アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 937

【公判調書2950丁〜】 

                      「第五十五回公判調書(供述)」

証人=小島朝政(五十六歳・財団法人埼玉県交通安全協会事務局長)

                                            *

山上弁護人=「自供に基づいて物が発見されたというのは何々か、あなたご存じですか」

証人=「自供に基づいて発見されたというのは、私が知っているのは、まず、時計、万年筆ですね。私が関係したのはそれだけですが、あとは何がありましょうかな」

山上弁護人=「鞄はありませんでしたか」

証人=「ああ、鞄ね。鞄や本はどうなったか、その点はどうでしょうかね」

山上弁護人=「記録上はっきりしておるんですがね、自供に基づいて発見されたというのはね、時計、万年筆、鞄です。で、あなたはこの三つの内、直接には時計と万年筆に携わっておられるようですね」

証人=「はい」

山上弁護人=「非常に重要な役割だったと思うんですが、時計を発見するについて、将田さんから下命をお受けになったその時に、多分、真ん中に捨ててあったなら、今頃あるはずがないだろうということを思われたのは、将田さんからそういうことを打ち明けられたのですか、あなたが思ったのですか」

証人=「私が思ったんですが」

山上弁護人=「将田さんは何か言いましたか」

証人=「将田さんは今思うに、自供したよということで、まあ、何と言いますか、慌てふためくというか、何か、わくわくしたような感じですね」

山上弁護人=「問に答えて下さいね。将田さんが、もう、真ん中に捨てたから、多分無いよということをあなたに話したことがあるかどうか」

証人=「ありません」

山上弁護人=「あなたは、真ん中に捨てたと言うのなら、もう、無いだろうというような、あなたの感じを捜査に行かれた七、八名の方に話しましたか」

証人=「話しません」

山上弁護人=「あなただけ思っただけですか」

証人=「はい」

山上弁護人=「実はね、ずっと記録を見ておっても、真ん中に捨てたと言うんだから、もう、無いだろうということをはっきり仰ったのは、この法廷で初めてのように私はお聞きしますが、その点はどうですか。あなた覚えていらっしゃっいますか」

証人=「記憶はございません」

山上弁護人=「あの前々回の法廷で、裁判長がそういう趣旨の、真ん中に捨てたと言うならもう拾われているだろうと、そう思ったのではないかね、という風な発言をなさった時があるんですが、あなたはその時の捜査書類を読んで、証人調書を読んで来られたということはないでしょうね」

証人=「もちろんございません」

山上弁護人=「それから先ほど、七月二日捜査に行く時点のことだと思いますが、あれだけ嘘を言っている石川君のことだから、というような言葉を洩らされましたが、それを思ったのはいつの時点ですか、七月二日のことですか」

証人=「七月二日・・・・・・」

山上弁護人=「時計の捜査に行く時だったのかどうかは証言上はっきりしませんが、あれだけ嘘を言うのだからという趣旨の発言をなさった、それはいつのことですか」

証人=「その頃です」

山上弁護人=「七月二日」

証人=「はい」

山上弁護人=「そうすると、少し不思議なことがあるんですが、万年筆が発見されたのは六月の二十六日ですね、じゃないんですか」

証人=「はい」

山上弁護人=「嘘言っていないんじゃないですか。もし、それが本当だとすれば、自供通りに発見されたという印象はあなたに残っていなかったんですか、七月二日には」

証人=「いや、道の真ん中に捨てたというのは、こんなことは嘘だということは当時私は思ったんですがね。今、その時計が早かった、万年筆が早かったということのお問いですが、私は今、記憶にございません。今、思っていることは、ただ、あの頃道の真ん中に捨てたって、これは嘘だろうということを今思ってます。当時も思ったと思います。これは私の真実でございます」

山上弁護人=「それはなかなか力を入れて証言してますがね。しかしあなたの当時の印象で、六月二十六日には石川君の自供通りに発見されたという印象があれば、これも多分自供通りであるだろうというような感じになるのが僕は捜査官として当然だと思いますが、あなたはうっかり本音を吐いて、時計が自供で発見されたものでないという印象が心にあったんじゃないですか」

証人=「そういうことはございません」

山上弁護人=「そうしたら、あなた自供に基づいてですよ、鞄も万年筆もそれ以前に七月二日以前に発見しているということを知っているであろうあなたが、また被告が嘘をついたという印象を持つでしょうか」

証人=「これはですね、私は短い捜査の経験からでございますが、そういうことはままあることでございまして、一回あったからということで、この次も本当だということはあり得ない、とりわけ、この道の真ん中に時計が捨ててあったということなどは、まあ、これはあるいは極端な話になりますが、入質したとか転売したとかいうようなことがあり得るんで、万年筆など金銭的価値のないものはいざ知らず、時計など、金目のあるものが道の真ん中に捨ててあるということは、これは私は当時、もうこれは嘘だと、そういう風に判断したんです」

山上弁護人=「まあ、少なくとも職業として法律に携わっている人なら、あなたの弁解が全く筋の通らないものであるということは、おそらく、裁判官も検察官も印象付けられたかと思いますがね。じゃ、次に尋問を続けます。あなたの尋問の中で、ちょっとおかしいことがありましたので、もう一回お尋ねしますが、万年筆の捜査の時にビニールの袋を持って行かれたようですね、それは前回出てますね」

