アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 110

今、私が目を通している公判調書は狭山事件発生から約三年後の昭和四十一年、第二審公判調書となる。この三年という歳月は当事者たちの記憶にいかなる影響を及ぼすのか。証人である石川六造氏はこの時三十歳と調書に記載されているので、事件当事二十七歳ぐらいであるか。いずれにせよ石川一雄被告人と、兄である六造氏とは、兄弟として重大な局面に立たされながらも、その自己による記憶喚起意識とでも言おうか、その深い部分での捉え方の違いが私には感じられた。しかし、これは致し方ないわけで、被告人の兄、六造氏は弟の無実を晴らすために奔走しながらも、石川家の家族を養わなければならず、弟の逮捕、その日から目まぐるしい三年を送って来ている。つまり記憶の優先順位が石川一雄被告とズレるのは当然であろう。ところが質問の軸を、いつ、どんな仕事をしたか、と変更すると、町内鳶である六造氏は俄かに記憶を鮮明化させ返答してゆくのだ。大袈裟に言えば鳶職人の魂を刺激した形である。誰もがこれを意図せず、しかし刺激を受けた六造氏はこの後、その鮮明化された記憶を飾りのない語り口調で述べてゆく。                                  

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