【公判調書2929丁〜】
「第五十五回公判調書(供述)」
証人=小島朝政(五十六歳・財団法人埼玉県交通安全協会事務局長)
*
橋本弁護人=「(記録第五冊一三二五丁以下の昭和三十八年七月二日付、証人作成の実況見分調書を示す)それは証人名義になっておりますが、証人が作成したものに間違いありませんか」
証人=「はい、間違いございません」
橋本弁護人=「その添付写真の第九号をご覧になって下さい。そこに赤いしるしで時計と書いてあるのが時計ですね」
証人=「はい、そうです」
橋本弁護人=「その脇にビニールと書いてあるのは何ですか」
証人=「これは何かビニールの薄い袋で、何も入っていない、しかも雨に打たれてほこりの付いた、へりが破けかかったビニールの袋がその脇にあったのを記憶していますね」
橋本弁護人=「そのビニールの袋と時計とは何か関係があるように思われませんか」
証人=「私は思いませんね」
橋本弁護人=「そのビニールというのは袋になっていますね」
証人=「ええ、袋になっていたように記憶します。そうですね、三十センチに四十センチくらいになりますかね。何かこう、物でも入れる袋のようで、ほこりが付いて、雨に打たれたような、もう相当古い袋のように記憶してますが」
橋本弁護人=「そのビニールの袋を領置しましたか」
証人=「しませんでしたね。それは全然私は無関係のものだと思いまして、というのは、汚れておりましてね」
橋本弁護人=「結構です。領置しなかったんですね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「只今の実況見分調書は七月二日付になっておりますが、実際に見分をなさった日はいつですか」
証人=「その日でございます」
橋本弁護人=「七月二日ですか」
証人=「はい」
橋本弁護人=「見分を始めた時間は何時ですか」
証人=「記録には零時何分かとありますがね」
橋本弁護人=「記録の上でなくて、あなたの記憶では」
証人=「記録と間違いありません」
橋本弁護人=「記録に書いた通り、その時間に見分を始めたんですか」
証人=「はい」
橋本弁護人=「実況見分をした日は時計が見つかった日ですか、それとも、それよりあとの日ですか」
証人=「時計が見つかったという知らせがあってから現場まで行くに一時間、あるいは一時間ちょっと過ぎたくらいで、その実況見分は始めたと思いますね」
橋本弁護人=「その見つけた時計の処置はどうしましたか」
証人=「私は時計があった通報で、車で行って、鑑識係の者と行ってですね、それで現場周囲の状況を見て写真撮って、巻尺に入れて押収したように思いますね」
橋本弁護人=「それから署に持ち帰ったわけですね」
証人=「そうですね」
橋本弁護人=「署に持ち帰って、どうしたんですか」
証人=「持ち帰って、これは鑑識が見て、それで当時の刑事部長か何か、どういうんだというんで見たようですね。何人か捜査幹部が来て、まあ、もちろん、さわったり触れたりしてはならんということで、何人か見て、その後庶務の方で証拠として処理したんで、後は詳しいことは私記憶に残っておりませんですね」
橋本弁護人=「時計に触れたり、さわったりしてはいかんというのはどういう意味でしょうか」
証人=「というのはですね、この時計が雨に打たれてこの文字盤のガラスにほこりがたくさん溜まっているようなふうで、もちろん雨露がそれにこう付着しているような関係の状況等があったので、それを落としてはと思いまして、触れさせないようにしたと、そんな風に思いますが」
橋本弁護人=「まあ、証拠を完全に保存するためにと、そういう意味ですね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「腕時計の捜査に関しまして、あなたはそのほかどんな捜査をなさいましたか」
証人=「発見されてから、私自身は何もしなかったですね」
橋本弁護人=「何日か前に将田警視から下命を受けて、あなたの部下の捜査員をして捜索をせしめて、そして報告を聞いて、それから発見された日に実況見分調書を作ったと。そして、押収したと。それだけですか、時計に関して関与したことは」
証人=「そのように記憶してます」
橋本弁護人=「時計に関する品触れとか、あるいは時計の出所ですね、そういうことについての捜索に関与してませんか」
証人=「時計の品触れ等につきましては私は全然ノータッチでございました」
橋本弁護人=「もう一度遡りますが、将田警視から時計の捜索を下命された日と、あなたが現場に行きまして、あなたの部下に捜索を下命した日とは違う日ですか」
証人=「もう一回お願いします」
橋本弁護人=「将田警視からあなたに時計を捜しなさいという下命が来ましたね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「その日と、今度、あなたが自分の部下に時計を捜しなさいと命令しますね、その日はどのくらいずれているんですか」
証人=「前の晩ですね、被告が自供したからと、で、先ほど申し上げましたが、明日、自供したメモを渡すからということだけで、で、翌朝そのメモをもらって、すでに前に連絡のあったことなどがあって、当日の捜査予定も計画してありますので、捜査員をして前に申し上げましたように捜査したわけでございます」
橋本弁護人=「そうすると、夜、命令されて、その翌日から捜査に着手したということになるんですか」
証人=「はい」
橋本弁護人=「そのあなたが警視からもらったというメモは被疑者の作成したものですか」
証人=「そうですね」
橋本弁護人=「作成されたと言われたものですね」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「その原本ですか、写しですか」
証人=「さあ、それは今、記憶がございませんですが」
橋本弁護人=「そのメモ自体はどうしましたか」
証人=「そのメモは私は見まして、それでそのまま将田警視に返しましたか、ちょっとそのところ、今、記憶がございませんですが」
橋本弁護人=「あなたが押収した時、腕時計は動いていましたか、止まってましたか」
証人=「止まってました」
橋本弁護人=「ネジを巻いて動くかどうか試して見ましたか」
証人=「いや、そういうことは一切しません」
(続く)
*
『狭山現地・いまむかし』
自白では、事件当日に石川一雄被告が「荒神さま」と呼ばれる三柱(みはしら)神社の横を通ったとされている。この日、神社では祭りが行なわれ多数の人で賑わっていたが、誰一人として石川一雄被告を見た者はいなかったという。
さて、ここでは神社の境内そのものに焦点を当て、その風景の変化を見てみたい。
【昭和38年】
【昭和63年】
【令和4年】
この社殿は、養蚕に関わっていた地元の有力者が個人で建てたというような話だったと記憶するが、記憶違いかも知れず断言は避けたい。