【公判調書2905丁〜】
「第五十五回公判調書(供述)」
(昭和四十六年十一月)
証人=石田一義(三十五歳:養豚業)
*
石田弁護人=「あなたは昭和三十八年五月二日の夜、つまりお宅の近くの佐野屋の付近に犯人が現れたのに警察官の方では取り逃したということはご存じですね」
証人=「はい」
石田弁護人=「その五月二日の深夜から三日の早朝にかけて、あなた自身警察官に何か調べられたことはありませんか」
証人=「二日からですか」
石田弁護人=「二日の深夜から三日早朝にかけて」
証人=「二日にはないです」
石田弁護人=「三日の早朝」
証人=「ないです、調べられたということは」
石田弁護人=「二日の夜から三日早朝にかけて自宅へ車で帰ったかどうか覚えてませんか」
証人=「そうですね、あれは一日だと思いますね」
石田弁護人=「一日」
証人=「だったと思います」
石田弁護人=「一日の深夜、車で帰って来て自宅へ着くまでの間に警察官に呼び止められて車を止められたという記憶はありますか」
証人=「ですから、それが一日の晩だと思いますね。警察の方に当時のあれで調書にしてあると思いますが、自分の記憶ではそうです」
石田弁護人=「それは何かお医者さんと一緒にお酒を飲んで一緒に遅く帰って来たということですか」
証人=「はあ」
石田弁護人=「それは五月二日の晩ではありませんか」
証人=「ああ、そうですか」
石田弁護人=「帰った時間ですが、午前一時頃ですか」
証人=「ええ、そうですね」
石田弁護人=「自宅へ帰った時間が」
証人=「ええ」
石田弁護人=「その時はあなた一人で車で帰られたんでしょうか。誰か同乗者がおりましたか」
証人=「一人です。途中で先生と別れたものですから」
石田弁護人=「そのお医者さんは吉田さんという先生ですか」
証人=「ええ、接骨医です」
石田弁護人=「警察官に呼び止められた時にはどんなことを聞かれたんでしょうか」
証人=「免許証だけです」
石田弁護人=「免許証を持っているかと」
証人=「ええ」
石田弁護人=「警察官がその頃、あなたの自宅付近に大勢いるような気配は感じませんでしたか」
証人=「感じてなかったんです」
石田弁護人=「車を止めて免許証の提示を求めた警察官は何人くらいだったかは」
証人=「二名くらいだったと思います」
石田弁護人=「その際、免許証の提示だけでいいということになったんですか。どこから来たんだというようなことは聞かれなかったでしょうか」
証人=「どこまで帰ると言われたものですから家のすぐ前でしたものですからそのように答えました」
石田弁護人=「その時の帰宅した時間は何時頃か記憶あるでしょうか」
証人=「そうですね、十二時過ぎていたのは確かですね」
石田弁護人=「夜中で、空はどうだったですか。星なんかは出ていましたか」
証人=「さあ覚えてないです」
石田弁護人=「その夜あなたは夕方自宅を出て吉田さんというお医者さんと一緒にお酒を飲んだわけなんですね」
証人=「そうです」
石田弁護人=「吉田さんのほうがあなたよりは先に帰られたんですか」
証人=「ええ、帰りました」
石田弁護人=「その吉田さんと一緒に飲まれた場所は入間川のほうですか」
証人=「そうです」
石田弁護人=「あなたはそこから更に別の場所に行きましたか」
証人=「はい行きました」
石田弁護人=「どっちのほうに」
証人=「豊岡のほうへ」
石田弁護人=「やはり一杯やるような店で一杯やったんですか」
証人=「そうです」
石田弁護人=「一人で」
証人=「ええ」
石田弁護人=「吉田先生はその時にはいなかった、豊岡のところでは」
証人=「ええ」
石田弁護人=「一人で飲んだ時間と吉田先生と一緒に飲んだ時間とではどっちが長いように思いますか」
証人=「同じくらいじゃないですか。後の店を出たのは十二時半くらいだったと思います」
石田弁護人=「豊岡を出たのは」
証人=「ええ」
石田弁護人=「そうすると豊岡ではいわゆる飲み仲間はいなくて一人で飲んだ」
証人=「ええ。知ってるお店だったものですから」
石田弁護人=「翌日の五月三日頃から、あなた二日の夜遅く家に帰って来たということで、警察官からいろいろ聞込みをされるとか調べられるというようなことがあったんではありませんか」
証人=「次の朝ですか、ええありました」
石田弁護人=「どんなことを尋ねられましたか」
証人=「そうですね、まあ現在家にいる若い人、前にいた若い人の名前ですね」