証人=「万年筆の捜査の時にね。まあ、当時の記録にあるとすれば持って行ったでしょうね」

山上弁護人=「持って行かれたんですね」

証人=「はい」

山上弁護人=「これは捜査の専門家として、当然指紋を残しておくという意味もあったんでしょうね」

証人=「いや、これはね、証拠物を押収したときには他の指紋や、他の雑物が付着しないためにその中に入れるんで、いわゆる、証拠物に指紋、雑物等が付着しないために持って行くのであって、袋そのものの外に指紋が付着するのは当然でございますね」

山上弁護人=「だから、万年筆に雑物が付着して指紋が消えることがあるということを慮(おもんぱかって)って、ビニール袋を用意されたと、それはその通りでしょうね」

証人=「そうでしょうね」

山上弁護人=「それじゃお尋ねしますが、六造さんに直接、素手で万年筆を取らしたということと、ビニールの袋を持って行ったということは矛盾しませんか」

証人=「いや、これは特定の者が持ったということが明瞭であれば、何等疑う余地もないわけです」

山上弁護人=「なるほどね。これは、あらかじめ万年筆を捜査員がそのときに発見をして家の者を呼んで来たのですか、それともあなた方は全然見当も付かずに、あらかじめ物を発見せずに、六造さんが、こう、触ってみなさいと言ったんですか、どっちなんですか」

証人=「これはですね、将田警視が被疑者が自供したから、ここにあるという図面を持って私と同道したわけです。それでその図面によって、あれは兄さんかに、こういうところにあるということを被告が言っていると、被疑者が言っているけれどということを伝えたと、そういう風に思ってますね」

山上弁護人=「私の質問に答えたことにならないと思いますが、あらかじめ、石川君の家で捜査員が万年筆を発見して家族の者を連れて行ったのか、あるいはそうではないのか、他の方法かと、こう聞いておるんです」

証人=「これは一緒に行って捜してもらったんです」

山上弁護人=「あなたは、自供に基づいて万年筆を捜しに行くときに、印象としてあると思いましたか、ないと思いましたか」

証人=「いや、これも私は最初は嘘だと思いました。正直な話が」

山上弁護人=「それだったら先に戻りますが、石川は万年筆を自供した、自供通りに発見された、あらかじめ、石川、嘘を言うとるであろうという予想であるにもかかわらず発見されたという印象が深ければ深いほど、時計のときは自供通りに時計が出ると思うのが当然じゃないですか。これは全く不自然な気持ちじゃないですか」

証人=「いや、これは、もうね、時計に限って、話は横道に逸れますが、時計というものは金目の物ですよ。金目の物を言うときは、もう万年筆だとか、他の金目のない物は、これは簡単にあった所を言うにしても、時計などというものは金目の物であって、おそらく、今度は別として、多くの場合にこれを転売したりあるいは、いわゆる恋人にくれるとか、言えないことで金目の物は使用されたことがあると。そこで、金目の物を道の真ん中に捨てたなんていうことは、過去において、私は短い期間であるけれども、十数年、まあ、二十年捜査をやりましたが、もう必ずと言っていいくらい、多くの例がこの金目の物に限ってはなかなか本当のことが言い難いものです」

山上弁護人=「それはそう聞いておきましょう。それから、先ほどの証言にちょっと出てきましたが、何回目かの捜索の時に部落の者が大勢押しかけておったという言葉がありましたが、あなたは石川君が未解放部落であるということを知って警戒して行ったのですか」

証人=「いいや、その時は私は知りませんでした」

(続く)

                                            *

○『慮って』という語だが、もともとは『おもいはかる』だったものが『おもんはかる』になり『おもんばかる』と音が濁って、最終的に『おもんぱかる』に至った。

                                            *

『特定の者が持ったということが明瞭であれば、何等疑う余地もない』との、証人=小島朝政の判断により被告人宅から見つかった万年筆は兄の六造さんに素手で取り出させている。

この状況を現在の警察学校の講師が確認した場合、即座に講師は卒倒するだろう。 

考えようによっては、この万年筆は狭山事件における最大の重要証拠物であり、その扱いについては核物質並みの慎重な扱いが求められる案件であったことは明らかである。

つまり被告人宅から万年筆が見つかったと、これは事実として認めよう。万年筆にはそれに手を触れた者の指紋が残る。誰が触れたかは不明であるが、それを警察の鑑識が調べるわけである。ところが証人=小島朝政の取った捜査行動はそれらを飛び越え、無謀にも被告の兄に直接手を触れさせてしまうのである。これにより本来、万年筆に残された指紋検出は不可能となり狭山事件はより黒い闇に包まれてゆくのである。

狭山の黒い闇に触れる 936

石川一雄宅の屋内を捜索する捜査員ら。

【公判調書2948丁〜】

                      「第五十五回公判調書(供述)」

証人=小島朝政(五十六歳・財団法人埼玉県交通安全協会事務局長)

                                            *

石田弁護人=「石川宅にあなた方が着かれた到着の時間は何時頃でしたか」

証人=「朝だったでしょうか」

石田弁護人=「かなり、朝も早い時間じゃなかったですか」

証人=「もう、あの頃のことはちょっと時間的に言われても分かりませんですが、いずれにしても朝のような記憶がしますね」

石田弁護人=「相当長時間に及んだわけでしょう」

証人=「長時間というのは長時間ですがね、始まるまでの間が手間がかかったんですよね、時間的には。ですから、調書に何時から何時までというようなことでやってますが、その間に家族を説得し、家の中にいる者を説得し、こういうことだということで令状示して捜索を始めるまでの間に、実際は長い時間がかかっちゃっておったんですよね、そんな風に思いますが」

