アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 643

(狭山事件検証調書より転載。本文とは関係ないが、写真の縦線は狭山工業高校を指しており、その霞んで見える茶畑からの光景は、事件当時の陰鬱な状景を現在に伝えていると思えてならない)

【公判調書2006丁〜】

                   「第四十一回公判調書(供述)」②

証人=竹内武雄(五十六歳・埼玉県交通教育協会評議員。事件当時、狭山警察署長)

                                         *

宇津弁護人=「それではあなたと関さんがね、石川君と会ったときの模様についてお尋ねしますが、そのときには嘘発見器にかけられたことについて話題が少し出ましたか」

証人=「全然しませんね」

宇津弁護人=「どういう話題が交わされたのですか」

証人=「今、そうはっきり記憶がありませんが、まあ半分は雑談、半分は本人の気持ちをほぐすというかね、やわらかにしようという気持ちが大部分ですね。調べという程ではないですね。ただ、なんとなく印象を掴もうという感じですね。感じを掴もうと、それと本人をもう少し、和らげようという私の感じですね、調べというような畏(かしこ)まった本格的な調べじゃないです」

宇津弁護人=「そうすると、目的は気持ちを和らげ、同時に印象を掴もうということですね」

証人=「そうです」

宇津弁護人=「印象というのは事件についてのですね」

証人=「そうです」

宇津弁護人=「あなたなりの心証を取ろうと」

証人=「判断をしようと」

宇津弁護人=「そういう風に聞いていいですね」

証人=「そうです」

宇津弁護人=「証人と関さんが石川君と会ったときは他の取調官などは同席しましたか」

証人=「いません」

宇津弁護人=「三人だけですか」

証人=「ええ、三人ですね」

宇津弁護人=「会った場所はどこですか」

証人=「留置場の隣の部屋と思うんですがね、普通の取調室ですね」

宇津弁護人=「被疑者の取調べに使う部屋ですか」

証人=「そうですね、すぐ隣の部屋ですね」

宇津弁護人=「何号室とか、そういう表示はありますか」

証人=「はっきりしませんが、一か二かどっちかの調べ室か、とにかく隣の部屋です。留置場のすぐ脇の部屋ですね」

宇津弁護人=「それはわざわざ留置場から石川君に出てもらって、それで会ったわけですね」

証人=「そうです」

宇津弁護人=「取調べの途中に中断してもらって会ったというのではないですか」

証人=「そうじゃないです」

宇津弁護人=「会った時間はどのくらいでしたか」

証人=「はっきりした記憶がありませんが、せいぜい二、三十分程度だと思います」

宇津弁護人=「世間話という内容はどういうものだったんですか」

証人=「そうはっきりは憶えてませんね。ただ、まあ関部長が大体野球の話とかそういうようなことですね、何か雑談に触れた記憶はありますが、そのほか、そう記憶はありませんね」

宇津弁護人=「具体的内容は結構ですが、あなた自身も何かと石川君に話しかけたことがありますか」

証人=「ええ、若干、二言三言は話しております」

宇津弁護人=「主に関巡査部長が話をかけたんですね」

証人=「ええ、私はちょっと口添えというか、話した程度ですね。何を話したか、私憶えておりません」

宇津弁護人=「その時点でのあなたの先ほどの狙いとしたあなたの心証ですね、印象という言葉を使われましたが、その内容はどういう結果でしたか」

証人=「結果と申しますと」

宇津弁護人=「会ってみた結果、あなたの印象はどうだったかと」

証人=「黒と断定したかということですか」

宇津弁護人=「会ってみた結果、どういう印象を受けましたか」

証人=「まあ、捜査官よりは私の印象というのは自信を深めたという印象でした」

宇津弁護人=「そうすると、そういう印象に到達するためにいろいろ発問があったと思いますが、石川君にね。どういうような質問をした記憶がありますか」

証人=「質問の内容は私よく憶えておりません。ただ、その態度姿勢というか、関部長と話しておる印象を私は掴んだということです」

宇津弁護人=「どういうやり取りの中から」

証人=「もう七、八年前のことですから、今、どうと言っても憶えてません、記憶ないです。ただ会って印象を掴んだことは間違いないです」

宇津弁護人=「あなたは関部長と石川君がどういうやり取りをしていることが印象に残っておりますか」

証人=「当時、まあ、近所に住んでおって、野球をしたとか、そういうようなことが大体中心に頭に残っております。ですから、関部長が全然被疑者を知らないわけじゃないんだと。知っておるもんだから、まあ、事実は事実でというような意味でですね、関部長はそう具体的な、ああ、ここでというんでなくて、雑談を交えて話したということですね。それを私は脇で聞いておったということです」

