アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 955

(いつのまにか入間川河川敷へ着任し、さっそく付近の警備にあたっていた新顔の猫)

                                            *

【公判調書2995丁〜】

                   「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            *

山上弁護人=「それからまあ、一番最初の証言に戻りますが、川越分室にも地図があったか、なかったか、あなたはないと言うので、念のため長谷部さんの五十一回の証言を読むと、『川越分室にも本部にも図面はあった、一種類ではなく二種類以上の図面があった、それは署で作った図面です。それで一応確認しました、被疑者の取調室にも一部ありました』はっきりこう長谷部さんが言っておるんだけれども、あんた思い出して下さい、地図はあったんでしょう」

証人=「ありませんね」

山上弁護人=「その地図を見ながらあなたは石川君に確かめたでしょう」

証人=「そんなことありません」

山上弁護人=「あなたは、五十嵐さんというお医者さんがお作りになった死体の鑑定書が、確か五月二十六日付だったか十六日付だったかで狭山署長さんの方に送られていると思うんですが、そういうのをご覧になったことがありますか」

証人=「・・・・・・・・・」

山上弁護人=「(記録第三冊の八七四丁以下の五十嵐勝爾の鑑定書末尾添付の写真を示す)これ、見たことあるんじゃないの」

証人=「あります」

山上弁護人=「それから大野喜平さんて、おりましたね、死体を発掘した時にその穴の状況とか、そういうものを作った方、それは知ってるでしょう」

証人=「ええ、おりました」

山上弁護人=「その方がやはりあなた方の捜査のための参考になる実況見分調書というやつをお作りになっておるんですけれども、それもやはりご覧になったことはあるでしょうね」

証人=「ええ、見ました」

山上弁護人=「それで石川君が単独自供してから殺害方法が変わったようなことがありましたか」

証人=「意味が分かりません」

山上弁護人=「私が一人で善枝さんを殺しましたという自供だったわけですね」

証人=「ええ」

山上弁護人=「殺し方が変わったようなことはない」

証人=「要するに三人というような話の時とは変わってきたことは間違いございません」

山上弁護人=「三人の時じゃなくて僕が聞いてるのは一人でやったと言ってから」

証人=「そう変わったような記憶はございません、私は」

山上弁護人=「あなたはしかし、相当警官の経験をお持ちの人が一番大事な殺害方法で取調べ中に変わったかどうか記憶ない」

証人=「はい」

山上弁護人=「(昭和三十八年六月二十三日付の被告人の供述調書末尾の証人の署名=原審記録第七冊の二〇四八丁を示す)これ、あなたの署名がありますね」

証人=「はい」

山上弁護人=「それでこの調書の二項を見ると、『私が今でもすまないという気持ちでいたということは狭山警察の伝々』それから『無事に出られたら一週間に一度ずつお参りに行きます』こういう風なことを言ったことになっていますね」

証人=「はあ」

山上弁護人=「この時の殺害方法はどういう風に供述しているか覚えておりますか」

証人=「覚えておりません」

山上弁護人=「この供述調書では、どうもタオルで絞め殺したというようなことになっておるようですね」

証人=「そうですか」

山上弁護人=「覚えありませんか」

証人=「ありません」

山上弁護人=「そして二通あと作ってるね。二十五日付ですか、その調書から、手で首を押さえて殺した、という具合に、まるきり殺害方法が変わっておるんだけどね、あなたは追及したことがありますか。おかしいじゃないかお前さん、一週間ごとにお参りに行くと言った時の調書はタオルで殺したということになっていて、二日後はもう変わっている、どういうことからこうなったのか、聞いたことありますか」

証人=「私はこれまで調べの時に、お前これ違うじゃないかということについて聞いたことございません。どの被疑者についてもそういうことを言ったことはありません。ただ本当のことを申しなさいと言うだけです。これまでどういう被疑者についても自分でやってないんだから違うじゃないかと言えないんです」

山上弁護人=「それであなたはさっき鑑定書を見たと言いましたね」

証人=「当時見たと思いますね」

山上弁護人=「あなたとしてはどういう殺害方法であったかという一応の推定を持っていましたか」

証人=「推定は持っておりませんな」

山上弁護人=「鑑定書をあなたは読んだんですか」

証人=「読んだと思いますけれども、しかし鑑定書がこうなっているからというようなことで私は聞いた覚えもございませんし、もちろん今まで被疑者を聞くについて、これはこうじゃないか、ああじゃないかということを言った覚えはありません。したがって石川君に対しても私はそういう調べをしていないんです。もちろん私はいわゆる裁判官で言えば陪席くらいの程度ですから」

                                            *

佐々木哲蔵弁護人=「あなたは立会人というのはあなたも被疑者に聞くわけですか」

証人=「聞く場合もございます。しかし取調べ主任というのは青木警部ですから、青木警部が主として聞いたわけです」

佐々木哲蔵弁護人=「そうすると調書に文言を書かれるのは青木さんがご自分の書き方で書かれるわけですか」

証人=「さようでございます」

佐々木哲蔵弁護人=「この字は青木さんの字ですか」

証人=「青木さんです」

佐々木哲蔵弁護人=「書いてる調書は青木さんがお書きになられた」

証人=「青木さんです」

佐々木哲蔵弁護人=「つまりこれは要領筆記ですから要領は青木さんがまとめられる」

証人=「そうです」

佐々木哲蔵弁護人=「あなたも尋ねられる」

証人=「はい」

佐々木哲蔵弁護人=「どのくらいの割合であなたはお尋ねになる」

証人=「割合にすれば一か二くらいでしょうな」

(続く)