石田弁護人=「そうすると、捜索する時間は非常に短かったというわけですか」

証人=「実際の捜索する時間はそう長くはなかったという風に思いますね」

石田弁護人=「石川君の家の中には警察官全員がお入りになったわけでしょう」

証人=「入りましたね、全員がね」

石田弁護人=「制服で行かれたんですか、私服で行かれたんですか」

証人=「私服ですね」

石田弁護人=「全員私服ですね」

証人=「はい」

石田弁護人=「だから、その私服で行かれた警察官は石川一雄君宅の中に全員上がりましたね」  

証人=「全部上がったと思いますね。これは外の分担の者、家の外側をやる者も一応は家の中に入ったかと、それですぐ自分の部署(原文ママ)の捜索にあたったと思うんですがね。入ったことは一応、一旦は入らないということはないと思いますね」

石田弁護人=「捜索するために入った」

証人=「のではない者もいますね。家の中を捜索するというものでない者も入ってます」

石田弁護人=「屋外の捜索者と屋内の捜索者は、屋内の捜索者のほうが数が多かったんですか」

証人=「ええ。これは屋内のほうが多いというのは、目的物がああいう物ですから、これは外と思ったって、とてもじゃないけれども出来るかと思いまして、中のほうが人数は多かったと思いますね」

石田弁護人=「石川君宅の家の中、屋内の捜索員は何人くらい」

証人=「そうですね、まあ、半分としても五人」

石田弁護人=「あなた半分じゃないと言ったでしょう、半分以上」

証人=「半分としても五人です。十人として、半分としても五人ですから少なくとも八人くらい、七、八人じゃないでしょうかね」

石田弁護人=「十人として、七、八人が屋内捜索ですね」

証人=「ええ。外が二、三人、中が七、八人くらい」

石田弁護人=「あなたは屋内でどこかの捜索に直接従事されたわけですね」

証人=「私はね、捜索しないで、私が動いちゃうと報告が聞けないから、すべてそうですが」

石田弁護人=「どこにおったの」

証人=「玄関に神様が、あの石川さんのお宅はね、入ったら、すぐ神様があったと思うんですよね。もう古いことですからおぼろげですが、神様があって、神棚の下に私はおったように記憶します。で、ほうぼうを捜査員が、がやがやしながらやったのを記憶しますね。そのほかに、二回目のときは多人数だったので動かなかったですね」

石田弁護人=「その二回目の捜索のときにね、それであなたは捜索を終了させるについては、あらゆる所の捜索がすべて終了したということを確認して終わったわけですね」

証人=「私は確認というより、報告を確認ですね」

石田弁護人=「報告を確認して終わったということですね」

証人=「はい」

石田弁護人=「そのとき、捜索に従事されていた部下全員から報告を受けたわけではなくて、その中の何人かから報告を受けるわけですね」

証人=「そうですね」

石田弁護人=「報告によって、すべての場所の捜索が終了したということで、捜索を終えて引き揚げるという順序になったわけですね」

証人=「そうですね」

(続く)

石川一雄宅の屋外を捜索する捜査員ら。

狭山の黒い闇に触れる 935

【公判調書2946丁〜】                    

                      「第五十五回公判調書(供述)」

証人=小島朝政(五十六歳・財団法人埼玉県交通安全協会事務局長)

                                            *

石田弁護人=「また前の話に戻りますが、腕時計が発見されたという報に接して、あなたはどんな風に思いましたか」

証人=「腕時計が発見されたという報告を受けた時に私は・・・・・・」

石田弁護人=「当時の感想ですよ、今のあれでなくてね」

証人=「先ほども申し上げておりますが、今まで否認していた被疑者が一回言ったからといって、一回目に果たして本当かどうかということが疑問にありました。それで当時の将田次席が翌日の、付近の捜査の計画を下命したんですが」

石田弁護人=「ちょっと待って下さい、将田警視が翌日の捜査命令をしたというのは」

証人=「前の日に言って、翌日に私達ががやったわけですね」

石田弁護人=「前の話ですか」

証人=「ええ」

石田弁護人=「いや、発見された時点で、どんな風に考えたかということです」

証人=「発見された場所ですか」

石田弁護人=「発見されたということを知ってね、あなたどんな感想を持ったかと、私、尋ねたんです」

証人=「これはですね、私は反省しております」

石田弁護人=「だから、反省するしないでなくて、どんな感じを受けたかと聞いているんです。端的に答えて下さい」

証人=「感じとしてはね、馬鹿な捜査員もいたもんだな、私自身、粗漏な捜査だという風に思いましたですよね。これはさっき繰り返した通りです」

石田弁護人=「やっぱりあそこで発見されたかという風には思いませんでしたか」

証人=「意外に思ったですね」

石田弁護人=「何ですか」

証人=「意外に思ったですね、あそこから出たかと、やっぱり本当だったかと」

石田弁護人=「しかし、あなたは捜査員から、どういう捜索をしたかという細かい報告を受けていなかったような趣旨のこともさっきは言ったんですがね」

証人=「そうなんです。もう、あんな所にない、という先入観で仕事をしていたのに、あそこに出たので、あれっという風に意外に思ったと、こういうことを申し上げているんですが」

