弁護人=「川越の方へ向かって、そういう足跡があるという地図を見せられた時に、何かほかのことを教えてくれませんでしたか」 被告人=「教えられました。足跡は昼間取ったらしいですが、その夜逃げたと思われる方へ追って行くと、電気が点いていてビニールで囲った家があったらしいです。そこへ行って見ると小豚が生まれるとか、生まれたとか言っていた、ということでした。それだから間違いないと言われました」 弁護人=「五月二日に佐野屋の方から川越方面に向かって逃げた者がいて、それを誰かが追って行ったというのですか」 被告人=「そうです」 弁護人=「そうすると、追って行った先で豚が生まれるとか生まれたとかいう事で、電気を点けて起きていた家があったというのですね」 被告人=「ビニールがちゃんと囲ってあったです」 弁護人=「あなたは見たわけではないね」 被告人=「そうです。電気が点いていて漏れていたそうです」 弁護人=「そういう話をしてくれたのですね」 被告人=「そうです。その家が地図にちゃんと載っていたです」 弁護人=「その地図を見てその家がどのへんか、分かりましたか」 被告人=「堀兼支所の近所です」 弁護人=「堀兼支所の近所のところにビニールで囲った家があって、そこへ警察官が追って行ったという話があったわけですね」 被告人=「そうです」 弁護人=「警察では、あなたがそちらの方へ行ったのだろう、と言ったわけではないのですか」 被告人=「俺のことを言ったです。それから、町田忠治の方へ逃げた足跡もあると言いました。だからもう一人いたと言われたです。これも何回も言われたです。石を投げたということは、浦和で接見禁止の当時、原検事さんからも言われました」 弁護人=「七月九日に起訴された後ですね」 被告人=「そうです。原検事さんと会ったのは八月末頃だと思います」 弁護人=「原検事が調べに来たのですか」 被告人=「そうです。石のことで」
* 二方向に分かれていた足跡。この情報は重要である。警察が、事件は単独犯によるもの、と舵を切ったあたりから、川越方面に向かった足跡はうやむやになり、不老川方面に向かった足跡だけが証拠として残されていく。現場検証に従事した警察官の中に、疑義を持つ者はいなかったのかどうか。さらに、これに関連する情報、「投げられ石」を、いよいよ検事が直々に調べに乗り出した。
赤丸=犯人待機場所。ピンク色矢印=川越方面への足跡痕。黄色矢印=不老川方面への足跡痕。
さらに別角度から見てみる。○印=佐野屋。◎=身内の者が身代金を持ち待機した場所。✖️印=犯人待機場所。ピンク色矢印が川越方面に向かった足跡痕、黄色矢印は不老川方面に向かった足跡痕である。石川一雄被告人の供述によれば、ピンク色矢印の先に、小豚が生まれた家があると推定され、捜査員がそこまで犯人を追跡していたとすると、この事実は非常に重く事件にのしかかって来るのである。(この三枚目の写真も“無実の獄25年狭山事件写真集・部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部編・解放出版社”より引用)