                                            *

(警備中に彼が見せるその真面目な勤務態度には目を見張るものがある)

(新設された入間川河川敷派出所)

 

 

狭山の黒い闇に触れる 954

【公判調書2993丁〜】

                    「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                           *

山上弁護人=「中田健治と、時計をどこかに借りに行ったことがありますね」

証人=「あります」

山上弁護人=「これはどういうことから中田健治さんと一緒に行くようになったんですか」

証人=「中田健治というのは兄貴で、兄貴が買ってくれたというお話からじゃないかと思いますが」

山上弁護人=「私が聞いているのは、誰か上司から中田健治さんと行きなさいということで行ったのか、あなたが中田さんの所へ尋ねて行って時計を善枝に買ってやったことがあるということを聞き出して、そしてどこの店に行ったのかということで行ったのか、どういうことで行くようになったんですか」

証人=「捜査の過程で兄貴が買ってくれたんだということが出てきたことから、どこでどんな時計を買ったんだということになった、それで兄貴と・・・・・・もう一人誰か行ってると思いますが、それはもちろん上司と相談の上、上司から命令をされたかも知れません。あるいは私の方から質問を持ちかけたかも知れません。いずれにしても上司の許可のないものはやっておりません関係から上司の方から命ぜられて行ったと思います」

山上弁護人=「それは将田さんの証言によれば、五月八日になっておるんです、相当早い時期ですね、つまり死体の発見が四日、そうすると五月八日には時計を借りに行ったと」

証人=「はい」

山上弁護人=「これは上司の方もしくは同僚の方とあなた二人と、それから健治さんと行ったんですね」

証人=「健治さんと、誰かもう一人警察官が行ったような感じがするんだけども、そこのところはどうも」

山上弁護人=「どういう程度の時計屋さんでしたか」

証人=「・・・・・・相当大きかったんじゃないかというような感じがしますが、どこか場所は記憶しておりませんな」

山上弁護人=「その時計屋さんで実際に時計が出るまでに、どういうやり取りが時計屋さんとあったか覚えていますか」

証人=「あれは兄貴の方が説明をしたように記憶しております」

山上弁護人=「どういう説明をしておった」

証人=「いや、その点記憶ありませんけれども、兄貴の方が説明をしたわけです」

山上弁護人=「あなた方がその店に行って時計を実際に見るまでに何分くらいかかりましたか」

証人=「・・・・・・そんなに時間はかからなかったというような感じがしますが」

山上弁護人=「つまり、まあすぐ出てきたんだね」

証人=「と思います。というのは私の説明でなくて、兄貴が買った時計で兄貴が説明をして兄貴がこうだああだということを言って出してもらったような感じがします」

山上弁護人=「時間はかからなかったわけですね」

証人=「かからなかったと思いますが」

山上弁護人=「あなたのご記憶では、中田健治さんはその時計屋に行った時点で、どのくらい前に時計を買ったような話をしておりましたか。実は三年前買ったんだとか、あるいは四年前だとか」

証人=「そんなじゃなかったんじゃないかと思いますがな。学校へ入る関係で買ってやったんじゃないかというような感じがしますが、その点何年くらい前という記憶はございませんですね」

山上弁護人=「健治さんとお店の方とのやり取りの内容ですね、時計が出てくるまでどういう会話がありましたか」

証人=「細かいことはどうも記憶がございませんので出してもらった状況から申し上げると、いわゆる妹に買ってやった時計がなくなったんだということで、ここに警察の人も来てるんだがそれについて品触れを作るということだから、それに似た物か、あれば同じ物を、というようなことになったんじゃないかと思いますが」

山上弁護人=「そういう話を中田健治さんが店の方に話をして、すぐ出てきましたか」

証人=「三十分や一時間は優にかかりましたね」

山上弁護人=「その時に時計屋さんが保証書があればすぐ分かるんですがな、というようなことを言ってませんでしたか」

証人=「記憶はございませんが言ったと思います、それがあれば簡単ですから。それはただし推測ですからはっきりしたことを申し上げかねますが」

山上弁護人=「しかしあなたが行った五月八日当時は品触れを作らなきゃいかんし、テレビに時計なんかの写真を出す準備をそろそろ取りかからなければいかん、大変な関心があなたにはありましたか、どういう時計かという」

証人=「もちろん関心はございますが、月日が経ってるから記憶がございませんと、こう申し上げているんです」

山上弁護人=「受け取った時には、時計は何か箱に入っておったんですか、むき出しで出されたんですか」

証人=「・・・・・・むき出しかも知れませんな」

山上弁護人=「それからどうなったんです、その時計は」

証人=「要するに上司に提出してありますね」

山上弁護人=「上司は誰に」

証人=「当時はたくさん居たからな、上司が・・・・・・いわゆる捜査の本部長をしていたのは中さんですか、そのほか飯塚課長、そのほかもっとおりましたな、清水警部だとかというような方の所ですね、誰の所へということは記憶ございませんが」

