狭山の黒い闇に触れる 333 - アル中の脳内日記

【公判調書1260丁〜】証人＝池田正士(二十四才・自動車運転手) 問うのはまず、津田判事から。津田判事＝「先程証人が言われたので、私の聞き違いかも知れませんが、念を押しますが、十年か十五年したら出られるという風に言っておったと言いましたね」証人＝「はい」津田判事＝「そして出たらある人に金をもらえるということを言っていたというようなことを言いませんでしたか」証人＝「ええ、言ったです」津田判事＝「それはどういうことですか」証人＝「････････････」津田判事＝「ある人というのは誰です」証人＝「だからその時はですね、共犯者がいるんだということを言ってたんで、その人だと思って聞いていたんです」津田判事＝「どういうわけで金をもらえるというんですか」証人＝「結局それ、まぁ裁判上は自分一人でやったようにあれして、で、自分で服役して来てその身代わりというか、そういうのの代償にもらえるといったように捉っていたんです」津田判事＝「金額は聞きませんでしたか」証人＝「金額は･･････聞かなかったかもわからないです」石川一雄被告人(以下、被告人と表記)＝「今聞いておりますと、三人とか何とか共犯がいるようなことを言ったといわれたようですが、そのようなことを言った覚えは無いんですけれども、何か聞き間違いじゃないでしょうか。その時パイプの時やったということは話したかも知れませんが、あれの件じゃないかと思いますが、その点をちょっと･･･」証人＝「････････････」被告人＝「○○(被害者名)ちゃん事件の共犯じゃなく、パイプのことを話したのをあなたがそういう風に受け取ったような私は気がするんですけれども」証人＝「まあ自分としても、期間も一緒にいる間が短かったし、短い割合にはいろいろなことも話したし、それでもう四年くらい経っているから、記憶がこう、混ざってはっきりしたことは言えないけれども」裁判長＝「被告人がそう言うんで、さっきから証人に言わない事で特に話しておきますが、被告が判決を受けた事件は、○○(被害者名)さんという女学生を殺したという事件だけじゃなくて、他にも窃盗とかそういう事件も一緒だと、それも一緒に判決を受けたんで、今被告人が言うように、共犯があったというのは○○(被害者名)ちゃん殺しの事件の事だったか、他の窃盗とか横領とかいうような事件の事だったか、そこはっきりしてるか、とこう被告人が聞いているわけです」証人＝「だからそこははっきりしないんです」被告人＝「それからもう一つ、○○(被害者名)ちゃん殺しとか何かちょっと忘れましたが、出たら金をもらうと言いましたが、それはどういう所から来たか思い出してもらえませんか。そのような事を言う覚え無いんですが、それは一番重大ですから」証人＝「･････････」裁判長＝「出たきっかけだね」証人＝「･････････」裁判長＝「どういう話をしておった時にそういう金をもらうなんて話が出たか覚えてますか」証人＝「･････････」被告人＝「まず今ここでちょっと言いますと、パイプを盗んだ時、七人くらい共犯がいたんです。実際に盗んだのは三人ですが、一応ここでも以前述べましたが、石田とりぞうさんという人の名前だけは話すまいと思ったんです。そういうようなことで、金を、出たらもらうというようなことを池田君が想像して言ったという風に思ってますが、その点池田君はどうですか」証人＝「僕もはっきり言ってそういう窃盗なんか知らなかったんです、今まで。だからその話してることが全部○○(被害者名)ちゃん事件のことばかりだと思って今まで聞いていたんです。今、そういうことを言われてみますと、まあ聞き違いもあるし、まあ･･････」裁判長＝「どういう話の時だったか、はっきり記憶してないと」証人＝「記憶というよりですね･･････、その僕はやっぱり○○(被害者名)ちゃんのことだけだと思っていたから、そればかりと思って」裁判長＝「みなそれに関連させて聞いていたと」証人＝「はい」裁判長＝「証人がさっき金の話が出た時に、自分が身代わりになって一人でやったことになったんだから、その代わり、まあそういう言葉は使わなかったけれども、その報酬というか、お礼で金をもらうんだと自分は思いましたと言ったんじゃないかな」証人＝「だから･････････」裁判長＝「それはいつ思ったのか、その時思ったのか」証人＝「その時なんです。だから話の内容もよく自分は、自分で○○(被害者名)ちゃんのことだと思って聞いていたから、それと結び付けて考えて、まあ本人が言わないところまでも飛躍して想像して考えていたわけなんです」 (証人＝池田正士への尋問はここで終える) 昭和四十三年九月三十日東京高等裁判所第四刑事部裁判所速記官沢田伶子

＊石川被告人に対する、「共犯がいる」や「出所後、ある人から金をもらう」といった疑惑は思いのほか綺麗に晴れた。何故ならば証人＝池田正士の証言により、記憶の混同に起因する思い込みであったからである。