アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 808

【公判調書2496丁〜】

                   「第四十八回公判調書(供述)」

証人=石原安儀(五十七歳・警察官)

                                           *

石田弁護人=「(先ほど示した原審記録一三三一丁の現場見取図第二図を示す)十八軒ほどのあなたが今状況をメモされた聞込みに歩いた家というのはそのどの辺りですか」

証人=「はっきり分かりませんけど、それ今見せてもらえば分かるんですが」

石田弁護人=「それ、こっちにないんでね」

証人=「だから私こっちのような気がするんですが。これは気ですからはっきり分かりませんが」

石田弁護人=「道の南側ですね、証人は」

証人=「というような気がするんです」

石田弁護人=「というような気がするということですね」

証人=「ええ」

石田弁護人=「T字路の東西に走る道の南側ですか」

証人=「そういうことです」

石田弁護人=「あなたはそのT字路を東西に走る道の北側を捜査するについて特定の家を除外しろというような」

証人=「いや、これはとんでもない話です」

石田弁護人=「していませんね、重ねて聞きますけれども」

証人=「ええ、やってません」

石田弁護人=「そうすると、この第二図に書かれてあるいろいろな人の名前も上がっておるが、その中に小川松五郎さんも入っておるがここに書いてあるような家はそう多い軒数ではないから全部あたったという風に、あるいはあたらせたという風に聞いていいわけですね」

証人=「いいと思いますね、図面に出ているわけですから」

                                            *

山梨検事=「時計の捜索に関しての聞込みに関連してお伺いしますけど、小川松五郎さんの家というのは独立の家なのか、それとも誰かの家の物置とか工場の一部を借りてる家とか、そういう家であるという風なことはあなた知っていますか」

証人=「ええ、これは部屋か何かにいたんじゃないかというような記憶があります」

山梨検事=「そういうことはいつ知ったんですか」

証人=「それは時計が見つかったというだから三日に私が知ったような気がするんですが」

山梨検事=「要するに時計が発見された以後、小川というのはそういう所に住んでいるんだということを聞いたわけですね」

証人=「そういうことです」

山梨検事=「そうすると、まあなぜ弁護人の方から盛んに、どうして小川の家に行かなかったかということを言われたわけだが、あなたとしてはどういう反省をするわけですか」

証人=「ですから道路を中心にやはりこの聞込みをしたわけなんで私は向こうへ行かなかったわけなんですよ。そういう風に記憶があるんです」

山梨検事=「あるいはその独立の一軒家ではなくて人の部屋を借りているような人なんでうっかり聞込むのを忘れてしまったんではないかと、こういう風に思われる余地があるんじゃないですか」

証人=「そういうこともあり得ます」

山梨検事=「それからこの点あなたが最後の段階で被告人の自供の裏付けの捜査にあたった一つとして弁護人の方からお尋ねがないので私の方でお聞きするんですが、鎌倉街道で出会ったという三輪車を捜査されたということですね」

証人=「はい」

山梨検事=「これは先ほどの話によると、誰が上司であるかあまりよく分からんということなんだが、要するに命ぜられたのはどういう趣旨のことなんですか、あなたが」

証人=「それは五月の一日の七時から八時までの間に鎌倉街道を運行した三輪車を捜せと、こういうような指示なんです」

山梨検事=「それであなた方で調べをした結果はどういう結果が出ましたか」

証人=「それはですね、これは私一組ではないんですが、皆で六十数軒に渡って聞込みをしたんではないかと思いますけれども、結果は前日がその狭山の市会議員の選挙で当選したその市会議員の友達が当選祝いに酒を持って来たという堀兼の吉沢栄さんだが、これははっきりしませんが、この方が一日の午後七時少し前頃、鎌倉街道へ行ってあそこを往復して入曾のほうの水野の広沢さんと思ったけれども、市会議員の当選の家へ酒買って持って行ってるわけです。それが一台通っているだけで他に六十数軒に聞いたんだけれども、鎌倉街道を通ったという三輪車はなかったように記憶しています」

