アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 782

本文とは関係ないが、写真は事件当時の狭山市近郊である。ここは市内の沢交差点付近であり、右端に見える縦長の物質は沢28号電柱だ。陰鬱な景色は、まるでその後辿る狭山裁判の行方を暗示しているかのようである。

【公判調書2431丁〜】

                    「第四十七回公判調書(供述)」

証人=斉藤留五郎

                                             *

中田弁護人=「(番号十八、昭和三十八年五月三十一日付、諏訪部正司作成の斉藤留五郎作成名義による謄本を示します) これをご覧下さい。これもあなたの字ですか」

証人=「はい、そうです」

中田弁護人=「これは複写で取られてるようですね」

証人=「はい」

中田弁護人=「そうすると何通か取ったと思われるんですね」

証人=「はい、そうです」

中田弁護人=「これも狭山にいる頃のようですが」

証人=「はい」

中田弁護人=「これは諏訪部さんが作った調書をあなたが写したんですが、大体複写で何通ぐらい取ったか思い出せませんか」

証人=「一回に多くても三通くらい取ったんじゃないかと思います」

中田弁護人=「そうすると先ほどの番号十七の謄本は他にあるかないかは別として、万年筆で書かれているから一通だけかとも思われるんですが、一通の時も二通の時も三通の時もあるという状況だったんでしょうか」

証人=「そうかと思います」

中田弁護人=「いずれにしてもあなたに命じた人の指示に基づいて何通か作成したということになるんでしょうね」

証人=「そうですね」

中田弁護人=「(同じく番号十八の調書に添付してある図面を示します) これを見て下さい。ちょっと一見、目で見た限りでは、もうこれも何か複写で取られたような感じがしますね」

証人=「はい」

中田弁護人=「つまりこの図面の上にカーボンを置いたんじゃないかと思いますが」

証人=「そうです」

中田弁護人=「そういう風にして作ったこともありますか」

証人=「あります」

中田弁護人=「ザラ紙を何枚か重ねて図面を書いたこともある」

証人=「はい」

中田弁護人=「この中に "ざいものをいたところ" と右下のほうに書いてありますね」

証人=「はい」

中田弁護人=「左上のほうには "こをば" という字が書いてありますね、この字はあなたが書いたものですか」

証人=「と思います」

中田弁護人=「この図面はそうすると実際にはどういう風にして書いたと思いますか。やっぱり先ほど言われたように石川君が書いた図面を横に置いてて、あなたとしてはザラ紙にカーボンを挟んで元の図面を見ながら書いたという風に思いますか」

証人=「これはそうでなくて、原本の上にカーボン紙の間に挟まっている白い薄い紙があるんですよ、それで原本の上をなどって(原文ママ)取ってこれをつけたものじゃないかと思います」

中田弁護人=「そうするとカーボン紙に挟まれている薄い紙で原本の上をなぞってそれをもとにして図面を作った、そのようにしたこともあるんですね」

証人=「そうです、そうなんです」

中田弁護人=「今示している図面の裏も見て下さい、それ裏には通ってませんね」

証人=「はい」

中田弁護人=「今のような方法で図面の謄本を作ったときにはかなり堅いものを置いてましたか」

証人=「お膳の上の時もあるし、下敷きがあった場合も、ない場合もあったかと思います。というのは急いで作るんで、そういうものが用意出来ない場合もあったと思いましたから」

中田弁護人=「急いで作るように命ぜられる場合もあるので直接お膳の上で書いたこともある」

証人=「はい」

中田弁護人=「その図面で、何か本来書かれているもののほかに薄っすらと別の図面が写っているように見えるんですが。線が」

証人=「はい、線が」

中田弁護人=「これはどうして出来たんでしょう」

証人=「これはちょっと分かりません」

中田弁護人=「(番号二十、昭和三十八年六月七日付清水利一作成名義による謄本、及び埼玉県警から取り寄せたもの番号一、昭和三十八年六月七日付清水利一作成名義による謄本を示します) この二通ともちょっと見て下さい。

書いてる中身は同じなんですけど、最後のところに清水利一、遠藤三と書いてあって、この作成名義人が斉藤留五郎になってますね」

証人=「はい」

中田弁護人=「これを見ると番号一の謄本の方が色が濃くて、番号二十の方が色が薄いように見えますが、同じ機会に作ったものでしょうね。これは一緒に複写を取った二通以上のものの内の二通ということになるんじゃないですか」

証人=「そうですね、一緒ですね」

中田弁護人=「今見ては少なくともそう思えますね」

証人=「はい」

(続く)

                                             *

本文にある謄本類は我々が目にすることは出来まい。せいぜい想像力を働かせ推測するしかない。

ところで、狭山事件第二審結審から数年後、この事件に関わった警察官のいずれかが自伝的な本を出版している。私の記憶は薄れてしまい、それが誰だったか思い出せないのだが、清水利一か長谷部梅吉、そのどちらかではなかったかと思われる。当時この本の購入を検討、ネット上で情報を収集したが、どうも狭山事件には触れていないということで購入は見送ったのだが、これはかなり後悔している。当時、狭山事件の捜査を担当した警察官がこれ程のスケールの大きい事件に触れていないということは、かなり興味深いと思われ、その理由が気になり始めたからである。しかしすでに事遅し、その書籍は今現在、検索に対し全くヒットしなくなっていた。