を見ておりませんので、はっきりしたことは申し上げかねますが、いずれにしても捜査会議に穴ぐら伝々という話が出たように思いますから、そうすると、いずれにしても一人じゃ出来ないんじゃないかという人もおりましたし、一人でも出来るというような人もあったし」

三上弁護人=「今、穴ぐら伝々と仰いましたか」

証人=「ええ」

三上弁護人=「それはどういう意味ですか」

証人=「あそこは田舎、と言うと何ですが、芋ぐらですか、というのがあった、その辺のことで話が出たと思います」

三上弁護人=「近くに芋穴があったんで、それがどうだという風に言うんですか」

証人=「それがどうだという記憶はありません」

三上弁護人=「少なくとも死体が埋めてあったのは農道に埋めてあったんですね、芋穴じゃないですね」

証人=「そうですね」

三上弁護人=「そんな突飛な話で芋穴というのが出ておったんですか」

証人=「それはあとの話ですよ、その前にも出るのは出ましたよ、芋穴の話が出る前に、一人じゃ出来ないんじゃないか、二人じゃないか、三人じゃないか、何、一人でも出来るんだというようなことがありましたですよ、しかし誰がどういう風なことを言ったかということについては私、記憶ございません。同時に今、仰られるように君はどう思った、こう思ったという風に聞かれても、今はどう思ったかということもお答えしかねるような状況にあります」

三上弁護人=「私は、三人くらいでやったんじゃないかという主張があったのはどういう理由からか、ということを聞いているんですけれども、それに関連して死体が発見されたあとで芋ぐらのことでそういう意見が出たということを仰いましたけれども、芋ぐらがどうしたから三人でやったんじゃないかということだったのか」

証人=「石川君の話が出てからだったと思いますなあ、そういう話が出たのは」

三上弁護人=「石川君の話というのは」

証人=「石川君がいろいろなお話をされたあとだと思いますよ、その話は」

三上弁護人=「石川さんが自白してからあとだと言うんですか」

証人=「ええ。その前の捜査会議でも一人じゃ出来ないんじゃないか、あるいは二人かな、三人かなぁ、あるいは、何、一人でも出来るんだ、というようなことはありましたですよ。しかし誰がどうということでそういうことを申したかも、同時に私個人についても君はどう思ったかと言われても私は一人であろうが、二人であろうが、とにかく被疑者が一人だと言えば一人、三人と言えば三人ということを信用する以外ないです」

三上弁護人=「今、芋ぐらのことを言われたんですが、死体が発見されて間もなくそういう話が出たんですか」

証人=「発見されたあとですね、いずれにしても」

三上弁護人=「あとでも、間のない時期にそういう意見が捜査会議の中で出たんですか」

証人=「捜査会議というのは全体会議とか、あるいは三人か四人の会議のこともあるし、いろいろですから」

三上弁護人=「どうでも構いませんが、時期を聞いているんです」

証人=「それは、そういう死体が発見されたあとにおいて、石川君がいろいろな話をされたのちになります」

(続く)

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○結局、芋ぐら(穴)が何故、複数犯説につながるのか、その理由を証人は答えていない。

芋穴。これは狭山地方の農産物であるサツマイモを貯蔵するために掘られたものである。死体発見現場からの距離は約二十メートルと近く、さらに穴の中からビニール風呂敷と棒きれが見つかったことから、事件に何らかの関係があると考えられたという。