狭山の黒い闇に触れる 48
「あそこ調室に台みたいのがあるんだね、台叩いてね、ものすごいでかい声でね、新聞社の人もまわりにいたから聞こえたと思うんだがね」 肩を突かれ髪の毛を引っ張られ怒鳴られ、それでも石川被告は犯行を認めず耐えた。昭和の頃に多発した冤罪事件によく見られる拷問取り調べである、かといって暴力的な攻めだけかというとそこは海千山千の刑事たちである。石川被告は続ける「その日に諏訪部さん一人で夜ね、調べたと思いますけれど、俺の手を握ってね、泣きながら石川殺したと言ってくれと言ったわけですね、俺は狭山の人だから悪いようにしないと言ったけれどね、俺もつられて泣いちゃったけれどもね、俺は殺さないから殺さないと言ったわけです」(218丁) 実に狡猾極まりない手口であるがすでに石川被告を生贄と定めた警察側は、その黒い潮流の流れを増大させ、犯行自白を導くべく暗い深海に沈めていくのであった。石川被告が密室で拷問を受け犯人に仕立て上げられていく様は公判調書によれば、それは明らかである。なお、やはり石川被告による弁護人への答弁は上記の通り滞ることはなく、自白調書の不自然さとは対照的である。