宇津弁護人=「まあ、事実は事実として話したらどうかということもあったわけですね」

証人=「そういうことも多分触れたと思います」

宇津弁護人=「石川君は狭山署で、いわゆるポリグラフですね、嘘発見器にかけられたことはご存じですね」

証人=「ええ、そんな記憶はありますね」

宇津弁護人=「その検査の結果は一応署長であり捜査本部の副本部長であるあなたに知らされたわけでしょうね」

証人=「そうですね。まあ、抽象的にであっても聞いています」

宇津弁護人=「結論はね」

証人=「ええ」

宇津弁護人=「そのポリグラフの検査の結果はどうだったという報告がいってますか。証人には」

証人=「そうはっきりは記憶はないですね。もちろん、まあ、一応白黒と言えば黒という程度の線ということは聞いてますが、どこがどうという内容は私ちょっと記憶がありません」

宇津弁護人=「その、関さんがあなたと一緒に会ったときに関さんがまあ、事実は事実としてというような調子で聞いたと言いますがね、まあ、嘘発見器にも黒と出ているんだがというような話も出されていたようですか」

証人=「そんな記憶はないですね」

宇津弁護人=「それから石川君が証人に対して、三人で何かやったことを裁判所に行ったら話すんだというようなことを言ったことありますか」

証人=「三人ですか」

宇津弁護人=「ええ」

証人=「私聞いてません」

                                          *

裁判長=「ちょっと待って下さい。今の問の趣旨は分かりましたか」

                                          *

宇津弁護人=「私の質問の趣旨は分かりましたか」

証人=「三人で共犯でやったという意味でしょう」

宇津弁護人=「いやいや、そうじゃなくて、狭山署におる時代に石川君があなたにね、三人でやったことについて裁判所に行ったら話すという意味のことを言われたことないですか」

証人=「狭山署ですか」

                                          *

裁判長=「いや、裁判所に出れば三人で犯罪をやったことを話すというようなことをあなたにそのとき話したかどうかということです。裁判所です、狭山署ではありません」

                                          *

宇津弁護人=「裁判所に行ったら何か話すと言っていたことありませんか」

証人=「聞いてません」

宇津弁護人=「それからあなたが関源三さんに石川君が三人でやったことについて石川君に聞いてきてくれんかということを頼んだことないですか」

証人=「ないですね、記憶ないです、全然ないですね。先ほど申したですね、それだけです。先生は大体食糧補給班の方を担当してましたから」

宇津弁護人=「誰に対する食糧補給班ですか」

証人=「捜査員に対するですね、二、三百人ですね、その方を中心にやっておりましたから、捜査の方はあまりやっておりませんでしたから」

宇津弁護人=「関さんは、どうも県警の方々が石川君を調べるときに入って行ったということは一度でないようだけれども、そういう食糧補給班なんかやっておる関さんがね、いわば自由に石川君を取調べするところに入って行けるということはあるんでしょうかね」

証人=「調べ室ですか」

宇津弁護人=「はい。調べ室というよりも、取調中のところに関さんが入って行くということはあったのですか」

証人=「狭山署におるときですか」

宇津弁護人=「はい」

証人=「それは聞いておりません」

宇津弁護人=「川越署の方はどうですか」

証人=「川越署の方は、私も付け加えて派遣しておりますから、それは私、知っております」

宇津弁護人=「今のお言葉確かめますが、川越分室時代はあなたが関さんを派遣したことがあるということですね」

証人=「はい」

宇津弁護人=「何度ありますか」

証人=「何度というか、六月二十一、二十二、あの辺ですね。二十日二十一、ちょっと記憶ありませんが二十日前後か、川越分室の方へ特捜本部の方で話がいって、私の方も抜いてですね、まあ、それじゃ川越署の方に関部長を出そうと、そして回したわけです」

宇津弁護人=「そうすると、関さんを川越分室にやろうという話は本部でも話が出たわけですね」

証人=「はい。私もまぁ会ってですね、当時の本部長に、刑事部長にも私の心証は大体こうだということを報告しておるし、こちらの方も若干手が空いてきたと、じゃ、取調べの方に関部長をやったらどうかということですね」

宇津弁護人=「そうすると正式に取調官として、取調官を送り込もうということですか」

証人=「正式な取調官と言いますかね、取調べは当時は長谷部警視とか本部の人がいますからね、補助としてやろうと」

宇津弁護人=「補助として取調べに関与させようということが捜査本部で出たということですか」

証人=「そうです」

宇津弁護人=「そうすると、少なくとも川越分室に行ってから後は関さんの役割りというのは食糧運搬というのではなくなったわけですね」

証人=「ええ。それは食糧運搬を外して川越の方の取調べ方へですね、補助として加わったということです」

宇津弁護人=「それは関さんを補助に付けた方が石川君を自白させるには適切ではあるまいかという判断があったわけでしょう」

証人=「そうですね、前に会った感じ、まあ、ほかの人もベテランであるが、うちの署員が加わらんのもどうかという気持ちもあったし、せめて私もうちの関部長が一番、取調べというより本人をほぐすには適当であろうというわけです」

宇津弁護人=「非常に重要な役割を与えたわけですね」

証人=「そうですね」

宇津弁護人=「当時の時期としては」

証人=「そうですね」

(続く)