山上弁護人=「時計を借りる時に借用書を入れましたか」

証人=「入れたと思いますな」

山上弁護人=「誰の名義で」

証人=「私の名義で入れたと思います。人の物をただもらって来るというのは間違ったことですから」

山上弁護人=「その借用書は今も時計屋さんにあるんですか」

証人=「その借用書が私のところへ戻っていないですから、だから時計屋さんにあるいはあるかも知れません」

山上弁護人=「将田さんか何かの証言だったと思うけれども、あなたが時計を返しに行ったんですか、それとも警察で買い取ろうということになったとか、どうとか言う証言もあるんですが、その点、借りた時計の運命はどうなったんですか」

証人=「時計屋さんに戻ったか、ないしは警察の方で買い取ったか、その点はっきり記憶がございません」

山上弁護人=「あんたしかし一般の時計屋さんから時計を借りて来て借用書まで入れてそんな無責任なことをするの」

証人=「無責任と言えば無責任かも知れませんが、まあ」

山上弁護人=「とにかくどうなったかわからん」

証人=「ええ、分かりません」

(続く)

                                            *

○警察が時計屋から借りた腕時計は、その後ゆくえが分からないという証言があるが、これは中々重大な案件であり、「どうなったか分かりません」では済まされぬ問題と思われる。

当時、本件の捜査が正確、精密に遂行されたならば、現在、検察庁の証拠品保管室には二つの腕時計が保管されていなければならない。言うまでもなくそれは被害者の腕時計及び時計屋より借りて来た、未返却の腕時計の二つである。これらは再審弁護団による証拠開示請求を経て、まず二つの腕時計が存在するかどうか、是非とも確認したいところである。それはなぜか。松本清張の短編推理物が大好物な、老生による黒い推測によれば、茶畑で発見された腕時計こそが借りて来た腕時計そのものであり、被害者が着用していた腕時計はそもそも見つかっていなかったと、このように推測するからである。

つまりこうである。昭和三十八年五月四日、被害者の遺体が発見され、四日後の五月八日、遠藤証人は中田健治氏らと時計屋から腕時計を借り、これを基に重要品触れのチラシ等を作成・配布、そして七月二日、茶畑より腕時計(借用した)が発見される。

発見現場には腕時計と共に古いビニール袋が捨てられていたが、これはここへ腕時計を運んだ人物が指紋の付着を避けるために使用したと老生は推測、これが残っていては警察にとって不都合との判断から、事実ビニール袋は領置されていない。

なお、腕時計の捜査に関連し作成された重要品触れの記載内容にも問題があり、時計の側番号、情報受付用の電話番号の誤記載など、ほぼ役立たない品触れとして完成されており、ここにも捜査当局による拙速な捏造からくる詰めの甘さが見られよう。

僭越ながら、なかなか筋の通った推測ではないかと思うが、これを決定付ける発言が、今回証人が述べた「借りた腕時計の行方はわからない」との証言でありこれはかなり考えられた供述と見る。やがていつの日か、被害者の腕時計と借りた腕時計の二つが検察庁に保管されているかどうか問われる時が訪れようが、その時のいわゆる抜け道を残す形として証言は述べられている。被害者の腕時計を発見出来ない当局は重要品触れの参考として借りて来た腕時計を被害者着用の物とし、これを茶畑から発見させ証拠品として領置、やがて検察庁へ送られた。したがって現在検察庁に保管されている腕時計は一つとなる。

以上は個人的な完全なる推測・憶測に過ぎない。

 

 

狭山の黒い闇に触れる 953

写真は川越付近の公園で撮影したものだが、野良猫はこの姿勢を約十分ほど保ち続けており、私は猫が発作でも起こしているのかと心配し見守った・・・。

【公判調書2989丁〜】

                    「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            * 

福地弁護人=「石川君が川越分室に連れて来られた日にちは、いつ頃だか覚えていますか」

証人=「六月中か、ないしは六月中旬より先じゃないかと、どうもはっきりしないがまあ大体」

福地弁護人=「記録上は六月十七日ということですがね、大体あなたの記憶と一致しますね」

証人=「ああ、そうですか、私、日は分かりませんけれども大体そうじゃなかろうかなということです」

福地弁護人=「石川君と最初に会ったのは、石川君が来た六月十七日より何日くらい後でしょうか、川越分室に連れて来られた当日に会いましたか」

証人=「会いました」

福地弁護人=「その日に会っている」

証人=「会ってると思います」

福地弁護人=「六月十七日にどこで会いました」

証人=「いわゆる調べ室にあてた畳の部屋じゃなかったかという感じがするんですが」

福地弁護人=「取調室で会ったという記憶ですか」

証人=「ええ、そういう記憶です」

福地弁護人=「石川君が留置場のご飯を不味いと言って食べなくなった、そういうことがあったことを知ってますか」

証人=「ありますね」

福地弁護人=「それはいつ頃のことでしょうか」

証人=「川越分室へ行って間もなく、あるいは二、三日過ぎだか、その点はっきり記憶がございませんけれども、とにかく川越分室へ行ってから間もなくじゃなかったかというような感じがしますけれども」

