(この石鹸の香りは非常に良い)
狭山の黒い闇に触れる 63
公判調書462丁。石川被告が長谷部証人に問う。内容は、被告が自白する直前、取調べ室での証人による発言についてだ。石川被告「〜証人が、石川君何時まで強情張っているんだ、もう○○ちゃん(被害者名)を殺したことに決まっているんだ、ここらで話したらどうだい、話さなくたって、どっちみち九件もやっているんだから十年はつとめるんだ、殺したと言えば十年で出してやると言うので、俺が真実に十年もつとめるのかと言ったら証人は、石川君だってうちにいる頃、単車を盗んだ人が八年もつとめていると言っていたではないか、十年は当り前だろうと言ったことを覚えているか」証人「そんなことを言った覚えはありません」 上記の石川被告の問いに出てくる“九件”とは、本件前に行われた別件逮捕の事であり、“単車を盗み八年”とは、本件発生より前の時期、石川被告の近所の人が単車を盗み八年ほどつとめる事になったと噂を聞いた事を指す。石川被告が長谷部証人に十年のつとめで出すと言われ、この頃石川被告は取調べ官らの奸計により内心、兄を疑っており、一家の大黒柱を失うくらいなら自分が罪を被ろうと心が折れかかっていた。そこでかつて聞いた噂、つまり近所の人が単車を盗み八年、が頭に浮かび、ならば俺は十年くらいなら妥当かなと考えてゆくのだ。