山梨検事=「で、その今言われた吉沢栄ですか、その運転手は通ったことは通ったんだが、いわゆる被告人の姿ですか、そういう自転車に乗って通ったという姿は見たということは言ったんですか」

証人=「ちょうどその時に雨が降ってまして、それでガラスの風防であれなんでそれは自転車に乗ったのを追い越したというのは記憶になかったんです、通るのは通ったけれども、自転車に乗ったのを追い越したのは記憶がないというようなことだったと思いました」

山梨検事=「そうすると被告人なりその自転車に乗った人の姿というものは見かけたという供述は得られなかったと、こういうことですか」

証人=「はい」

山梨検事=「で、六十数軒というのはどういう風にしてそれを探り出したんですか」

証人=「これはやはりあの現場その鎌倉街道を中心としまして、車を持っている家に戸別にあたって聞いたわけです」

山梨検事=「これは一審で証拠番号二一四で請求して弁護人にも閲覧願っていると思うんですが、昭和三十八年六月二十七日付、これは野本警部補が一番のあれでそれからあなた、それから岡島巡査部長、今泉巡査部長と、これだけ四名連名の報告書が出ているんですがね、これに今あなたの言われたような末尾に全部で六十三名の車の所有者について当日五月一日の午後七時から八時までの鎌倉街道を運行した者の有無について一覧表が付いているんだが、これは今言ったような調べによったと、こういうことですか」

証人=「そうです」

山梨検事=「この表の中に当審で証人に出ておる横田権太郎というのがいるんですがね、これはこの表に記載がされているんです、自動三輪車の所有者として。それで当日鎌倉街道は運行していないということになっているんですが、同じく当審で証人としてこれの当時ダイハツの三輪車を持っていたということになっている横山ハルあるいは息子の栄ですか、これがここへ記載されていないんですがね、この記載されていないのはどうなんですか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

山梨検事=「この場所はどういう場所を三輪車の所有者の聞込みをやったんでしょうか。区域は」

証人=「区域は大体被害者の場所の所と堀兼、それから恐らく加佐志辺り、あの付近を現場中心にやったような記憶があるんですが」

山梨検事=「当時、横山という人が三輪車を持っているかどうかというのは警察の捜査線上には出ていなかったということになるわけですかね」

証人=「それに出てないとすると落ちたのかも知れませんです」

山梨検事=「で、今の車の運転手ですね、あたりの調書は作られた記憶はありますか」

証人=「あります」

山梨検事=「あるいは他に同乗者がいたんでしょうか」

証人=「同乗者は二名いたように記憶しています」

山梨検事=「そうすると運転手も同乗者も要するに自転車に乗ってる人の姿というのは誰も気が付いていないと」

証人=「そのように記憶しています」

山梨検事=「で、その事実思い出したのは先ほども言うように六月の二十七日頃なんだが、五月一日にそういうことをやったというのは要するに選挙に結び付けて思い出してくれたんだと、こういう風に受け取っていいわけですね」

証人=「そうであります」

(続く)

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山梨検事の尋問による、ダイハツの三輪車を所有していることになっているが報告書にはそれが記載されていなかったとされる人物、その一人はこの方と思われる。

横山ハルさん(写真右端)。

こちらの方は、自動三輪車を所有しているが、五月一日には鎌倉街道を運行していないとされる横田権太郎さんである。

この両名はそれぞれ自動三輪車を所有しているという点で今回、山梨検事の尋問に名前が上がっているが、実は彼等は狭山市内に畑を所有し、その場所は道を挟んだ両隣りという、言うなれば顔見知り同士であった。

 

事件発生の日とされる昭和三十八年五月一日。この二人はそれぞれ所有の畑で農作業に勤しんでいた。

裁判記録では、その畑を分つ砂利道を、石川一雄被告が、自転車と共に歩く中田善枝を連れ通過して行ったとされる。

だが、この二名は二審の取調べで、その日、その時刻に自転車を持った男女二人連れは見かけなかったと証言している。