福地弁護人=「間もなくだったか、または二、三日経ってから」

証人=「ええ。二、三日経ってからか、四、五日経ってからか、その点は記憶がはっきりしませんけれども、あります」

福地弁護人=「つまり一週間も十日も先じゃないという風な記憶ですか」

証人=「そうじゃないと思い、ます(原文ママ)。間もなくだったんじゃないかというような気がしますが」

福地弁護人=「石川君はなぜご飯を食べなくなったかは聞いておりますか」

証人=「あそこの留置場の看守が斉藤君だったような記憶をしておりますが、それがまあ、記憶を辿りますというと、石川君がごちそうさまでしたと言うんで、出した弁当空(原文ママ)を見るとご飯に手をつけてないというような話じゃなかったかと思いますが」

福地弁護人=「私が聞いているのは、なぜそういうことをしたのかという理由を聞いているんですがね」

証人=「それは、ご飯というか弁当箱というか、が、くさいというような話だったと思います」

福地弁護人=「石川君はそういうご飯を食べないというような行動を何日くらい続けたという記憶ですか」

証人=「・・・・・・一日か二日じゃなかったんでしょうかな、何日という記憶は私ございません。一日か二日じゃないかと思います」

福地弁護人=「ないかと思うというのはその根拠は」

証人=「と言うのは今申し上げるように斉藤君が、石川君がごちそうさまでしたと言うんで弁当箱を出す、開いて見るというと中が一杯で一つも箸を付けてない、というのが二回か三回あったんじゃなかろうかというような」

福地弁護人=「それはあなたの推測ですね」

証人=「推測です。何食伝々ということは私記憶ございませんから」

福地弁護人=「三人でやったと言っていた被告人が一人でやったという具合に供述が変わりましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたが取調べに立ち会っていたんだから分かると思うんだけれども、どうしてそういう風に供述が変わったんでしょうか」

証人=「だから先ほど申し上げたように、三人でやったものであれば三人それぞれ責任分担というものがあるわけだと、いわゆる各々やった行為が自ずと変わっていくわけですな行動が。それについて自分でやった行動についての責任を負わなければならんと、三人でやったんならば三人で負わなければならんと、一人でやったんなら一人で負わなければならんという意味合いの私の話です。それで一人だということに変わったように記憶しております。あ、その前にこういうことがありましたな、名前は言えないが三人だということがあったと思います」

                                            *

山上弁護人=「石川一雄君が川越分室に移ってからは長谷部さん、青木さん、証人、で大体取調べられておるようですけれども、大体青木さんが主任で取調べたようですね」

証人=「はい」

山上弁護人=「一番上司というのは、位から言えば長谷部さんなんですか」

証人=「さようでございます」

山上弁護人=「石川君は地図をいろいろ書いているようですけれども、そばに地図があったんですか」

証人=「ないですね」

山上弁護人=「これは確実に地図がなかったと言えますか」

証人=「ありません」

山上弁護人=「長谷部さんは、本部の方にも川越分室の方にも地図があって、それを確かめて石川君に聞いたことがあるということを証言しているんですがね、どうですか」

証人=「ないですね」

山上弁護人=「長谷部さんは上司でしょう」

証人=「はい」

山上弁護人=「上司の人がここの法廷で、地図は川越分室の方にもあった、確かめながら書かせたということを証言しているけれども、あなたの記憶はどうですか」

証人=「ありません」

山上弁護人=「長谷部さんははっきり言ってますよ」

証人=「はっきり言ってるかも知れませんが私はそういうことはありません」

山上弁護人=「あなた、石川君が図面を書く時には、ほとんど立ち会ってますね」

証人=「ええ、立ち会っております。全部が全部とは申し上げませんが、ある程度タッチしております」

山上弁護人=「石川君の供述調書の本文の謄本を取ったことがあるでしょう」

証人=「はあ、取っております」

山上弁護人=「これはどうやって取るんですか」

証人=「それは写して」

山上弁護人=「見ながら書くんですか」

証人=「そうですね」

山上弁護人=「石川君が書いた地図の謄本の取り方と、本文の謄本の取り方とは違っておったんですか」

証人=「違っておったと思います。供述調書の方は今言ったように写していきます。図面も、もちろん写したことにかけては間違いございませんけれども」

山上弁護人=「地図を上から薄い紙になぞって取ったという証言が、この間ありましたね」

証人=「はい」

山上弁護人=「地図はどうしてそういう具合に上からなぞって取るんですか」

証人=「供述調書の方は字体を同じにしなくても、いろはのいの字は読めます。図面の方はそうはいかないんじゃないかと思います」

山上弁護人=「ということは、どういうことですか」

証人=「ということは同じに書けるわけがないんじゃないかと思いますが、それは何か科学的に機械でも使えばどうか分かりませんが、人間の手で同じに書けるということは私はないんじゃないかと思いますが」