石田弁護人=「まあ、意外に思ったということであるならば、やはり時計の近くに置かれていたビニールの袋ぐらいはね、領置すべきだということは当然だと思うんですがね」

証人=「何の関係がありましょう。私自身が今考えてもそうですし、当時もそうですが、時計がビニールに包んで捨てたというのならいざ知らず、ただ捨てたということだけであって、ビニールの袋が全く無関係だと私は当時思ってました」

石田弁護人=「それから、石川被告宅に三回捜索されてますね、あなたは」

証人=「はい」

石田弁護人=「一回目の捜索、二回目の捜索とも、非常に大勢の捜索員を同行されて、いわば、徹底的な捜索をされたということがあるようなんですがね、捜索状況をよく覚えておられるでしょうな」

証人=「今になっては、もう覚えておりませんですね。部分的に印象付けられたことは記憶がありますが、しかし、その状況を申し上げろと言われても、ちょっと記憶が出てきませんですね」

石田弁護人=「部分的に何か記憶があるということはどういうことですか」

証人=「というのは、一回目にですね、石川方居宅付近に、たくさんの報道陣、家族、部落の者がいっぱい押しかけていたということですね。それから二回目には、今言ったように、そのときは家族か誰かさんか、ちょっと記憶がありませんが、悪口を言われたのを断片的に記憶がありますですね。それから、私は犬が嫌いなんで、犬がいたのを覚えているんですがね。あとは家屋の中の捜索などもちょっと細かくは今、記憶がございませんですがね」

石田弁護人=「二回目の捜索のときね、連れて行った警察官は何人ですか」

証人=「十人以下でしょうね、せいぜい。私の方は四十人きりいないんだから、まあせいぜい十人行って、そのほかに特命か何かがあれば十人が欠けるし、いずれにしても十人前後だと思いますね」

石田弁護人=「もっと大勢だったという記憶はありませんか」

証人=「これはですね、関係のない人がいたんですよね」

石田弁護人=「どんな人がいたんですか」

証人=「まあ、家族の人はもちろんだが、外部に報道陣はおったし、それから、わめき立っている、そんな風なのが思い出せるし、二回目とすると・・・・・・」

石田弁護人=「二回目について言っているんですがね」

証人=「二回目とすると、あれは逮捕の切り換えのときだったでしょうかね。そうですね、逮捕の切り換えのときの捜索でしょうか。だとすると、ほかの近所の人か家族か分かりませんが、たくさんいたということで、部屋を捜索している捜査員のほかに、たくさんの人が目についた、そんなのが記憶にあります」

石田弁護人=「排除されたんじゃないですか。そういう邪魔者は排除されたんではありませんか」

証人=「立会人も一人だけじゃなくて、家族もおったように記憶しますがね」

石田弁護人=「家族以外の人もいたんですか」

証人=「外には見えていたようだったですね」

(続く)

捜索差押調書添付写真(昭和三十八年六月十八日、小島朝政作成)。被疑者石川一雄方居宅周辺の状況を東南方より撮影。

捜索差押許可状を被疑者の父、石川富造に示した状況。

居宅東南側の状況近写。

 

狭山の黒い闇に触れる 934

【公判調書2943丁〜】                    

                     「第五十五回公判調書(供述)」

証人=小島朝政(五十六歳・財団法人埼玉県交通安全協会事務局長)

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石田弁護人=「それではあなたは午前中に、いろいろな特命事項を受けてそういう仕事もやったと、被告方の捜索もそうだし、ほかの細かい特命を仰せつかったこともあるという趣旨の証言をなさってますがね」

証人=「この事件の中にですか」

石田弁護人=「ええ。この事件の中で、今朝あなたが言ったことの中でね、特命事項を受けて被告方の捜索をしたこともあり、ほかの細かい特命も仰せつかったことがあるという趣旨のことを言われましたがね」

証人=「はい」

石田弁護人=「その細かい特命を仰せつかったというのはどんな特命ですか」

証人=「これは取り上げる程のものはないんですが、今、記憶に残っているのはそうですね、あれ、なに玄二と言いましたか」

石田弁護人=「奥富玄二ですか」

証人=「奥富玄二がですね、自殺したという時に行って、家を見、死体を見たということ、あとはですね、記憶に残っている細かいと言えば、もうないですね。その都度細かい仕事なんでですね」

