アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 609

【公判調書1902丁〜】

                  「第三十九回公判調書(供述)」⑲

 証人=中  勲(五十七歳・埼玉県消防防災課長。事件当時、埼玉県警刑事部長)

                                          *

石田弁護人=「五月十四日夜あなたが記者会見されて、この事件の容疑者を別件逮捕するようなことはしないと、物証を揃えてずばり殺人容疑の本筋で逮捕するという言明をされておるようですね。それ覚えておられますか」

証人=「記憶ございませんけれども、あるいはそう言ってるかも知れません。そのつもりでおりましたですから」

石田弁護人=「その新聞報道によると五月十四日夜、あなたがそういう言明をしているようなんですが、その段階で容疑者は捜査本部では相当数が多かったんですか、それともかなり絞られておったんでしょうか」

証人=「まだその段階では全然海のものとも山のものとも分からないような状態だったと思います」

石田弁護人=「石川一雄君を五月二十三日に別件逮捕しましたね。その被疑事実、逮捕状の被疑事実の中に恐喝未遂というのが入っているんですね」

証人=「はい」

石田弁護人=「覚えておりますね」

証人=「はい。覚えております」

石田弁護人=「恐喝未遂の逮捕状に添付する容疑資料というものは何かあったんでしょうか」

証人=「これは筆跡が同一であるという鑑定の中間結果を得たと思いますけれども、これを添付いたしたように覚えております」

石田弁護人=「それは誰が作成した鑑定の中間結果なんですか」

証人=「関根技官ならびに科学警察研究所、今は何て言ってますか、当時はそこでございます」

石田弁護人=「今までこの、先程の記録の中に現れている資料によりますと、筆跡の鑑定書は関根技官などのが六月一日付で、科学警察研究所の鑑定が六月十日付になっている。要するに筆跡の鑑定の資料は五月二十三日の」

証人=「二十二日ですね、二十日頃でしたか取りまして、翌日鑑定に出しまして翌日に中間連絡が来ている筈でございます。それを資料に添付した筈でございます。正式鑑定結果はそういう日取りになると思いますが」

石田弁護人=「鑑定結果がまだきちんと出ていなかった筈ですね、五月二十三日は」

証人=「中間連絡が来ておった筈です」

石田弁護人=「どんな中間連絡の内容だったんですか」

証人=「同一筆跡と認めるということでございました」

石田弁護人=「結論が出されれば鑑定書が作られるんじゃないんですか」

証人=「鑑定書というのはご存じのように、例えば解剖にしても、面倒なやつなら一週間かかってようやく間に合わせるというのでこれが普通でございまして、特に筆跡鑑定などは写真を細かく撮りまして、正式鑑定書を作るには相当な日数がいります」

石田弁護人=「その中間報告というのは文書でなされておったんですか」

証人=「科警研のは電話で受けたんです」

石田弁護人=「電話聴取書を、五月二十三日の逮捕する際の逮捕状の疎明資料にしたんですか」

証人=「ご検討いただきたいのですが、書類を、関根技官のは中間報告の形式を取っておるんだと思いましたが。細かい点は私、書類を見ておりませんのでよくわかりません」

石田弁護人=「そのほかには。恐喝未遂関係はあったんですか」

証人=「脅迫状だと思います」

石田弁護人=「それ以外ないわけですね」

証人=「ええ」

石田弁護人=「六月十七日に再逮捕しましたね」

証人=「はい」

石田弁護人=「保釈と同時に再逮捕」

証人=「はい」

石田弁護人=「その後、再逮捕の際に恐喝未遂に関して、新たな資料が捜査本部に何か収集されたんですか。あるいは恐喝未遂なり殺人でもいいんですが」

証人=「これにつきましては現場の足跡ですね、佐野屋の付近に印象された足跡と、被告人方から押収した足跡が一致をするというようなものが加わっておると思います」

石田弁護人=「それ以外には何かありますか」

証人=「それ以外には例えば五十子米屋の手ぬぐいの捜査関係、あるいは月島食品のタオルの入手状況、あるいは血液型というようなものが加えられたと思いますが」

石田弁護人=「まあ要するに疑えば疑えるという程度の情況資料ですね」

証人=「ええ、まあ一応疎明資料を集めまして、令状請求ということに致したわけですから」

石田弁護人=「疑わなければ疑わないで済むような資料の内容ではありませんか、手ぬぐいだって」

証人=「そうですね、手ぬぐいにしましても結論的なものは出ておらなかったように思いますが、それと、要するに入手可能であるということで・・・・・・」

石田弁護人=「五月二十三日に石川一雄君を別件逮捕した際には、あなたは新聞記者に、報道関係者に所信を表明されておりますね、確信をもって追及するというようなことを言われた覚えがあるでしょう。善枝さん事件について」

証人=「再逮捕後ですか」

石田弁護人=「第一次逮捕の時」

証人=「あんまりどういうことを言ったか、はっきり記憶ございませんが」

石田弁護人=「当時の報道記事、いろいろな新聞あるいは週刊誌など、いろいろ見ますと、いろいろな表現はあってもあなた善枝さん事件について確信をもって石川君を追及するんだという趣旨のことを言っておるようなんですがね」

証人=「まあ少なくとも筆跡が一致すると、同一であるというような結論が出るとすれば当然捜査責任者としては確信をもって追及をするということになると思いますが、どのような言い回しで発表したか、記憶しておりませんが」

石田弁護人=「じゃ、まあちょっと読んでみましょうか」

                                         *

検事(佐藤、以下検事と表記)=「ちょっと裁判長、ただ今弁護人がお読みになる資料は証拠に提出になっておるものでございましょうか」

石田弁護人=「これ証拠にして申請はしましたが、採用されてないわけです」

裁判長=「そういうものがあるということとして出ているものに入ってませんか」

検事=「本年四月二十一日ですか、その時の弁護人からの証拠調べの請求の中にいろいろその新聞記事とか、週刊誌の記事などが証拠調べ請求をなされておりますが、検察官はこれに対して六月に意見を申しまして、同意はいたしておらないんですが。ですからこの尋問は問題でございます」

石田弁護人=「あること自体は検察官も承認されております」

裁判長=「四月三十日の第三十八回手続調書には結果は何も書いてないので、ただそういう立証の申立てがあるそれのままになっているようですね、これは五月二十三日ですか」

石田弁護人=「三十八年五月二十三日付。私が今、読もうとしたのは毎日新聞の夕刊ですが、それじゃまあ聞き方を変えましょう、時間の問題もありますので」

裁判長=「そうですね」

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事件当時、誰のいたずらか狭山署の門に「刑札」と落書きがしてあったという。写真は"差別が奪った青春"部落解放研究所・企画・編集=解放出版社より引用。

その落書きは当て字でありながらも中々達筆な書体であり、何やら脅迫状と共通点がありそうだが、この件に関しての追加情報は無い。