山上弁護人=「図面は同じに書かなくちゃならん理由があるんですか」

証人=「別に特別に理由というものはございませんでしょうけれども、大体まあそんなような格好になっていたわけです」

山上弁護人=「あなたは図面はそういう理由で特に薄い紙で謄本を取ったことがあると、こういうことですか」

証人=「それは私自身が謄本を取ったことはございませんので、はっきりそうだということも申し上げかねますが、そういう風な状況で取っておったようだということは申し上げてあります。これも全部名前を私記憶しておりませんが、今、頭の中にあるのは清水君だとか平野君だとかいうのが、そういう面の担当をしたように記憶しております」

山上弁護人=「当時捜査にあたられた人で、警部補で遠藤というのはあなただけですか」

証人=「ほかに誰もいなかったと思いますが」

(続く)

                                            *

私の心配をよそに、結局この野良猫はシラミ取りに耽っていただけであった。

その後、まるで不審者でも見るような目付きでこちらを見つめており、猫にまでこのような扱いを受けるなんてと、私は悲しい気持ちになった。

 

 

狭山の黒い闇に触れる 952

【公判調書丁2986〜】

                  「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            *

福地弁護人=「(原審記録第七冊の昭和三十八年六月二十三日付の被告人の供述調書末尾添付の図面(2)二〇五〇丁を示す)この図面に見覚えありますか」

証人=「はっきりとは記憶ございませんがありますね」

福地弁護人=「この図面を作るにあたって被告人は下書きをしたんでしょうか、しなかったんでしょうか」

証人=「記憶ございません」

福地弁護人=「被告人が図面を書く時はどこで書いていましたか」

証人=「机の上の時もあったし、それから畳の上で書く時もあったように記憶しておりますが」

福地弁護人=「どうして畳の上で書かせるんですか」

証人=「いやいや、畳の上の紙が何枚か重なったところで書いたような記憶もあります」

福地弁護人=「机の上で書いたり畳の上で書いたりしたわけでしょう」

証人=「はい」

福地弁護人=「机の上で書くことは分かりますよ、普通机の上で書くでしょう。畳の上で書いたのはどういうわけですか」

証人=「畳の上と言うと語弊がございますけれども、畳の上にただ紙一枚を置いたわけではございません。何枚かとにかく紙を置いた上で書いたわけですから」

福地弁護人=「だからそれは机の上でもできることでしょう」

証人=「さようでございます」

福地弁護人=「それをなぜ畳の上で書かせたんですか」

証人=「それは石川君が書いたんですから、私の方でここに書けとかあそこに書けとかいうような差し出がましいことも無きにしも非ずですけれども、大体机の上ばかりではないです。畳の上というのはどうも変な言葉遣いですけれども、ただ畳の上でなくて、何枚か紙が重なっておってごじゃごじゃが出来ないような状態で書いたんです。そういう風に記憶しております」

福地弁護人=「下敷きを使って書いたようなこともあったようですね」

証人=「あったかも知れません」

福地弁護人=「そういう趣旨の証言を前回あなたはやってますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「どういう下敷きを使ったか記憶ありますか」

証人=「セロハンじゃなかったかというような記憶がしますが、しかしどういう下敷きを使ったかということになるとちょっと記憶ありませんけれども」

福地弁護人=「ゴム板を使ったような記憶はありませんか」

証人=「あったかも知れません」

福地弁護人=「この今の二〇五〇丁の図面の上の方にインクで『この辺で自転車をおれが持つと受け取った』という書き込みがありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「そこは三叉路になっていますね」

証人=「さようですね」

福地弁護人=「その三叉路の角に鉛筆でかぎ型に書き込みがありますね」

証人=「あります」

福地弁護人=「ここに限らず、この図面に向かって右側の三叉路の角、その斜め下の角、その斜め上の角、そのほかの角々も、いずれもかぎ型が見えますね」

証人=「はい、見えます」

福地弁護人=「これは誰が書いたんですか」

証人=「石川君が書いたんでしょう」

福地弁護人=「これは警察の方でかぎ型をあらかじめつけておいたんじゃないんですか」

証人=「そんなことないですね、図面そのものはみんな石川君がやったもので、私の方でやった図面は一つもないですから」

福地弁護人=「その図面のちょうど真ん中辺りに『じでんしゃ』という書き込みがありますね」

証人=「はい、ございます」

福地弁護人=「で、線が引っ張ってあって自転車らしい何か略図みたいなのが書いてありますね」

証人=「はい、ございます」

福地弁護人=「その向かって左側に鉛筆で丸い輪が三つ並んでいますね」

証人=「並んでいます」

福地弁護人=「これは何ですか」

証人=「何か記憶ございません」

福地弁護人=「常識的に言って、こういう非常に複雑で精巧な図面を当時の被告人が書けるとは思えないんだけれども、この図面の作成について何かあなた方のほうで指示をしたようなことはありませんか」

証人=「ありません」

福地弁護人=「これは極めて精巧に順序良く書いてありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「警察官だってなかなかこう上手く書けないです」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

福地弁護人=「被告人は当初三人でやったんだという自白調書が出来ているんですがね、ご存じですね」

証人=「はい」

福地弁護人=「記憶ありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「この自白をした時の被告人の状態はどういう状態だったですか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