石田弁護人=「その都度いろいろ言われ、特命を仰せつかったりしているということですね」

証人=「はい」

石田弁護人=「その今、あなたから話が出た奥富玄二さんの自殺に関連することで、あなたが、自殺者宅に行ったというんですが、その時はお一人で行かれたんですか」

証人=「いや、これはね、誰ですかね、長谷部さんなどが行って実際にはやってたと思いますね」

石田弁護人=「長谷部さんと同行されたということになりますか、別々に行ったんですか、奥富さん宅に」

証人=「そうですね、一緒に行きましたね」

石田弁護人=「死体を見たわけですね、まず」

証人=「はい」

石田弁護人=「何か、井戸とかそういうところは見ませんでしたか」

証人=「井戸は私は遠くで見たんですが、もうすでに私が行った時は出ちゃっていて」

石田弁護人=「何ですか」

証人=「私が行った時には死体があがっておったんで、あまり記憶がないんですがね。それで、私は死体を見ただけ程度で、まあ何もしないで帰って来ちゃったんですがね」

石田弁護人=「どれくらい居ましたか、奥富さんのお宅に」

証人=「それでも一時間くらいおりましたかね」

石田弁護人=「帰る時は長谷部さんよりひと足お先に帰って来たわけですか」

証人=「ええ、もちろん。私のやる仕事でもないしするので、ちょっと見てくる程度で」

石田弁護人=「死体を見る役割の人は長谷部さんなんですね」

証人=「そうです」

石田弁護人=「あなたはどういう役割で奥富さんのお宅へは行ったわけですか」

証人=「私は実は法医学研修をちょっと受けて、慶応の法医学教室に派遣されて研究したこともあったんで、それで、どうかと思って死体をちょっと見に行ったんですが、当時まだ、長谷部さんが検視官でおったんで、別に補助という意味でなくて、私はちょっと首を出したんですがね」

石田弁護人=「要するに、善枝さん事件と関連があるだろうということで行かれたわけですか」

証人=「いや、そういう深いことは私は無関係で、自他殺の判別の自分の研究にもなるし、するからと思ってちょっと覗いたんですがね」

石田弁護人=「将田警視から行くように命令されて行かれたんでしょう」

証人=「そうではないんです。捜査員がまだ、あの頃は被疑者も逮捕にならない頃だったと思いますがね、早い頃なんで。捜査員を出したあとの資料の整理なども少なかったので、その話を耳にしたのでちょっと行ったという風に、そのことは今申し上げましたが、捜査ということでなくそんなことが記憶に残っておるということに過ぎないんですが」

石田弁護人=「奥富玄二さんのお宅に一時間くらい居て、あなた一人最初に早く立ち去ったわけですか」

証人=「そうです」

石田弁護人=「狭山署へ行かれたわけですか」

証人=「いや、捜査本部に帰ってきたわけです」

石田弁護人=「堀兼の方ですか」

証人=「はい」

石田弁護人=「奥富玄二の死体の状況について同僚なり、上司なりに概略話しましたか」

証人=「そういうことは話しません」

石田弁護人=「話をしても不自然ではないんですがね」

証人=「私はただ、かつてそうした法医学研修をしたことがあるということなんで、経験も浅いしするので、この水死の場合の所見で、水死の場合の窒息死ということを勉強するということで行ったので、そのことだけで他意のない問題なんでございます」

石田弁護人=「帰るときは歩かれて帰ったんですか」

証人=「もちろん、自転車でございます」

石田弁護人=「行くときも自転車」

証人=「はい」

石田弁護人=「長谷部さんも自転車で行ったんですか」

証人=「それは何で行ったか、長谷部さんは正式というか、上司から命令があって処理した仕事でしょうから、これはいろいろな関係で捜査もし、あれしたんだと思いますがね」

石田弁護人=「そうすると、行くについては、一つの乗り物で行ったんでなくて、別々に行ったということですか」

証人=「はい」

(続く)

狭山の黒い闇に触れる 933

【公判調書2941丁〜】

                    「第五十五回公判調書(供述)」

証人=小島朝政(五十六歳・財団法人埼玉県交通安全協会事務局長)

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石田弁護人=「小川松五郎さんの家にも、時計が発見される前後を問いませんが、行かれたことはないですか」

証人=「行きました」

石田弁護人=「何回くらい行きましたか」

証人=「一回でしょうか、一回くらいと思いますね」

石田弁護人=「それは小川松五郎さんがあなたが行った際はおられましたか」

証人=「これは誰か捜査員が発見の状況を調書に取ってるのを私が回って行って、見たように記憶してますが」

石田弁護人=「小川松五郎さんの自宅で捜査員が調書を取っておられたわけですね」

証人=「そうですね、調書を取っているときでもあると思うんですが、何か、とにかくその時計が発見されたときですね、行ったのは」

石田弁護人=「その小川松五郎さんの家には、やはり年寄りのお婆さんがいませんでしたか」

証人=「お婆さんがいたかどうか、記憶はございませんですが、まあ、みすぼらしい家の、一部屋かの小さい家にお爺さんがいて、手まね、足まねで、当時の状況を私に説明してくれたのを記憶しておりますが、お婆さんのことについては今、ちょっと分かりませんですが」

石田弁護人=「小川さんの家に訪ねて行かれた際に湯茶などは出してもらいましたか」

証人=「いや、私はこの一部屋の家でもちろん縁先も玄関もない家だったもので、戸の空いているところかなんかで、ちょっと腰を下ろした程度だったんで、お茶などを召し上がったことはございませんですが」

石田弁護人=「小川松五郎さんなど、あるいは、もし他の人がおったなら、他の人でもいいんですが、小川さんの家で雑談をされた記憶はありませんか」

証人=「私以外の人でですか」

石田弁護人=「あなた」

証人=「私がしたことは、その・・・・・・」

石田弁護人=「いや、要するに、あなたが赴かれた目的そのものの事項ではなくてね、世間話とか、まあそういう話をされたことはありませんか」

証人=「ございませんです」

石田弁護人=「あなたが行かれた際には他の捜査員はそういう世間話などはなさっておりませんですか」

証人=「何か、私は手帳に書いていたか、調書を書いていたのか、ちょっと今、判然としませんが、誰かが行っておったと記憶しておりますが、それは発見して物(ブツ)の処置が終わったあとでございますね」

