(手拭い。写真は狭山事件裁判資料より)
【公判調書2366丁〜】
「第四十六回公判調書(供述)」
証人=鈴木 彰(四十四歳・埼玉県警察官)
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中田弁護人=「あなたは先ほど手拭いの捜査をしたと言いましたね」
証人=「はい」
中田弁護人=「手拭いの捜査というのは、狭山市の五十子という米屋から得意先に配られたという物についてでしょう」
証人=「そうです」
中田弁護人=「その配布先などについて調べたわけですか」
証人=「そうです」
中田弁護人=「五十子さんというのは先ほど他の弁護人が聞いた、時計を捜そうとして捜査した地域の近くでしょう」
証人=「そうです」
中田弁護人=「あなたはかなり早い時期から五十子米屋なり、後に時計が発見された場所辺りへ聞込みに行っているわけでしょう」
証人=「手拭いのときは五十子さんから配布したという家庭に回って行ってあるかどうかということを調べたのであって、やってないという家には強いて行きませんでした」
中田弁護人=「軒並みに回ったわけではなくて、配布先の分かっているところだけ行ったという意味ですか」
証人=「そうです」
中田弁護人=「先ほど言ったことについて確かめますが、時計のことについてあなたは実際に時計があるかどうかを捜す捜査にはちょっと加わったという風に言いましたね」
証人=「自分でやった記憶はあります」
中田弁護人=「あなたが、ちょっとという言葉を使ったのは、あなた以外の人はかなり長い時間をかけて捜査したという記憶があるからではないのですか」
証人=「あそこの捜査はそんなに長い期間とは思われません」
中田弁護人=「あなたとしては何時間か調べてみたのですか」
証人=「私は半日ぐらいはやったと思います」
中田弁護人=「あそこの場所は、五十子米屋のあるほうからあなたの言う裏通りを行くと右側にはかなりの木立ちのある人家があるでしょう」
証人=「そうです」
中田弁護人=「左側は茶畑でしょう」
証人=「お茶の株がずっと道沿いにありましたが、中はお茶だったか桑だったか・・・・・・」
中田弁護人=「道と畑との間には茶の垣がありましたか」
証人=「それは承知しています」
中田弁護人=「先ほど、棒を持って捜したと言いましたね」
証人=「はい」
中田弁護人=「茶垣の下辺りももちろん棒で捜したわけでしょう」
証人=「そうです」
中田弁護人=「その茶垣などを捜した距離は四、五十メートルあったと聞いていいわけですか」
証人=「私がやったのはそんなに長くないと思います」
中田弁護人=「先ほどは四、五十メートルと言いましたが」
証人=「それは、道を通りながら、あるいはちょっと入るような形で見る、という意味で相当長い距離と言ったのです」
中田弁護人=「あなたはそのときは時計を捜そうとして捜したわけなのでしょう」
証人=「そうです」
中田弁護人=「ときどき気が向いたら茶垣の下を触ってみたというわけではないのでしょう」
証人=「指示された場所から離れたところはそうしたのです」
中田弁護人=「指示された場所というのはどこだったのですか」
証人=「その通りの、駐在所の前の通りから入った道と交差している付近だったと思います」
中田弁護人=「交差している付近からどの範囲を捜せという指示があったのですか」
証人=「その付近ということだったと思います」
中田弁護人=「とすれば、その交差しているところ、三差路と言っていいでしょうが、三差路のところのどの範囲を注意して捜したのですか」
証人=「私なりには捜したつもりですけど、落葉などが相当あり、それを全部ふるいにかけてやるとかいうことは全然しませんでしたが、私が棒で落葉などを掃いて見たのは十メートルぐらいではなかったかと思います」
中田弁護人=「とにかく、そのときは上司が何らかの根拠でこの辺に時計があるかも知れないから時計を捜せと命じ、あなたは時計を捜しに行ったのでしょう」
証人=「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
中田弁護人=「そのときあなたは時計を捜すことを調査の目的にしていたのかどうか、そして、もしそうだとすればあなたは一生懸命捜したのかどうか、ただそれだけを聞きたいのです」
証人=「私は捜しました」
中田弁護人=「一生懸命捜したのですね」
証人=「はい」
中田弁護人=「そのときは時計を捜す目的だったのですね」
証人=「そうです」
中田弁護人=「結局そのとき時計は見つからなかったのですね」
証人=「そうです」
中田弁護人=「あとで時計が発見されたと聞いてあなたとしては不審に思いましたか」
証人=「それは思いました」
(続く)
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証人=鈴木 彰氏は警察官である。彼等の捜索後に被害者の時計が発見され、不審に思ったという。現に捜索を遂行した警察官をも不審に思わせた腕時計の発見は幾十もの疑惑を生む結果となる。