福地弁護人=「記憶がなければ、この三人でやったという自白について、当時あなたはそれを聞いてどういう風に思いました」

証人=「本人の言うことだから間違いないだろうと思いました」

福地弁護人=「そのことについて主任の青木さんと、これは本人の言うことだから間違いないだろうというような話をしたことがありませんか」

証人=「特別その点について相談をしたというようなことはないと思います」

福地弁護人=「そのあと被告人は、一人でやったという単独犯の自白に変わりますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「単独犯の自白に変わったのは何日ですか」

証人=「日の記憶はございません」

福地弁護人=「三人共犯説は被告人の言うことだから間違いないとあなたは思ったと、さっき言いましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「単独犯に自供の内容が変わるということになると、これはあなたにとってはちょっとしたショックじゃないですか」

証人=「ショックと言えばショックかも知れませんが、私の今までの状況から申し上げますと、私は人を調べている時には供述内容についてはそのものを一応信用いたします。だから三人でやった場合はそれぞれ責任を分担しなければならんぞという、君自身の責任を負わなければならんぞと、まあ今までの経験からしてそういう風な私は聞き方をしていたわけです」

福地弁護人=「そういうことを石川君に言ったんですか」

証人=「私はおそらく言って聞いてると思います」

福地弁護人=「三人でやったということをあなたが聞いた時にそういうことを石川君に話したと思うと」

証人=「はい、そう思います。まあ思いますと言うと語弊がございますけれども、今まで私はそういう風に聞く場合に、二人でやった場合は二人がそれぞれ責任を負わなければならんのだぞと、石川君の場合であっても三人でやったというんだから、石川君だけの責任を負わなければならんぞというようなことは私言って聞いております。しかしどんな風に細かく聞いたかという点については私記憶ございませんけれども」

(続く)

                                            *

○私は、図面上部に書かれている「この辺で自転車を俺が持つと受け取った」という記載に違和感を感じた。

この二〇五〇丁の図面は甲、乙、丙と、三枚存在しており、図面中央の自転車の位置を指示している字は、いずれもひらがなが用いられている。

(2050甲)

(2050乙)

(2050丙)

ところが図面上部の説明文には漢字で「自転車」と書かれている。

(2050甲)

(2050乙)

(2050丙)

当時、石川被告が書いた図面の文字は、そのほとんどが平仮名によるものであり、漢字による「自転車」という表記は珍しいと言える。さらにこの説明文には「辺」「持つ」「受け取る」等の漢字表現が含まれ、見るからに日常的に文章を書き慣れた者による筆だと推測される。この意見は今回引用した公判記録にある弁護人による尋問に付け加えたいところである。 

公判調書の尋問・供述に目を通していると、やがて気付くことがありこの点も述べておこうと思う。

①「・・・自転車を俺が持つと受け取った」

②「・・・俺が自転車を持つと受け取った」

今回登場した図面には①の表現がなされている。だが我々の日常生活において通常なされる表現は②が一般的ではないかと思われはしないだろうか。確かにこの類いは厳密に区別できる性質のものではないが、いわゆる5W 1 H に照らして見ても、その順序から言って②の方が分かりやすいのである。一方で、裁判記録(公判調書)という書類はその真逆な表現方法で満たされ、日本人が日本語を読もうとしているにも関わらず、それを拒み、理解させない、やがて諦めさせるという文章表現となっている。

話が脱線したが、要するに①の表現は法律に関係した者に多く見られる表現方法であり、「誰が」→「何を」ではなく「何を」→「誰が」という順序表現がなされた文章は、つまり石川被告の筆ではないのではと、松本清張かぶれの老生は推測するのである。

 

 

 

 

狭山の黒い闇に触れる 951

【公判調書2984丁〜】

                   「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            *

福地弁護人=「(原審記録第七冊の昭和三十八年六月二十七日付の被告人の供述調書末尾添付の図面(2)二一一四丁を示す)これは何を示す図面でしょうか」

証人=「これも時計を捨てた場所の図面じゃないかと思われます」

福地弁護人=「左下の方に時計を捨てた所という説明がありますね」

証人=「ええ、ございます」

福地弁護人=「この図面で見ると三叉路の、この図面に向かって左上の角の辺りにマークがついておりますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたの記憶では被告人はここに捨てたというような供述をしたんでしょうか」

証人=「記憶がございません」

福地弁護人=「あなたは発見された腕時計を見たことがありますか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

福地弁護人=「そんなに考え込むことはないでしょう」

証人=「いや、見たかどうかの記憶は分かりません」

福地弁護人=「あなたは現在この発見された時計というのはどういう形の時計だという風に思っておりますか」

証人=「形は長方形ということくらいは記憶しておりますが」

福地弁護人=「色は」

証人=「色は金色ですね」

福地弁護人=「バンドは」

証人=「記憶ありません」

福地弁護人=「腕時計が発見されたということを誰かに聞いた記憶はないですか」

証人=「ありますね」

福地弁護人=「誰から聞いたですか」

証人=「誰から聞いたというところまでは記憶ありませんし、また、誰が発見したという名前も記憶がございませんが、一般の人が見つけてくれたんだというように記憶しております」

