アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 736

【公判調書2310丁〜】

                    「第四十五回公判調書(供述)」

証人=大谷木豊次郎(五十八歳・浦和自動車教習所法令指導員。事件当時、埼玉県警察本部捜査一課・課長補佐)

                                          *

佐藤検事=「先ほどの証言で、中勲という方の話が出ましたね」

証人=「はい」

佐藤検事=「この方は当時どういうポストにあった方ですか」

証人=「刑事部長です」

佐藤検事=「県警本部刑事部長ではなかったですか」

証人=「県警本部刑事部長で、捜査一課です」

佐藤検事=「それで課長と言われたんですね」

証人=「はい」

                                          *

裁判長=「今朝ほどからの証言によりますと、あなたは、自分の考えるところの有効な張込み態勢だというんで計画を立てた、その書面も作ったと、こういう風に言われたようですね」

証人=「書面は・・・・・・」

裁判長=「最初作って、今はないかも知れないが」

証人=「それは、あそこの警察署の刑事課長と署長が作っておったのを検討して、それでよろしいと」

裁判長=「合作でも何でも、とにかく作ったと、あなたの意志の入ったやつを」

証人=「はい」

裁判長=「それから、県警本部から応援が十二、三名来て、そこで人が変わっちゃったと、張込みの人が変わったという風な証言でしたが、それの二つの配置態勢があるわけですが、その配置態勢というもののどこに張込ませるかという点については同じなんですか、それともあなたの自分の意志が入ったものとはこことここが違う、こういうところに置けばいいんだと、自分の意志で作ったその配置の場所までが、変改された点があるでしょうか」

証人=「一部についてはありますけれども、大方については同じです、ただ配置人員については」

裁判長=「それは、さっき聞いていますからね。人が変わったんでやりにくくなった、掌握できなかったという趣旨の証言。これはいいとして、そうすると配置予想図というものを仮に作るとすれば、大体において一致するわけですね。さっきあなたが言った佐野屋のこれは川越街道に面したところだが、それを含めてやや長方形の、麦畑のところの少し片方が短い長方形、そういう、道路によって取り囲まれた大体四つ角くらいは張込みをさせるという態勢においては、大体同じだったわけですか」

証人=「そうです」

裁判長=「ただ、あなたの言わんとするところは、土地に通じている者ということを主眼として配置態勢を作ったんだが、それを無視されて、土地のカンもないような人を混ぜられたと、それで後で考えてみれば、これは失敗じゃないかという風に感ずる原因になったという風に言われるわけですね」

証人=「はい、そうでございます」

裁判長=「すると少し網の目が粗いかも知れないが、包囲態勢というようなものをあなたは作るつもりだったのですか」

証人=「はい、包囲態勢を作ってあったわけなんです、そこに先ほど示された配置図面の他にもっと、図面から言えば向かって左の方のところにも配置してあったわけです」

裁判長=「左の方というのは、佐野屋を目の前にして、そして左手の方ですか」

証人=「そうです、その図面に載ってないところでございます」

裁判長=「(当審記録第十冊三一九丁昭和四十年六月三十日の検証調書添付第三見取図を示す) しかし、これは川越街道なんでしょう」

証人=「川越街道のさらに左側の方の、図面に載っておりませんが、そちらの方の交叉点の方へも配置してあります」

裁判長=「すると、川越街道すじを重視したわけですね」

証人=「至宮寺方面と書いてありますけれども、こちらの方の十字路です」

裁判長=「これは、川越街道の方ですね」

証人=「ええ、それから山本製作所・・・・・・」

裁判長=「どちらが川越街道ですか」

証人=「宮寺方面と書いてある方が川越街道です」

裁判長=「山本製作所の方へ行くのは、何というんですか」

証人=「これは、何といいますか、ちょっと」

裁判長=「そうすると、この道路の方を相当重視したというわけですね」

証人=「そうです」

裁判長=「これは、車で来る可能性があるからということですね」

証人=「そうです」

裁判長=「天気が、さっき、その日、あまり良い天気じゃなかったと。十時頃、配置態勢として出動する頃に天気になった、月もあったように思うという証言をしましたね」

証人=「はい」

裁判長=「月はどれくらいの大きさの月だったか覚えていますか」

証人=「配置に付いてから、月が上がったような気がするんです」

裁判長=「どっちからですか」

証人=「十時頃に月の出だったと思います」

裁判長=「どっちから」

証人=「東の方からです、佐野屋の方面から見まして、バス停の赫下停留所というのがありますが、そちらの先の方です」

裁判長=「佐野屋に向かってどっちですか」

証人=「佐野屋に向かって、佐野屋の方面からです」

裁判長=「佐野屋の方面というと東の方から出たと」

証人=「はい」

裁判長=「東の地平線の方から出たのを、あなたは当時見たと言うんですか」

証人=「あそこの後ろの方が佐野屋の家だとか、あるいは木があったかと思うんですが、そういうような上の方に出たような気がしたです」

裁判長=「いずれにしても、佐野屋の屋根越しに東の方と思われるようなところから出てきたのが見えたと」

証人=「ええ」

裁判長=「どのくらいの月ですか」

証人=「月はもう十七、八日から二十日に近い月じゃなかったかという気がするんですが、どうもその点、はっきりしません」

裁判長=「すると頭の上にあったのか、佐野屋に向かって目の前にあったのか、頭の後ろにあったのか、その点どうですか」

証人=「最初は真上でなかったように記憶しておりますが、十二時頃になったらもう真上へ来てたんです」

裁判長=「その頃は天気になっていたのですね」

証人=「その頃は天気になっておりました」

裁判長=「すると十二時頃になって、月の明かりで、二十日近くだということになると、相当明るい月ですね」

証人=「あの晩は、月が出てからは明るかったですけれども、月の出る前は・・・・・・」

裁判長=「それはもちろんです、私の言ったのはそうじゃなく、あなたは、十時頃にそういう風な月を見たんでしょう、それから問題の十二時頃になったらどうなったか」

証人=「十二時頃かなり明るくなりました」

裁判長=「明るかった」

証人=「明るいと思いました」

裁判長=「あなたを責めてるんじゃなく、あなたの記憶がどうだったか聞いているんですから、神経質に考えなくてもいいです」

証人=「ちょっと忘れました」

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昭和四十六年三月十八日       東京高等裁判所第四刑事部

                                                   裁判所速記官  沢田怜子

                                                   裁判所速記官  佐藤房未

                                                   裁判所速記官  佐藤治子

                                         *

証人=大谷木豊次郎元県警捜査一課=課長補佐への尋問は今回で終了し、次回からは梅 沢茂=捜査三課員への尋問が始まる。