アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 606

【公判調書1895丁〜】

                  「第三十九回公判調書(供述)」⑯

証人=中  勲(五十七歳・埼玉県消防防災課長。事件当時、埼玉県警刑事部長)

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石田弁護人=「捜査の方針としまして死体発見前はどんな方針を立てられましたか」

証人=「これはたまたま吉展ちゃん事件が起きておりましたので一応営利誘拐であろうということで捜査を進めてまいりました」

石田弁護人=「具体的に若干言っていただくとどういうことになりますか」

証人=「脅迫状にですね、二十万とか持ってこいということがありますから金銭目当てにどこかに連れ込んだんであろうという、主として被害者救出の捜査を重点に進めたわけでございます」

石田弁護人=「死体発見後はどんな捜査をなさいましたか」

証人=「死体が発見されました後は、三日の未明でございますか、佐野屋の現地付近に参りましたところがたまたま五月ですから茶畑麦畑、菊畑ですか、あれ非常に現地を一目見ましてこれはおそらくやられておるんではないかというような推測が出来たものですから直に本部長の許可を得まして機動隊を動員すると、同時に消防団にお願いしまして、あの辺一帯の捜索をしようと、人家もございませんし、いずれにしても私は殺されておるんじゃないかと直感したんでございます」

石田弁護人=「ちょっと戻りますが五月四日死体発見直後の午後一時半頃でしょうか、お昼すぎ頃特捜本部であなたが捜査経過の説明を報道関係者にしておるようですが覚えておられますか」

証人=「一日のうちに最初のうちは数回やっておりますから何月何日いつ頃と言われても記憶ございませんが、いずれにしてもしょっ中やっておりましたし、むしろ、やるという理由も報道関係からそういう要望がしょっ中出されたのでやっておりました」

石田弁護人=「何か五月二日深夜の犯人取り逃しの件について、捜査本部のほうでは五月二日夜犯人が県道を通って来るものと想定して捜査員を布陣したというような説明をなさった覚えはありますか」

証人=「これはしたかも知れませんが、と申しますのは、脅迫状に車で来るということが書いてありますから、おそらく車で来るという最初、所轄署では布陣をしておりますので、そういうことを発表したかも知れません」

石田弁護人=「それから同じ機会に、捜査員に土地勘がなかったということも報道陣に説明されているようなんですが、覚えておられますでしょうか」

証人=「ええ、あるいはこれも言っているかも知れません」

石田弁護人=「狭山署の刑事でも土地勘のない人がかなりおったんでしょうか」

証人=「初めての人が大部分です。佐野屋付近の状況を知悉している捜査員は殆どおらなかった。あれならばもう少し事前に現地調査をして張込むべきだったという反省をしたんです」

石田弁護人=「何か新聞記事によりますと、県警本部から大勢の捜査員が動員されて、地元の警官は少なかったので土地勘がなかったんだという風な説明が当時の新聞報道などでなされておりますが」

証人=「これはですね、先程申上げました通り確か七名か八名が本部から応援いたしまして、あとは全部地元の警察署員であったわけですが、従ってそこの署員でないために、土地勘がないという者はわずかだと思います」

石田弁護人=「死体が発見されて、いよいよ殺人事件だということになったわけですね」

証人=「はい」

石田弁護人=「基本的な捜査方針といいますか、そういうのはどういうように立られたんでしょうか」

証人=「これはもう一応、地取り聞込みというのが初期捜査の基本でございますので、これはもう、もとより地取り聞込みに中心をおきます捜査を中心にしたんですが、死体が発見されましたので、死体についておりました佐野屋の手ぬぐい、月島食品のタオル、死体解剖の結果の、被害者の体内から発見された体液による血液型、それと確か五月六日頃と思いますが、例の石田豚屋さんから五月一日の晩にスコップを盗まれたという届出がございましたので、これが死体を埋めるのに使われたんじゃないかという風に考えられましたので、スコップを盗みうる者、あるいは佐野屋、あるいは被害者の家の付近、死体埋没現場付近の地理にある程度通じておる者という風な者に重点を置きまして、それぞれ特捜班を編成いたしたわけでございます。あともう一つは筆跡関係、脅迫状の筆跡を中心とする捜査ですね」

石田弁護人=「石田豚屋からスコップが盗まれたという届出の際、従来も無くなったことがあるだろうか、どうだろうかという点について、捜査員が確かめたかどうか、その点は報告を受けましたか」

証人=「はっきりしておりません」

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スコップが盗まれたという養豚場の水桶。写真は"差別が奪った青春"部落解放研究所・企画・編集=解放出版社より引用。ちなみに、被告人が遺体を埋めるため盗んだとされるスコップだが、付着した土壌等の成分分析から、発見されたスコップは養豚場で使用されていた形跡はないと弁護側は主張、いたる所に黒い闇が顔を出すこの狭山事件であるが、最高検が証拠開示を拒み、裁判所が再審請求を認めないという理由はこれらの闇が明るみになる事を恐れていることに他ならない。