アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 861

【公判調書2696丁〜】

                 「第五十一回公判調書(供述)」

証人=青木一夫(五十五歳・川越市役所臨時嘱託)

                                           * 

福地弁護人=「長谷部さんが立会人になっているというような記憶はないですか」

証人=「ありません」

福地弁護人=「あなたは清水輝雄という警察官を知っていますか」

証人=「はい」

福地弁護人=「これはその当時どういう捜査に携わっていた人ですか」

証人=「捜査一課に勤めている強行班の刑事です」

福地弁護人=「今話してるのは、一応六月二十日頃ということなんですが、この頃に清水輝雄という警察官は川越分室におりましたか」

証人=「いたと思います」

福地弁護人=「どういう仕事をやってましたか」

証人=「被疑者の身の回り、留置場へ入れたり出してきたり、食事の世話をしたり、看守的な仕事とか、それからその間に、いろいろ捜査書類の整理とかありますので、そういう仕事をやっておったように思います」

福地弁護人=「この三人共犯の自白をやった日に遠藤三さん、この人はどこにいたか分かりますか」

証人=「遠藤さんも一緒に私と休憩していたと思いますが」

福地弁護人=「そうですか」

証人=「絶対的じゃなく、はっきり覚えありませんが多分そうだったと思います」

福地弁護人=「三人共犯の自白をやった、これは関源三さんが調書を作ったわけですね」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたはその翌日取調べをやってますか」

証人=「やってると思いますが」

福地弁護人=「翌日の午前中にやった記憶ありますか。朝からやった記憶、つまり前夜、三人共犯の自白をやってるわけです。あなたは十時か十一時頃休んでその翌朝」

証人=「私、実は取調べをするにあたりましてその前段階でメモを取ってあったわけです。本来ならここへ来る前にメモを見て出廷すれば日時についても分かるんですが、警察を辞めるにあたりまして、そういった物いっさい手元に置かないで燃(も)してしまったんで、本日ここへ参りますので捜査一課へ、どんなことを聞かれたのでしょうかと聞いたら、分からないということなんで、そういった日時をよくお答え出来ないのが残念です」

福地弁護人=「それでは日時のことはともかくとして、鞄が見つかった日がありましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「この鞄はどうやって見つかったんですか」

証人=「これは、石川君がこういう所にあるということで地図を書きまして、こういう所ですという風に指示したんです。これも夕方のように思います。夕方というか午後だと思います。午前中じゃないように思いますが、何か最初にいっぺん行って見つからなかったのかな」

福地弁護人=「最初にいっぺん行ったというその行った時には、やはり地図を持って行ったんですか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

福地弁護人=「先ほどあなた夕方だと言いましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「夕方地図を書いて持って行ったんですか」

証人=「夕方といっても午後ですね」

福地弁護人=「午後何時頃でしょうか。午後と言っても一時から六時、七時頃まで午後ですからね」

証人=「とにかく明るい時分ですね」

福地弁護人=「夕方のまだ明るい時分という意味ですか」

証人=「はい」

福地弁護人=「(原審記録第七冊二.〇〇〇丁、被告人の供述調書を示す)この供述調書は、あなたが作成したものですか」

証人=「はい」

福地弁護人=「三十八年六月二十一日の日付ですね」

証人=「はい」

福地弁護人=「その供述調書には、六月二十一日・午後五時頃という風に書いてありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたは、供述調書を作る時には大体時間まで書いてますか」

証人=「大体、入れなかったのが通例だと思います」

福地弁護人=「あなたが作られた供述調書は何通かあるけれども時間までは入ってないですね」

証人=「はい」

福地弁護人=「この供述調書にはなぜ時間が入っているんですか」

証人=「これはこの日にもう一つ調書があって・・・・、よく記憶していませんが多分その日の午前中に調べたことがあって、その後『捜したところ見つからないと言われましたので』と書いてありますので、そういう時間になったんだという意味ではなかったろうかと思いますが、どうもこの点につきましてもはっきり申し上げられません」

福地弁護人=「午前中調べたり、午後調べたり夜調べたり、調べる都度に調書を作ったりして、で一日に何通かの調書が出来ておりますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「二十一日付の調書でも二通ありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「つまり一日のうちに複数の調書を作られた場合は、他にもあるんですがね、あなたの調書を見てみると」