石田弁護人=「それはあなたの部下の警察官だったですか」

証人=「ええ、そうです」

石田弁護人=「石原係長、あるいは石原係長の部下の人達ということでも表現できる人ですね」

証人=「さあ、それが誰であったかというのはですね、すでに時計の捜索は終わっちゃっておったんで、通報を受けた駐在所の人か、あるいはそれ以外の、近くにいたか、何かの捜査員か、誰だったか、ちょっと覚えておりません」

石田弁護人=「相当長い時間いましたか」

証人=「私はちょっと顔を出しただけでございます」

石田弁護人=「そのメモを書かれているとかいう警察官よりも早くあなたは小川宅を去ったわけですか」

証人=「ええ、私はちょっと寄ったように記憶します。本当に僅かに、家がおぼろげに思い出す、今、何を語ったかも全く記憶がありませんが、ちょっと覗いた記憶がある程度でございます」

石田弁護人=「ちょっとと言われても、いろいろあるんですがね、時分で表現するとどれくらいのように思いますか」

証人=「せいぜい五分か十分くらいだったでしょうかね」

石田弁護人=「そのメモを取っておられる警察官はあなたが行かれるより早く、すでにそこに着いて、一定のメモを取るなどの仕事をなさっていたわけですね」

証人=「そうですね、調書じゃなくてメモだか、調書か、とにかくその小川老人と話しておったところに私がちょっと行ったのを記憶しております」

石田弁護人=「あなたはその小川老人のお宅へは誰かと一緒に行ったわけですか、自分お一人で行かれたわけですか」

証人=「あの現場とどのくらい距離があるかと思ったところが、あそこの家だということで、それで現場の実況見分が終わって、証拠物を押さえてそれからちょこっと寄って、どんなような家の方かと思って寄ったところが、捜査員の誰かさんがおったということを記憶してますがね」

石田弁護人=「それは大体時間で言うと何時頃の出来事でしょうか」

証人=「それはですね、午後、捜索があそこの現場の時計の押収をして、それで後始末をして、それからちょこっと寄ったと、そんな風に思ってますね」

石田弁護人=「だから、午後、大体おおよそ何時頃ということですか」

証人=「ちょっと分かりませんが、記録で、現場の時計の捜索、領置が終わった間もない時間だと思います。ですから、あるいは小川老人の捜査員がどこかへ行って調書を取るんで同道する意味で立ち寄っていたのかどうか、その点などもちょっと私、今のところはっきり記憶がございませんですが」

石田弁護人=「あなたのお話を総合すれば、その日にちは、時計が発見され、時計の実況見分をした日であることには間違いないわけですね」

証人=「そうです」

石田弁護人=「それ以後、小川さんのお宅へ行った経験はございませんか」

証人=「もう、それ前後は行ったことはございません」

(続く)

                                            *

証人=小島朝政の証言にある、縁先も玄関もない一部屋のみすぼらしい家、 これはすなわち小川松五郎宅を指すが、戸の開いているところに腰を下ろす、いや、そこに座らざるを得ないほど物理的に突き詰められた家屋とはいかなる様相を呈しているのか、想像しただけで興奮する老生であるが、その理由は、つげ義春の作品に起因する。

氏の作品にはこのような侘しく、鄙びた、しかしどこか懐かしい小屋、家屋が描かれており、それは絶妙な味を持つ描写となっている。

おお、これなども素晴らしい絵だ。

昭和三十年代風な、つげ義春的な感覚で本件での腕時計発見者=小川松五郎さん宅を夢想すると、大体このような(写真右側)居宅ではなかったかと個人的に推定出来たが・・・・・・。

引用した画像は三点とも、つげ義春作品より。

 

狭山の黒い闇に触れる 932

桜が満開を迎え、待望の春へ突入しつつある。それではと、川越市某所に住む野良猫へ挨拶に出かけ、ついでに餌を献上し、老生の金運上昇を祈願した。果たして、この野良猫は招き猫としての能力を発揮してくれるかどうか。

【公判調書2939丁〜】

                    「第五十五回公判調書(供述)」

証人=小島朝政(五十六歳・財団法人埼玉県交通安全協会事務局長)

                                            *

石田弁護人=「何かね、あなたの部下の警察官がね、近くの民家から鍬なぞを借りて茶畑なんかの中も捜索したという証言しているあなたの部下だった人もいるんですけれども、そういうことは聞いておりますね」

証人=「今、記憶ございません」

石田弁護人=「当時は聞いたと思いますか」

証人=「それは、今ここで問われても、ちょっと思い出しません」

石田弁護人=「民家からね、捜す道具を借りてね、茶畑なぞも捜したと、そういうことも記憶がないですか」

証人=「ございませんです」

石田弁護人=「もし、民家から茶畑を捜すために有用な道具などを借りて捜しておったということが、これはあなたの部下が証言しておるんですから間違いないことだと私は思うんですがね、そう簡単に、その手を抜いた形で捜索がなされたとも考え難いんですけれどもね。そういう事実からすると、報告はやはり、こまめに徴しておったんじゃないですか」