福地弁護人=「いつ頃聞いたんですか」

証人=「日にちの点についても記憶がございませんが」

福地弁護人=「時計が発見されたと言われている場所へ行ったことがありますか」

証人=「それはしばらく経ってからだと記憶しておりますが発見されたという直後じゃないと思いますが、しばらく経ってからだと思います。ここから発見されたんだそうだということを行って見た記憶があります」

福地弁護人=「それは誰と行きました」

証人=「誰と行ったということも」

福地弁護人=「一人で行ったんですか」

証人=「一人で行ったことはございません。一人で仕事したことはございませんから誰か一緒です」

福地弁護人=「仕事として行ったんですね」

証人=「仕事ですね」

福地弁護人=「その二一一四丁の図面でいうと、時計が発見されたという場所は、どこら辺ですか」

証人=「こっちの方(図面に向かって左側)が畑だとすれば、畑と道路の間ですね」

福地弁護人=「時計を捨てた所ということで黒い丸がつけてありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「そこから時計は発見されたんですか」

証人=「そこじゃなかったような気がしますね、何でも畑に入っていたように」

福地弁護人=「そこでないということですね」

証人=「弁護士さんが仰る所は道路の境でしょう」

福地弁護人=「今聞いてるのはここに黒い丸がつけてあって時計を捨てた所という具合に書いてあるでしょう、ここから発見されたという具合に記憶されているかどうかということです」

証人=「そうじゃないように記憶しております」

福地弁護人=「どこだったという記憶ですか」

証人=「畑に入っていたような記憶ですね」

福地弁護人=「この図面の中でそれを示すとすればどこら辺ですか」

証人=「左の方の畑か右の方の畑か、とにかくどっちか分かりません」

                                            *

裁判長=「そうすると捨てた所とは違うと思うと、で、その図面の上からいくと時計を捨てた所と書いてある上方または左の方」

証人=「ええ、だからこれより畑の方へ入っていたというような気がします」

裁判長=「上の方とか左の方というわけ」

証人=「はい、そうです」

                                            *

福地弁護人=「あなたが立ち会って作った調書がいっぱいあります。それには大体図面が添付してあります」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたはその図面を石川くんが書いている状態を見ていたように前回の法廷で述べましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「この図面の作り方についてちょっとお尋ねしますがね、これはいきなり被告人に紙を与えて書かせるんですか。それとも下書きをやらせるんですか」

証人=「図面の作成については一応石川くんが仰ったことに基づいて石川くんに書いてもらったものですが、場合によって下書きを石川くんがして、それでまた清書をしたのもあるかも知れません。全部が全部そうだとは私申し上げません」

福地弁護人=「いったん下書きをやらせたようなこともありますか」

証人=「・・・・・・下書きじゃないですね」

福地弁護人=「どういうんですか」

証人=「まあいわゆる、ごじゃごじゃと書いた場合はもう少し大きく書いてみたらどうだというようなことですね」

福地弁護人=「書き直させるわけですか」

証人=「そうですね、そういうこともあったと思います」

(続く)

狭山の黒い闇に触れる 950

【公判調書2982丁〜】

                    「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(かつ)・七十歳

                                            *

福地弁護人=「腕時計の処理、処分について、被告人はどういう供述をしているか、今覚えていますか。簡単に言うと腕時計をどうしたか、どういう説明をしているか。腕時計の行方についてどういう説明をしたか記憶ありますか」

証人=「道路上へ捨てたと言ったようなことを記憶してます」

福地弁護人=「どういう道路だったという記憶ですか」

証人=「砂利道ですね」

福地弁護人=「どこら辺の道路でしょうか」

証人=「記憶ございません」

福地弁護人=「その道路は、三叉路になっていたという記憶じゃありませんか」

証人=「記憶ありません」

福地弁護人=「十字路だったという記憶はありませんか」

証人=「記憶ないです」

                                                                  (以上  佐藤治子)

                                            *

○末尾に速記録者の氏名が記されている事と、この後に続く尋問の文脈からみて、法廷は一旦、昼休憩に入ったと推測できる。すると、この場へ七回に分けて引用してきた遠藤  三への膨大な尋問は、わずか午前中に行われていたという事に気付き私はめまいを覚えた。密度の濃い、その圧縮されたが如くの問答に対応している証人はある意味で立派である。飲酒が常態化している私などは、油断すると三、四日ボーッと過ごすことも多々あり、今後は証人や弁護人、検察官、裁判官のように気を引き締めた日々を送りたいと一応思った。

ところで彼等が昼食をどこで何を食べたのか、その味はどうだったのか、また喫煙者がいたとすれば、食後の一服はどんな煙草を吸っていたのか、着火にはマッチを用いたか、など、私的興味は尽きないが、引き続き尋問の引用に戻ろう。

                                            *

福地弁護人=「午前中に時計の処理に関する被告人の自供についてお尋ねしましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「あなたは砂利道に捨てたという具合に確か証言しましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「その捨てた場所が三叉路であるか十字路であるかは記憶がないと、こういうことを証言しましたね」

証人=「はい」

福地弁護人=「(原審記録第七冊の昭和三十八年六月二十四日付の被告人の供述調書末尾添付の図面(2)二〇七五丁を示す)これは何を説明している図面だか分かりますか」

(この図面は二〇七五丁と、丁数は合っているのだが、日付は六月二十九日であり、図面上のカッコ内の数字は一である)

