アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 654

(狭山事件裁判資料より転載)

○冒頭より始まる会話は病院の待合室における老人同士のつぶやきではなく、れっきとした裁判長と証人との問答である。特に血圧に関する話題に及ぶについては、やや心配になるほど裁判長は夢中になる・・・・・・。

【公判調書2039丁〜】

                 「第四十一回公判調書(供述)」

証人=山下了一(五十二歳・無職。事件当時、埼玉県警本部捜査一課)①

                                          *

裁判長=「証人は現在無職ということですが病気ですか」

証人=「はい。昭和四十三年春からと思いますが、医者のいうところによると脳腫瘍ということで、今も東京の慶応病院に通っています」

裁判長=「どの程度通っているのですか」

証人=「月に二回ないし三回ぐらいです」

裁判長=「入院したことはあるのですか」

証人=「昭和四十三年の春頃から八月頃まで入院しました。そのほか右の目が悪くて地元の眼科に通っています」

裁判長=「証人は、石川一雄という人の事件で一審の浦和地方裁判所に証人に出たことがありますね」

証人=「あります」

裁判長=「それは何年何月か記憶ありますか」

証人=「昭和三十九年か四十年ごろではないかと思います」

裁判長=「事件がいつ起きたか記憶ありますか」

証人=「昭和三十八年か三十九年だと思います」

                                          *

裁判長=「それで、あなた四十三年春病気になって、それから入院したと、春から夏にかけて入院したのは脳腫瘍の疑いですか、脳腫瘍ですか」

証人=「脳腫瘍だといって、病院のほうも、脳腫瘍だと言ったり脳挫創だと言ったりです」

裁判長=「脳挫創というと、何か物にぶつかって、脳の内部、頭の内容が少し変化をきたしたという風にも考えられますが、何かぶつかったとか、外部的な衝撃を受けたことがあるんでしょうか」

証人=「そういうことはございません」

裁判長=「右の目が悪いとか、それはいつ頃からですか」

証人=「やっぱり四十三年のあれで、その頃だと思います」

裁判長=「視力がないんですか、視力はある程度あるんですか」

証人=「右の目はほとんど霞んで見える程度で、左の目でまあいろいろ新聞を読んだりはしているような状態です」

裁判長=「それまでは目も不自由なく、脳の方も腫瘍であるとか挫創であるとかいうことを診断されるようなそういう故障は全然なかったんですか」

証人=「ありません」

裁判長=「そうすると四十三年春くらいにそういう風になったんですか」

証人=「はい。自分では、そう、あまり自覚症状は。やはり入院した四十三年春前後からだと思いますが」

裁判長=「特に自分がこういうことが原因じゃないかと思い当たるようなことはなかったんですか」

証人=「まあ血圧が高いくらいでそう特には」

裁判長=「血圧が高いというのは何歳くらいからですか」

証人=「そうですねえ・・・・・・」

裁判長=「四十三年というのは五十二歳だから五十歳くらいですね、体の具合が悪くなったのは」

証人=「まあ、そうだと思います」

裁判長=「それまでは別に血圧が高いくらいでほかには」

証人=「何もありません」

裁判長=「血圧が高くなったのを自覚したのはいつ頃からですか」

証人=「やはり入院する頃だと思います」

裁判長=「その前は血圧が高い、医者に診てもらわなければ、血圧が百いくつだということを測ってみたことはないんですか」

証人=「ありますが、そんなに苦痛を感ずるようなことはありませんでした」

裁判長=「どれくらいありました」

証人=「血圧ですか、百八十。百から、百八、九十くらいです」

裁判長=「その時代には仕事をしても特に具合が悪くなるというようなことは無くて過ごして来たわけですか」

証人=「そうです」

裁判長=「百八、九十でも働いていたというわけですね」証人=「そうです」

                                          *

裁判長=「それではあなたの警察官としての略歴を簡単に伺いたいんですが」

証人=「昭和十五年警察官を拝命しまして埼玉県の巡査です。それから二十一年だと思いますが巡査部長です。これは熊谷署です。それから二十二年県警本部鑑識課巡査部長、それから翌二十三年そこで警部補、それから三十年に警部になって大宮署です」

裁判長=「そうすると鑑識にいた頃は二十二年から三十年まで県警本部」

証人=「はい、それから大宮署です。それから三十二年浦和署の警部です。三十四年県警本部捜査一課です。そして三十九年警視です。確か春で三月かその辺です」

裁判長=「その頃にはこの事件は浦和の地方裁判所でどうなってましたか」

証人=「公判だと思います」

裁判長=「まだ判決の言い渡しはないですか」

証人=「なかったと思います」

裁判長=「その次は」

証人=「四十二年、健康を害したり家庭の事情によって退職、現在です」

裁判長=「先ほどあなた、前の裁判所で証言したのは三十九年か四十年頃と思うということでしたが、実際は三十八年九月三十日に証言しておるわけです。第二回公判に」

証人=「ああそうですか」

裁判長=「事件が起こったのが三十八年五月一日、その同じ年の九月三十日に公判廷で証言されているんです」

証人=「ああそうですか」

裁判長=「その時どういう証言をしたか、今、覚えていますか」

証人=「狭山に行って、夜、当時被疑者ですか、に逃げられた時の状況という風に」

裁判長=「その時述べられた時のことは後で考えてみて、あの時の言葉は少し足りなかったとか、間違っていたとか、あるいはもっとこういう風な点を補充すべきであったということを、後で考えたことはありますか」