証人=「はい」

福地弁護人=「午前だとか午後だとか、午後何時だとかいうことは一切記入されていないわけですよ」

証人=「はい」

福地弁護人=「この調書だけは、わざわざ午後五時頃と入っているわけですね」

証人=「はい」

福地弁護人=「私共も今までいろいろの供述調書を他の裁判で見てきたけれども、何時に作成したという作成の時間まで入れた供述調書は初めて見るのですが、あなたは、そう度々やっているわけじゃないでしょうね。供述調書に時間まで入れることは」

証人=「はい」

福地弁護人=「ほかにやったことがありますか」

証人=「ちょっと記憶がないんですがね」

福地弁護人=「つまりこれは、本当にごく例外的な記入なんですね、そういう風に承っていいですね」

証人=「はい」

福地弁護人=「従って、その意味を知りたいんです。これは私共は分からないから、書いた本人のあなたに聞かなければどうしようもない」

証人=「午前中鞄を捜しましたがその時は、この鞄を本など入れたまま放り投げて来たように話しましたが見つからないと言われましたので、なおよく考えてみたと。こういう供述が午前中にあって、この調書を取る時にはこういう時間になったということだと思うんですが、どうも私どういう意図で入れたか、ちょっと申し上げる記憶がないんですが、多分そうじゃないかと思いますが」

福地弁護人=「極めて、先ほどから申し上げている通り特殊な事例だから、あなたにとっては非常に強い理由があって書かれただろうと思うんです。だから少しゆっくり思い出してくれませんか」

証人=「私にも理解出来ませんが」

福地弁護人=「あなた自身も今考えて分からないわけですね、なぜ五時という時間を入れたのか」

証人=「はい」

福地弁護人=「今、あなたの見ておる供述調書の後ろ二.〇〇三丁に図面が付いてますね」

(左上に2003との丁数が確認できる供述調書添付図面)

証人=「はい」

福地弁護人=「その図面についてお尋ねしますが、向かって左の方に、平仮名で"みぞ"と書いてありますね。つまりそこに"みぞ"があるということを示している図面だろうと思うんですがね、ここで言う"みぞ"というのはどれですか」

証人=「これ全体を指すんだろうと思います」

福地弁護人=「これ全体というと」

証人=「"みぞ"と書いたところの横に波形の線がありますが、その上にほぼこれに平行して、横に書いた筋があります。この間を指していると・・・・・・」

(鉛筆で指し示したところが証人が言う部分である)

福地弁護人=「そうですか、この図面を書く時は、あなたの面前でしょう」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたは、この図面の意味を当時ご承知だったんでしょう」

証人=「はい」

福地弁護人=「その波形の横線その上全体が"みぞ"ですか」

証人=「いや、この波形が"みぞ"ですね」

福地弁護人=「よく見ると、波形が"みぞ"だと言うんですか」

証人=「はい」

福地弁護人=「すると、先ほどのあなたの、波形と上の線の間というのは訂正しますね」

証人=「訂正します。矢印がございますから、こんなに巾の広い"みぞ"があるわけないと思われますから訂正します」

福地弁護人=「それから、さっきの波形の上の横線ね、この上に鞄と書いて点が打ってありますね。これは鞄がそこにあるという意味ですか」

証人=「多分そうだと思います」

福地弁護人=「この鞄と印してある点の上に黒い点が三つありますね。この三つの一番上はゴムひも、とありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「あとの二つは何を示しているんでしょうか」

証人=「・・・・・・・・・何でしょうか」

福地弁護人=「あなたは、石川君がこれを書いている時、見てるわけでしょう」

証人=「はい」

福地弁護人=「見当つきませんか」

証人=「はい」

                                            *

昭和四十六年八月十六日       東京高等裁判所第四刑事部

                                                 裁判所速記官  佐藤治子

                                            *

私の手持ちの資料には昭和三十八年六月二十一日付の午後五時頃と記載された供述調書は見当たらず、ここに載せることは出来なかった。ともあれこれを調書に取った警察官自身が不思議がる、なぜ供述調書に時刻を記入したのかという疑問は解明されぬままであった。