アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1152

【公判調書3569丁〜】(昭和四十七年八月)

証人=鈴木 将(診療所経営)

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山上弁護人=「先生が中田さんのうちに着かれて、まあすぐ死体を見たということになりますと、その時の死体の状況はまだ生暖かいと言いますか、もう冷え切って硬くなる、硬直状態と言いますか、その程度は」

証人=「私はいくつも死体を見てるからもう忘れてるけれども、硬直があったと思います」

山上弁護人=「これは死後何時間くらいして、まあ、普通これは科学的には厳密にはなかなか難しいということを聞いておりますが、通常、硬直というのは死後」

証人=「さあ、私も法医じゃないから、その辺は詳しくは分からないですね、知らないと言ったほうが正しいですね」

山上弁護人=「とにかく硬直がきておったように思うと」

証人=「ええ、そうですね」

山上弁護人=「で、布団が敷かれてあって、すでに普通の人が寝るような形で安置されていた、こういうことになりますか」

証人=「そうですね」

山上弁護人=「それで先生が非常に奇妙だということで何か箪笥や、いろんな所を先生ご自身が遺書はないかというようなことでお捜しになったようなことはあるんでしょうか」

証人=「見る限りは医者としては見るものだね、だけどもその辺にはなかったね」 

山上弁護人=「ということは、いろいろ箪笥をちょっと開けて見るなり、あるいは布団の下を見るなりということがあったということでしょうか」

証人=「ざっとですね、それは箪笥の奥まで見たわけじゃないしね」

山上弁護人=「ざっとは見られたわけですか」

証人=「枕の下とかね」

山上弁護人=「そして家族の方にはもちろん遺書はあるかないかというようなことはお尋ねになったでしょうね」

証人=「ええ、聞いたと思いますね、当然聞いたでしょう」

山上弁護人=「で、遺書がないということの説明だったんですか」

証人=「いや、何でそうなったかということは分からないですね。遺書がないんだから当たり前でしょう、うちの人がなぜそういう風になったのか知らないというんじゃね」

山上弁護人=「先生のご記憶では遺書はついになかったというご記憶ですか」

証人=「私はなかったように覚えてるんですけどね、でも、もうはっきりしないですね。後で出たかどうかは私はあまり警察と連絡しませんからね」

山上弁護人=「これはこの登美恵さんの件について二回行かれたということがありますか、一回通知がありまして、先生が死体検案のために行かれて、それから二度目に警察の人と再び先生がそこに行かれたということは」

証人=「行ったでしょう、多分まあ発見者として行くべきだったでしょうね。きっと帰ったあと警察の人が来て行ったと思いますね」

山上弁護人=「家族の方の中の一部のご証言によりますと、先生が駐在所に届け出たという風に言っておられる方もおるようなんですが、これはどうでしょう」

証人=「そうでしょうね」

山上弁護人=「そうしますと、変死の疑いありという立場で行かれたわけですね」

証人=「ええ。届け出ますともちろんだから偶然私がずっと見てる患者が死んだんならそのまま診断書を書きますが、仏を見た場合、いずれにしても変死と見るわけです。だからいずれにしても届け出なければいけないでしょう」

山上弁護人=「奥富玄二さんの場合は先生が駐在所へ届け出られたんですか」

証人=「それは誰が届けたか、それは分かんないな。何か途中からパトカーが来ましたよね。玄二さんの場合、誰か届けたんでしょう、もちろんああいう時だから」

山上弁護人=「で、また登美恵さんの場合に戻りますが、いかにもきちんと整理されすぎておったと、こういう風なご証言ですが、そういう印象を受けられましたか」

証人=「はい」

山上弁護人=「先生と、どういうことでこの登美恵さんはこういうことになったのかという風な話をなされた相手は主にどなたでしょうか」

証人=「健治さんですね」

山上弁護人=「この方が非常にまあ冷静と言いますか、先生が奇異な感じを持たれるほどに落ち着いておられたと、こういう風に受け取ったということですか、証人は」

証人=「でも、よく考えますと、性格的なものがあって、たまたま私がその当時見た状況であって、そういう人なのかも知れない。私がこういう風に喋っていると図々しく見えるかも知れない。それぞれの形があるかも知れない。だからそれが普通なのかも知れない。だからそれは私からすれば奇異に見えたかも知れないけれどもそれが普通であったかも分からないね、そうでしょう」

山上弁護人=「そういたしますと、証人の死体を検案した際の死因は、どういうことなんでしょうか」

証人=「これはね、死亡診断書を調べませんでしたか」

山上弁護人=「ええ、調べていないんですがね」

証人=「私もちょっとカルテが廃棄になってるんですけれども、たぶん自殺で農薬中毒か何かだと思いますね」

山上弁護人=「で、自殺の死因と言いますのは、窒息死とか」

証人=「窒息死じゃないね」

山上弁護人=「農薬という点についてはどうでしょう」

証人=「疑いがありますね」

山上弁護人=「これは奥富玄二さんなんかの場合と同じ程度の確実性のあった疑いですか」

証人=「いや、そんなにないです。玄二さんなんかは毒物性であるが、あの人の場合は分かんないですよ」

山上弁護人=「登美恵さんの場合は」

証人=「ええ、だから私のほうは警察のほうへお聞きしたと思いますよ」

山上弁護人=「どういうことで亡くなったかということを警察のほうへむしろ聞いた」

証人=「ええ。だけど私はそこまで関することはない、また警察のほうは私のほうへばらすことはないですよね」

(続く)