証人=「当時は聞いておったと思いますが、今は記憶がございません」

石田弁護人=「それでね、あなたの今朝ほど来の証言の中身からいくと、要するに自分の、たとえば石原係長も、道の真ん中に捨てたってまあ多分ないだろうというような感じで、まあ捜して見ろと自分が命じて、部下が最初その付近を捜したんだけれども、結局見つからなかったので、それで近所の家からいろいろ聞込みをやるようにしたと、こういう趣旨のことを言われましたね」

証人=「はい」

石田弁護人=「だから警察官の捜索が、近所の聞込みよりは先の段階でなされておるわけですね」

証人=「そうですね」

石田弁護人=「先ほど、橋本弁護人が時計が発見された実況見分調書の写真を示してビニールの袋について質問しましたね」

証人=「はい」

石田弁護人=「時計が発見された日に押収して署に持ち帰るには、発見された時計を裸で持ち帰りましたか、それとも、何かに包んで持ち帰りましたか」

証人=「これはやはりですね、鑑識で設備利用しているところのビニールの袋へ納めて、原形を失わないような方法で持って行ったと、そんな風に思いますが」

石田弁護人=「その鑑識で使用するビニールの袋というのと、時計発見現場に、時計の直ぐそばに置かれてあったビニールの袋というのは、ほぼ同じくらいの大きさでしたね」

証人=「警察の証拠品を入れるものはそういう風な大きいものではないんです。もちろん品物にもよりますが、時計を入れて持ち帰ったものは、そういう大きなものではないように記憶しております」

石田弁護人=「警察で使う証拠品を入れたりするために当時使っていたビニールの袋というのは、大きさが何種類かの袋が用意されていたわけですね」

証人=「そうですね、大小さまざまなものがあると思いますが」

石田弁護人=「時計の近くで発見されたビニールの袋を領置されなかったということですが」

証人=「時計の近くで発見・・・・・・」

石田弁護人=「いやいや、時計が発見された近くで同じく発見されたビニールの黒い袋ですね、ほこりが付いていたという」

証人=「はい」

石田弁護人=「そのビニール袋を領置しなかったというのは、あなたの権限で領置されなかったわけですか」

証人=「そうでございます。私は当時、必要だということを感じなかったので、領置致しませんでした」

石田弁護人=「将田警視は時計発見現場には見えなかったですか」

証人=「来たでしょうね、来たと思いますね」

石田弁護人=「あなた、現場でね、そのビニール袋を領置するかしないかということでね、上司と相談した記憶はないわけですか」

証人=「ちょっと、そこまでになると覚えておりませんですが」

石田弁護人=「決めたのは自分で決めたような記憶があるわけですね」

証人=「そんなように思いますが」

石田弁護人=「領置しなかった理由については、時計とは、発見された時計とは関係がないと考えたからですか」

証人=「はい、そうです」

石田弁護人=「何か、関係がないとあなたが判断される根拠がありましたか」

証人=「別にございませんが、どうもそのビニールの袋というのは非常に、もう汚れた、何か菓子袋に使用されたか、何か物入れに使った、相当古びて汚れたものであるので、これはもう全然無関係のものだと思って、敢えてビニール袋は領置しなかったんですがね」

石田弁護人=「要するに、領置の必要を感じなかったということですね」

証人=「はい」

(続く)

                                            *

○発見された腕時計の近くには古びて汚れたビニール袋があった。腕時計とは関連性がないだろうとの判断から、このビニール袋は領置されなかったという。

だが、もし何者かが、何らかの意図を持ってこの茶垣に腕時計を置いたのではないかと推察した場合、このビニール袋は重大な意味を含むことになる。それとは腕時計を置きに来た人物自身の指紋の付着を避けるため腕時計をビニール袋に入れ運び、この発見場所に両方とも放ったとしたならば、上述の発見状況の説明がついてしまうからである。袋の外側には指紋が付着する以上、領置しては不都合を生むビニール袋の存在は無視され、腕時計を置きに来た人物の目的は果たされたことになろう。

冒頭の写真を撮った直後、野良猫は右手を舐め出した。おお、これは招き猫と化す前の儀式ではないか・・・先日購入したロト7に期待は高まるのであった。

 

狭山の黒い闇に触れる 931

時計を発見した小川松五郎さん。

【公判調書2936丁〜】

                   「第五十五回公判調書(供述)」

証人=小島朝政(五十六歳・財団法人埼玉県交通安全協会事務局長)

                                            *

石田弁護人=「あなたは小川松五郎さんという方が時計の発見された現場付近に住んでいるということはご存じでしたね」

証人=「はい。それは先ほども申し上げましたように、小川松五郎という人が時計を発見された時に、かつて、手拭いの捜査の時にあった記録か、この部落の名簿ですね、あの辺の一連の名簿を見たときの思い出で、小松松五郎(原文ママ)という者がおったということを覚えておりました」

石田弁護人=「手拭いの捜索の際に、あの付近の住民の名簿をご覧になったということですね」

証人=「そうですね。名簿というと大袈裟になりますが、何か、捜査員のメモか、あそこの町の者の名前が、一連の名簿と言えば名簿でしょうね。それで記憶があるように思いますが」

石田弁護人=「そのいわば名簿というようなものですね、あなたがご覧になったものは図面のようになっていて、その図面にそれぞれの住んでいる人の名前が、いわば、地図のように、そういうような形で作られていたものでしょうか」