証人=「これは・・・・・・時計を捨てた場所を示した図面じゃないかと思います」

福地弁護人=「時計を捨てた場所というのはその図面で左の方に説明がありますね」

証人=「はい、あります」

福地弁護人=「ここは三叉路になっているように読めるんですが、そういう記憶ありますか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

福地弁護人=「T字路のように読めるんですが、どうでしょうか」

証人=「T字路というよりむしろ三叉路でしょうね」

福地弁護人=「その図面を見て、被告人が三叉路に捨てたというような供述をしたかどうか、思い出して見て下さい」

証人=「・・・・・・はっきりしませんね」

福地弁護人=「被告人が時計を捨てた場所について、砂利道という程度の記憶しかないんですか」

証人=「ありませんですね、ちょっと記憶しているのは道路上だと思いますが、道路上という言葉を使ったかどうか分かりませんが、いずれにしても道の上だという、そこのところが三叉路であるかT字路であるかは、はっきりしませんが」

福地弁護人=「この図面の上の方にかっこして数字が書いてありますね」

証人=「ええ」

福地弁護人=「その中の数字は何と書いてあるんですか」

証人=「2じゃないでしょうか、分からないですが」

福地弁護人=「2じゃないとすると何でしょうか」

証人=「分かりませんな」

福地弁護人=「全然分からない」

証人=「分かりません」

福地弁護人=「当時の記憶でなくて今見た感じでいいです」

証人=「だから2ですね」

福地弁護人=「右の方に石川一夫という署名がありますね」

証人=「はい、あります」

福地弁護人=「その上に日付がありますね」

証人=「はい」

福地弁護人=「何日と書いてありますか」

証人=「6月29日じゃないでしょうか」

(続く)

                                            *

六月二十四日付の被告人供述調書末尾の添付図面には六月二十九日との日付が残されているが、これに何か問題があるのか、私は混乱し、もう何だかよく分からない。先へ進もう・・・・・・。

 

 

狭山の黒い闇に触れる 949

【公判調書2981丁〜】

                    「第五十六回公判調書(供述)」

証人=遠藤  三(みつ)・七十歳

                                           *

福地弁護人=「(先ほど示した原審記録第七冊二〇〇三丁、昭和三十八年六月二十一日付、青木一夫作成の被告人供述調書添付図面を示す)それは、すると、石川くんが書いた鞄のありかを示す図面になるわけですね」

証人=「と思います」

福地弁護人=「すると、鞄のありかとしては、その図面に鞄という風に書いて、線が引っ張ってありますね」

証人=「あります」

福地弁護人=「そこに鞄があると、こういう趣旨でしょうか」

証人=「そうですね」

福地弁護人=「この図面の見方ですけれども、ぎざぎざが付いてない一本の線ですね、実線と言いますかね、これは道路を示すんでしょうね、違いますか。縦、横、斜めに線があるのは、道路を示すんでしょうね」

証人=「と思います」

福地弁護人=「"かばん"という説明文の文字のすぐ上にぎざぎざになってるところがありますね、"みぞ"という具合に説明がありますね。鞄は、そうするとこの溝ではなくて、道路の部分にあるように説明がしてありますね。そういう趣旨に受け取っていいでしょうね」

証人=「私がこの図面から見ると、そうじゃないですね、道路じゃないですね」

福地弁護人=「では何ですか」

証人=「道路じゃなくて、どうも上手く説明が出来ないから分からないけれども、道路のある程度こういう風なところになるんじゃないでしょうか」

福地弁護人=「どうしてそういう説明になるんですか」

証人=「そこのところよく分かんねぇが」

福地弁護人=「だってあなたのさっきの説明では、そこは道路じゃないですか」

証人=「線は道路かも知れませんが、線じゃないでしょう、これは」

福地弁護人=「線でしょう、それは」

証人=「線じゃないですよ」

福地弁護人=「何ですか」

証人=「何だか分かりませんが線じゃないですよ、古いことですから記憶ないですよ、そう畳み掛けられても古いことなんで暫く考えなければ出てこないですよ」

福地弁護人=「最終的にはよく分からないということですか、結論としては。古いことだから」

証人=「いや、図面上で申し上げると、これは線の上じゃないんじゃないかということです。これは、線のところへ幾らかなっているから道路で言えば側溝みたいな格好のところじゃないかと」

福地弁護人=「どれが側溝ですか」

証人=「この辺がね、一本の線になっていないところだから」

福地弁護人=「今、あなたが示したところは一本の線じゃないですか」

証人=「なってませんよ、側溝じゃないかと、こういう記憶だということです。私は側溝のように見えるなという風な、まあ、そうではなかろうかということです。ただし今、弁護士さんが言うのには、この線は道路だと、こう聞かれたから線は道路だと思うと、こう言ったわけです」

福地弁護人=「その、今問題にしている部分の下に、ぎざぎざの線がありますね、"みぞ"と書いてあります」

証人=「はい、ありますね」

福地弁護人=「側溝のほかに溝があるという風に、あなたは理解しているんですか」

証人=「その図面がよく記憶がございませんけれども、この間が溝になるかも知れないですね」

(続く)