*老生が思うに、所詮、パチンコなどを通した人間関係などは、こういった真剣勝負の場に於いてはその関係の薄さ、浅さが浮き彫りになり、例えば上記の金子証人にとっても、単なる時間の無駄、あるいは迷惑千万な厄事と受け止められ、従って裁判の証人としては正確な事実を引き出すことは無理であろう。石川一雄被告人の五月一日のアリバイを証明出来る数少ない証人のはずであったが、この青果物商は、その意味において不適格であった。
狭山の黒い闇に触れる 316
【公判調書1232丁〜】 証人=金子金三(二十九才・青果物商) 弁護人=「それからあなたは、あなたがたまたま店にいる時、あなたの店の前を通る石川を見かけたなんてことはありませんか」 証人=「分かりませんね、忘れちゃって」 弁護人=「例えばあなたがその野菜を車に積んで売りに歩くようなことはされましたか」 証人=「全然やってません。ここんところ」 弁護人=「以前はどうですか」 証人=「以前は、たまにはリヤカーでやっていました」 弁護人=「あなたは石川の家は知っておりましたでしょうか」 証人=「ええ、知っていました」 弁護人=「そういうリヤカーで石川の家の方へ野菜を売りに行ったようなこともありましたでしょうか」 証人=「はい、ありました。たまには」 弁護人=「そうすると石川の家を知ったのは、そういう売りに行った時にたまたま石川の家の付近に行って、あゝあそこだなということで分かったんでしょうか」 証人=「そうです」 弁護人=「そうすると、まあ例えば道なんかで石川と顔を合わせました場合、そうするとまあ何というのかな、ちょっと言葉くらいは交わすようなことは、そういうような程度の知り合いでしょうか」 証人=「そうですね」 弁護人=「この○○(被害者名)ちゃん殺しがあったという昭和三十八年、まあ五年前の話なんですけどね、大分古いんですけれども、その三十八年の五月頃、事件のあった頃、あなたが店にいた時にあなたの店の前を通る石川を見かけたことはないでしょうか」 証人=「忘れましたが」 弁護人=「その頃とはまあ限定しないで、とにかくいつでもいいですから、石川が店の前を通るのを見かけてパチンコかい、といったようなことを、声をかけたようなことはなかったでしょうか」 証人=「忘れました」 弁護人=「これは仮定の話ですよ、ですから実際あったことではないんで、仮にあなたが店か店の前付近にいた時に石川が道路を通ったとした場合、あなたが、お、パチンコに行くのかい、というようなことを声かけるようなことは、あなたとしてはあり得ると思いますか、その程度のことはすると思いますか」 証人=「と思います」弁護人=「それからあなたは、この石川のことと言いますかね、○○(被害者名)ちゃん殺しという事件にまあ、絡んで、警察から調べを受けたられたことはありませんですかね」 証人=「ありませんね」 以上、沢田伶子(裁判所速記官)