証人=「ではないんです。番地と氏名がある程度のものだったと思いますね」

石田弁護人=「それは交番でご覧になったんですか」

証人=「何ですか」

石田弁護人=「火の見櫓のある交番、派出所でご覧になったんですか」

証人=「ではないんです。これは横道に逸れますが、手拭いの捜査の時に五十子米屋の手拭いが頒布されているので、地理的にずっとあの辺、一つの町内の者の住居が書いてありましたですがね、そんなことで覚えているんですがね」

石田弁護人=「それ、ご覧になったのはどこですか、場所は」

証人=「これは捜査本部で、捜査員が手拭いの捜査で、ここで発見されたと、ここではわからないというようなことで書面報告されたもので見たんです」

石田弁護人=「何か、地図のようなものではなかったかと思われるんですが、そういうようなものはご覧になっていないんですか」

証人=「仮にあったとすれば、その場の報告の説明に使用したその程度のものであって、はっきりしたものはないと思いますね」

石田弁護人=「時計が小川松五郎さんという人によって発見されたという連絡を受けて、ああ、これは五十子米屋の手拭い関係を調査したときに名前が載っていた人だなということは分かりましたね」

証人=「発見された時ですね」

石田弁護人=「うん」

証人=「はい」

石田弁護人=「その小川さんが年寄りであるということも分かりましたね」

証人=「いや、年寄りであるということはですね、私が現場へ行ったときはもう、そこへ来ておったのです。それで、ずいぶん年寄りの方が見つけたんだなということで、その小川老人をそのとき初めて見たんですがね」

石田弁護人=「小川老人によって時計が発見される以前に近所の聞込みを石原安儀さん以下、いわば、あなたの部下にあたる人達が聞込みに従事しましたね」

証人=「はい」

石田弁護人=「その聞込みに従事した中に、小川松五郎さん宅も含まれていましたね」

証人=「さあ、それはちょっと記憶がないんですがね。繰り返しになりますが、捜査員がですね、当時の一回目の自供で、道の真ん中に時計が捨ててあるかという、今ごろ捜索に行ったって、無いに決まっているじゃないかという常識的な判断で、捜査員が見つけなかった。したがって捜査員もその付近を簡単に見て、そのほかに、その後、付近の聞込み捜査をやったにしても、当時、一回目と思うんですが、初めて私に入った石川被告の自供ですから、何、今まであれだけ嘘を言った被告が今もって何で、このような自供をして、で、そんな道の真ん中に捨てたというのは、これは嘘だということは私自身ですね、今、本当にこう考えてみてですね、道の真ん中に捨てたなんて言うの、今、捜索したって、すでにもう事件後数ヶ月経っており、ありっこないということは私自身そう思ったです。仮に聞込みをしても、その辺に、仮に時計を拾った人があったとしても、これは私が拾いましたと言って、今名乗り出る人はないだろうと私は考えてみました。これは考えですが、今も当時と同じく、そう思っております」

石田弁護人=「そういうことを聞いているんではなくてね、私の聞いているのは、あなたの部下の警察官が捜したんだけれども、見つからなかったので、近所の聞込みをしたと言われましたね」

証人=「ええ」

石田弁護人=「その近所の聞込みをした中に小川松五郎さんのお宅も入っていたんでしょうと聞いているんです」

証人=「これは確認はしておりませんが、付近を聞込みしたけれども、ないということだけで、小川方を聞込みしたかどうかということは私は分かりませんです」

石田弁護人=「その部下の聞込みの報告は書類でなされたんですか、口頭でなされたんですか、あなたに対して」

証人=「これはですね、口頭で、私達はこの辺を捜索しました、私達はこの辺を聞込みしましたということを口頭で報告を受けて、そしてその報告を受けた後で報告書がなされたと思います。もちろんその日ですがね」

石田弁護人=「聞込みをした家は特定されて報告されたわけでしょう」

証人=「いや」

石田弁護人=「ここの家とここの家とここの家は聞込みしたと」

証人=「いや、ないんです」

石田弁護人=「そういう報告をされなかったんですか」

証人=「はい。私自身ですね、繰り返し申し上げますが、当時はあそこに時計はもうないものだという風に考えておったですからね、まあ、今考えてみれば杜撰な捜査かも知れませんけれども、どこの家、何某方を誰に会って、誰々に会ってというようなことで聞いたけれども見つからなかったという、そういう細かい報告を聞いておらないように今、思いますが」

石田弁護人=「まあ、細かさがどこまで細かいかは別として、警察の捜査としてはね、どこで聞いたかも分からないようなことを聞込まれたんではね、あなたとしては困るんじゃないですか。こういう家の、たとえば、おばあさんから聞いたとか、お嫁さんから聞いたとか、おじいさんから聞いたとかね、それくらいのあれは当然報告を受けるんじゃないですか」

証人=「もちろん大雑把には当時聞いたと思いますが、私自身ですね、もう、あんなところに時計はないんだと、これはもちろん上司にも言えないし、他にも、部下にも口には言わなかったけれども、道の真ん中に捨てた時計はないんだという先入観があったために私は捜査が杜撰だったということを今、思ってます。したがって、何某方の誰々妻女に聞いたけれども、見たことも聞いたこともないというような、そういう報告は今、ちょっと記憶に残っておりませんですが」

(続く)