アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 933

【公判調書2941丁〜】

                    「第五十五回公判調書(供述)」

証人=小島朝政(五十六歳・財団法人埼玉県交通安全協会事務局長)

                                            * 

石田弁護人=「小川松五郎さんの家にも、時計が発見される前後を問いませんが、行かれたことはないですか」

証人=「行きました」

石田弁護人=「何回くらい行きましたか」

証人=「一回でしょうか、一回くらいと思いますね」

石田弁護人=「それは小川松五郎さんがあなたが行った際はおられましたか」

証人=「これは誰か捜査員が発見の状況を調書に取ってるのを私が回って行って、見たように記憶してますが」

石田弁護人=「小川松五郎さんの自宅で捜査員が調書を取っておられたわけですね」

証人=「そうですね、調書を取っているときでもあると思うんですが、何か、とにかくその時計が発見されたときですね、行ったのは」

石田弁護人=「その小川松五郎さんの家には、やはり年寄りのお婆さんがいませんでしたか」

証人=「お婆さんがいたかどうか、記憶はございませんですが、まあ、みすぼらしい家の、一部屋かの小さい家にお爺さんがいて、手まね、足まねで、当時の状況を私に説明してくれたのを記憶しておりますが、お婆さんのことについては今、ちょっと分かりませんですが」

石田弁護人=「小川さんの家に訪ねて行かれた際に湯茶などは出してもらいましたか」

証人=「いや、私はこの一部屋の家でもちろん縁先も玄関もない家だったもので、戸の空いているところかなんかで、ちょっと腰を下ろした程度だったんで、お茶などを召し上がったことはございませんですが」

石田弁護人=「小川松五郎さんなど、あるいは、もし他の人がおったなら、他の人でもいいんですが、小川さんの家で雑談をされた記憶はありませんか」

証人=「私以外の人でですか」

石田弁護人=「あなた」

証人=「私がしたことは、その・・・・・・」

石田弁護人=「いや、要するに、あなたが赴かれた目的そのものの事項ではなくてね、世間話とか、まあそういう話をされたことはありませんか」

証人=「ございませんです」

石田弁護人=「あなたが行かれた際には他の捜査員はそういう世間話などはなさっておりませんですか」

証人=「何か、私は手帳に書いていたか、調書を書いていたのか、ちょっと今、判然としませんが、誰かが行っておったと記憶しておりますが、それは発見して物(ブツ)の処置が終わったあとでございますね」

石田弁護人=「それはあなたの部下の警察官だったですか」

証人=「ええ、そうです」

石田弁護人=「石原係長、あるいは石原係長の部下の人達ということでも表現できる人ですね」

証人=「さあ、それが誰であったかというのはですね、すでに時計の捜索は終わっちゃっておったんで、通報を受けた駐在所の人か、あるいはそれ以外の、近くにいたか、何かの捜査員か、誰だったか、ちょっと覚えておりません」

石田弁護人=「相当長い時間いましたか」

証人=「私はちょっと顔を出しただけでございます」

石田弁護人=「そのメモを書かれているとかいう警察官よりも早くあなたは小川宅を去ったわけですか」

証人=「ええ、私はちょっと寄ったように記憶します。本当に僅かに、家がおぼろげに思い出す、今、何を語ったかも全く記憶がありませんが、ちょっと覗いた記憶がある程度でございます」

石田弁護人=「ちょっとと言われても、いろいろあるんですがね、時分で表現するとどれくらいのように思いますか」

証人=「せいぜい五分か十分くらいだったでしょうかね」

石田弁護人=「そのメモを取っておられる警察官はあなたが行かれるより早く、すでにそこに着いて、一定のメモを取るなどの仕事をなさっていたわけですね」

証人=「そうですね、調書じゃなくてメモだか、調書か、とにかくその小川老人と話しておったところに私がちょっと行ったのを記憶しております」

石田弁護人=「あなたはその小川老人のお宅へは誰かと一緒に行ったわけですか、自分お一人で行かれたわけですか」

証人=「あの現場とどのくらい距離があるかと思ったところが、あそこの家だということで、それで現場の実況見分が終わって、証拠物を押さえてそれからちょこっと寄って、どんなような家の方かと思って寄ったところが、捜査員の誰かさんがおったということを記憶してますがね」

石田弁護人=「それは大体時間で言うと何時頃の出来事でしょうか」

証人=「それはですね、午後、捜索があそこの現場の時計の押収をして、それで後始末をして、それからちょこっと寄ったと、そんな風に思ってますね」

石田弁護人=「だから、午後、大体おおよそ何時頃ということですか」

証人=「ちょっと分かりませんが、記録で、現場の時計の捜索、領置が終わった間もない時間だと思います。ですから、あるいは小川老人の捜査員がどこかへ行って調書を取るんで同道する意味で立ち寄っていたのかどうか、その点などもちょっと私、今のところはっきり記憶がございませんですが」

石田弁護人=「あなたのお話を総合すれば、その日にちは、時計が発見され、時計の実況見分をした日であることには間違いないわけですね」

証人=「そうです」

石田弁護人=「それ以後、小川さんのお宅へ行った経験はございませんか」

証人=「もう、それ前後は行ったことはございません」

(続く)

                                            *

証人=小島朝政の証言にある、縁先も玄関もない一部屋のみすぼらしい家、 これはすなわち小川松五郎宅を指すが、戸の開いているところに腰を下ろす、いや、そこに座らざるを得ないほど物理的に突き詰められた家屋とはいかなる様相を呈しているのか、想像しただけで興奮する老生であるが、その理由は、つげ義春の作品に起因する。

氏の作品にはこのような侘しく、鄙びた、しかしどこか懐かしい小屋、家屋が描かれており、それは絶妙な味を持つ描写となっている。

おお、これなども素晴らしい絵だ。

昭和三十年代風な、つげ義春的な感覚で本件での腕時計発見者=小川松五郎さん宅を夢想すると、大体このような(写真右側)居宅ではなかったかと個人的に推定出来たが・・・・・・。

引用した画像は三点とも、つげ義春作品より。