【公判調書1172の24】 弁護人=「五月二日の晩に佐野屋へ行ったのは、あなた一人ではないだろう、というようなことを言われたことがありますか」 被告人=「あります」 弁護人=「どういうようなことを言われたのですか」 被告人=「佐野屋のところで話している時に、もう一人いただろう、石を投げた人もいる。もう一人の人が警察官が張っている方へ石を投げたろう、と言われたから、俺は知らないと言ったら、そんなわけはないと言われました。それから刀を持っていたかということも言われました。佐野屋のところに、茶の木を切った跡があったらしく、それを言われましたが持っていないと言いました。それから川越の方へ逃げたと地図を示されました」 弁護人=「お前一人ではなかろう、もう一人いて、そいつが石を投げたのではないかと聞かれたわけですか」 被告人=「はい。だから俺は投げない、一人だと言ったです。そうしたら、そんなわけはないと言って逃げた状況の地図を示され、ここに足跡があるんだと言われました。それには熊手みたいな足跡があって、こういうように付いていると言われました」 弁護人=「こっちの方に逃げたやつがいると言って地図を見せられたこともあるのですね」 被告人=「はい」 弁護人=「その地図には熊手のような格好をした印が付いていたのですか」 被告人=「ええ足跡です。これが足跡だと言われました」 弁護人=「その地図の上の足跡というのは、どこからどちらに向かって付いていたのですか」 被告人=「佐野屋から東の方、川越方面です」 弁護人=「佐野屋の前を通っている道路は川越街道と呼んでいるようですね」 被告人=「はい」 弁護人=「その道を川越方面に向かって逃げたような足跡が付けてあったのですね」 被告人=「はい」 弁護人=「その地図の上では、その足跡はどのへんまで付いていましたか」 被告人=「点々と付けてあり、どのへんと言われても答えることは出来ません」 弁護人=「足跡はいくつも付いていたのですか」 被告人=「かなり付いていました」 弁護人=「その点々は一直線に付いていましたか、曲がって付いていましたか」 被告人=「真っ直ぐ付いていたような気がします」 (続く)
(写真二点は “ 無実の獄25年・狭山事件写真集・部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部編・解放出版社”より引用) 今、目を通している第二十六回公判では、その内容とは別に、文章としての表記にいささか引っかかる点が散見される。公判調書の表記、すなわち裁判所速記官が符号で記録した内容を通常の日本語文に反訳、文章として成り立たせた物、それである。これは、突き詰めれば反訳した方の日本語に対する理解力、そこに原因があるように思える。些細なことだが、例えば・・・
「点々」と反訳し表記。しかし、その四行後には・・・
「点点」と反訳。文脈から見て、いや、そうでなくともここでは「点々」と表記するべきである。・・・まぁ、こういった問題点にも気付かせてくれるこの公判調書は、あらゆる意味で私の愛読書と成りつつあるのは間違いない。