石田弁護人=「名前とか、住所とかを聞かれたんですか」
証人=「ええ」
石田弁護人=「それだけではなくて、何かその頃からスコップとかそういうものの話題は出ませんでしたか」
証人=「その時はないと思います」
石田弁護人=「それは、警察官がお宅へ訪ねて来ていろいろあなたから事情を聞いて行ったんでしょうか。それとも警察の方へ呼び出されてあなたが警察署に行って話したんでしょうか」
証人=「いいえ、そうじゃないです。家へ来ました」
石田弁護人=「豊岡の方からあなたの自宅へ帰って来るということになりますと、佐野屋の方にはどういうコースで来るようになるんでしょうか」
証人=「佐野屋さんの西の方に出るわけです」
石田弁護人=「いわばあなたの家と反対の方に出るわけですか。佐野屋さんを中心に考えれば」
証人=「ええ、そうですね」
石田弁護人=「それは入曾の方を通って来たんですか」
証人=「いいえ、入曾は通らないですね。入曾を通っても来られますけれどもね」
石田弁護人=「そうしますと、佐野屋さんの西の方に出て、佐野屋さんの前の道を東に進んで南に折れるというコースですか」
証人=「いいえ、前は通らないんです。西の方、向こうから来た道を真っ直ぐ突っ切っちゃって、橋の方に抜けるわけです。当時はね」
石田弁護人=「橋と言いますと」
証人=「権現橋です」
石田弁護人=「ところでスコップのことを案外早い時点にいろいろ警察から聞かれているんじゃないかと思われるんですが、それはいつ頃か覚えてますか」
証人=「それはしょっちゅう使っているものですから、餌をかます場合に使うものですから、すぐ無くなったのは分かりますから」
石田弁護人=「それですぐ警察に言ったということになりますか」
証人=「ええ」
石田弁護人=「それは五月四日頃ですか、五日頃ですか」
証人=「そうですねえ、はっきり何日ということは分からないけれども、その頃だと思いますね」
石田弁護人=「このスコップの丁数というのは、この前、東京高等裁判所にあなたが証人に出られた時に若干述べておられるんですが、このスコップの本数ですね、これは常時一定していたんでしょうか。時々なくなったり出て来たりは」
証人=「大体、一定しておりますね。まあ、何本あるって、ここに何本、ここに何本というあれは分からないですけれども、現在使っているあれは分かりますね」
石田弁護人=「何か権現橋の近くのあなたの豚小屋のところには全部で何本くらいあったという記憶ですか」
証人=「そうですね、あの当時はかましているやつが一、二本だと思います」
石田弁護人=「何か小屋の前の不老川の土手の上の道の脇と言いますか、そのところに、ドラム罐が置いてあって、その中スコップが置いてあったこともあるんじゃないですか」
(当時の石田養豚場付近。左側に豚舎があり、右側には不老川が流れる)
証人=「そうですね、まあ大概、中にしまっておいたと思いますけれどもね」
石田弁護人=「前の高等裁判所での証言によりますと『ドラム罐の数はその時によって違いますから、いつ何本置いてあったかということは分かりません』というようなことを述べておられるんですが、これはその通りだったですか」
証人=「ドラム罐の数ですか、ええそうですね、数はちょっと分からないですね」
石田弁護人=「ドラム罐のところには大体スコップが一緒に置いてあったのではありませんか」
証人=「ええ、それは、別に置いてあるだけで、かますところじゃないものですから、そこは道ですから」
石田弁護人=「ところでその頃ジョンソン基地から残飯をもって来て豚の餌にしていたわけですか」
証人=「はい」
石田弁護人=「五月一日は何時頃その、豚に餌をやったかというようなことについて警察なり、検事さんなりに取調べを受けたことありますか」
証人=「さあ、ちょっと分からないですね」
石田弁護人=「そういうことを、何か調べられたという記憶があるんじゃありませんか」
証人=「ちょっと記憶ないですね。何しろちょっと日にちが経ってますから、いちいち今まで覚えてられないものですから」
石田弁護人=「検察官に対して、じゃ五月一日午後五時頃、自分とお兄さんの登利造さんと弟の義男さんの三人で、豚に餌をやったということを述べたかどうかも記憶ありませんか」
証人=「まあ、その時警察官にそういうことは話したと思います。何時何分に餌をくれたとかということはちょっと今は分からないです」
(続く)