(狭山事件裁判資料より)
【公判調書2112丁〜】
「第四十二回公判調書(手続)」
昭和四十六年二月十二日
出頭した鑑定人
秋谷七郎鑑定人(七十四歳):昭和大学薬学部長兼教授、裁判化学講座担当。
三木敏行鑑定人(四十八歳):東京大学教授、医学部法医学講座担当。
大沢利昭鑑定人(四十歳):東京大学助教授、薬学部薬害研究施設裁判化学講座担当。
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鑑定命令
裁判長は秋谷鑑定人に対し別紙鑑定事項(秋谷鑑定人分)の一、二について鑑定をなしその経過及び結果は鑑定書により報告するよう命じたところ、秋谷鑑定人はこれを承諾した。
裁判長は三木、大沢両鑑定人に対し別紙鑑定事項(三木、大沢両鑑定人分)について鑑定をなしその経過及び結果は鑑定書により報告するよう命じたところ三木、大沢両鑑定人はこれを承諾した。
なお、裁判長は弁護人並びに検事に対し、
本件脅迫状及び封筒の文字等は本件証拠物の万年筆又はボールペンを用いて記載されたものか、その可能性又は蓋然性につき、右万年筆に残留するインク又は右ボールペンのインクと右脅迫状及び封筒に記載されている文字等のインクとの同一性の点も含めて、秋谷鑑定人に鑑定を命ずることについて意見を求めたところ、
主任弁護人は、
万年筆については、被害者が持っていたとされているものであるが、この万年筆が本件脅迫状及び封筒の記載に使用されたということは検察官も主張していないし、現在までに法廷に現われているすべての証拠の中にも現われていない。従って 、今裁判長が言われたような意味でこの万年筆と脅迫状及び封筒の関連性を確かめようとする鑑定はこの訴訟においては意味をなさないものと考えるので、弁護人としては反対せざるを得ない。
ボールペンについては、検察官が本件と関連性があるとして提出したものではあるが、弁護人が請求しこのたび採用された鑑定の趣旨に従えば、もはや不必要になるのではないかと考える、
と意見を述べ、佐藤検事は、
裁判所が職権で右鑑定を命ずることに異議はない。ただ、筆記具については具体的にこの万年筆、このボールペンということはわからないのではないかと思われる。
万年筆のインクについては、従来問題にならなかったので法廷で明らかにしていないが、捜査の過程で、この万年筆が被害者のものであったかどうかを明らかにするという観点から鑑定をしており、その際、インクは既に液体状ではなかった模様で万年筆の内部を洗ったので、おそらくインクは出ないのではないか、と考えられる。
ボールペンのインクについてはそのようなことはしていないので万年筆のような問題はないと思うが、年月を経ているので果たして鑑定が可能かどうか疑問であると考える、
と意見を述べた。
裁判長は訴訟関係人に対し、右の鑑定を命ずる旨の決定を告げ、秋谷鑑定人に対し、別紙鑑定事項(秋谷鑑定人分)の三について鑑定をなしその経過及び結果は鑑定書により報告するよう命じたところ、秋谷鑑定人は、これを承諾した。
昭和四十六年二月二十五日
○別紙
秋谷鑑定人 鑑定事項
一、脅迫状及び封筒(東京高等裁判所昭和四十一年押第 一八七号の一)の文字等(線等で抹消した部分、訂正加筆箇所を含む)はいかなる筆記用具(たとえば万年筆かボールペンか)により記載されたものか。
二、右文字等はすべて同一の筆記用具又はインクによって記載されたものか。そのインクの性質、種類。
三、右文字等は万年筆(前同押号の四十二)又はボールペン(同押号の四十三)を用いて記載されたものか、その可能性又は蓋然性(右万年筆に残留するインク又は右ボールペンのインクと右脅迫状及び封筒に記載されている文字等のインクとの同一性を含む)。
三木、大沢両鑑定人 鑑定(共同)事項
一、封筒(東京高等裁判所昭和四十一年押第一八七号の一)の封緘部分の糊は、封筒に予め付けられていたものか、又は封緘するにあたり糊付けしたものか、あるいは予め封筒に付いていたものに別の糊を加えて封緘したものかどうか。
二、右糊の性質、種類(糊付け部分の範囲を含む)。
三、右封緘をするにあたり唾液等で湿して糊付けしたものかどうか。唾液が付着しているとすれば、その血液型。
以上