証人=「もう、あれですね、ちょっと考えたことも・・・・・・、あんまり記憶ないですね」

裁判長=「自分では記憶のままに、ありのままに述べたつもりであると」

証人=「その当時はそう思っています」

裁判長=「大体自分としてはありのまま述べたつもりであると」

証人=「はい」

裁判長=「それでは今ある記憶のままに述べて下さい」

証人=「はい」

                                          * 

宮沢弁護人=「証人は昭和三十八年当時、県警の捜査第一課におられたということですね」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「どういうことを担当されておりましたか」

証人=「まあ主として犯罪の捜査の関係ですが」

宮沢弁護人=「捜査一課というと主としてどういう犯罪が内容になるんですか」

証人=「まあ刑法犯の関係は殆どやったように記憶しておりますが」

宮沢弁護人=「その時の地位は先ほどのお話では警部でございますね」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「そうすると何人か部下がおられたんですね。何か課長とかそういう地位は」

証人=「そういう関係でなくてあそこの機構というのは、まあ事件が発生しますとですね、課長の方から、山下、金子、木村とか、そういう風に、行けとこういう下命があってですね、その事件に行って捜査するわけです」

宮沢弁護人=「そうするとこの昭和三十八年五月一日に例の狭山の善枝ちゃんの誘拐という、いなくなったというような事件もやるんですね」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「その時あなたはその捜査に参加されましたか」

証人=「参加しました」

宮沢弁護人=「どういう風な指示があって参加したわけですか」

証人=「狭山にこういう風な事件があったから行くようにと」

宮沢弁護人=「誰から言われたんですか」

証人=「当時の部長か課長だと思いますが」

宮沢弁護人=「そうすると捜査一課からは何人くらい行かれたんですか」

証人=「それは逃走事故があった日ですか」

宮沢弁護人=「五月一日です」

証人=「そうですね、はっきりした数字は記憶ありませんが、十八前後かも知れません」

宮沢弁護人=「あなたはいつ狭山に行かれるようになりましたか」

証人=「その翌日だと思います」

宮沢弁護人=「そうすると五月二日ということになりますか」

証人=「ええ、張込みをやった日ですから」

宮沢弁護人=「そうすると張込みに行ったのはあなたは何時頃狭山に到着されたんですか」

証人=「八時か九時頃だったと思いますね」

宮沢弁護人=「そうすると張込みの時あなたはどういう部署と言いますか、担当をされたんですか」

証人=「犯人が来たら逮捕するようにという」

宮沢弁護人=「ですが、その時は大勢の警察官が派遣されたわけでしょう」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「その時どういう担当を指名されたんですか」

証人=「地点を示されて、こういうところに行って張込みをするようにという指示を受けました」

宮沢弁護人=「そうすると、あなたが具体的に張込んだ地点というのはどこになりますか」

証人=「店の名前は忘れましたが、店の前の茶畑でした」

宮沢弁護人=「店は佐野屋じゃないんですか」

証人=「佐野屋です」

宮沢弁護人=「当日は暗かったんですか、明るかったんですか」

証人=「逃げられましたから、その、見てどっちに行ったか分からなかったので暗かったと思います」

宮沢弁護人=「何か天候で特に変わったような記憶はありませんか」

証人=「暗かったんだから曇ってたんだと思います」

宮沢弁護人=「その程度のご記憶ですか。雨が降っていたというようなご記憶はどうですか」

証人=「現場に行ってから、降ってなかったと思いますが」

宮沢弁護人=「具体的には先ほどの、どの辺の位置に待機されてたわけですか」

証人=「佐野屋から道をへだてて十メートルか十五メートルあったです」

宮沢弁護人=「当日警察官は全部でどれくらい張込まれたかご存じですか」

証人=「まあ地元の署員と一課員で、はっきりした数字は現在記憶ありませんが、十五ないし二十人くらいいたかと思いますが、両方ですから」

宮沢弁護人=「もっとたくさんいたんじゃないですか」

証人=「その点は・・・・・・、何人くらいだったか明確な数字は覚えていません」

宮沢弁護人=「その配置はどういう風にしたかということは」

証人=「まあ佐野屋の前とか、茶畑とかというところはすぐ近くですから分かりますが、他のところは何処と何処ということはちょっと忘れましたですね。私もあそこに初めて夜行ったものですから、何処と何処というのはちょっと分かりません」

宮沢弁護人=「あなたが張込んだ時は一人で張込まれたんですか」

証人=「いや狭山署の警察官と一緒でした」

宮沢弁護人=「捜査の時は捜査一課の人と狭山署の人とペアで張込む形でやられたんですか」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「あなたはそれまで狭山には行ったことあるわけですか」

証人=「警察には行きましたけれども、事件があったところには初めて行きましたんです」

宮沢弁護人=「そうすると二人で張込ましたということは何か土地勘のある人が付いて一緒に張込んだということになりますか」

証人=「そういうんじゃなくして地元の人とうちの方の一課の人というあれでやったと思いますが」

宮沢弁護人=「地元の人が張込むというのは、やはり土地にある程度明るい人をという配慮があったんじゃないんですか」

証人=「一人ではあれだからというので二人ずつというので、一課の人同士でやったところもあるし、狭山のほうでやったところもあると思います。その勤務割の関係は、私の方はそこに張込むほうの関係ですからよく分かりません」

宮沢弁護人=「それは言うまでもなく二十万円受取りに来る犯人を捕らえようということでやられたんですね」

証人=「はい」

(続く)