アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1070

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

【公判調書3333丁〜】

「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日

証人=中田健治(三十四歳・農業)

                                            *

山上弁護人=「それからこの登美恵さんの遺書はあったんですか」

証人=「ええ、警察の方にも見てもらいましたが、布団の下にあったと思います」

山上弁護人=「お医者さんに見せましたか」

証人=「・・・・・・多分見ていると思います。一緒にその場に立会っていただきましたから」

山上弁護人=「遺書は封筒か何かに入っておったんですか」

証人=「ノート・・・・・・・・・」

山上弁護人=「大学ノートですか」

証人=「はい、そのような記憶であります」

山上弁護人=「大学ノートをちぎって横書きに書いてあったんですか」

証人=「さあ、そこまで記憶ないですが」

山上弁護人=「何て書いてありましたか」

証人=「文そのものは記憶ないですが、迷惑かけてすまないとかいうことだったと思います」

山上弁護人=「初雄さん、お幸せに、とか何とかそんなことは」

証人=「あ、そんな文章もあったかも知れません」

山上弁護人=「封筒もあるんですか」

証人=「封筒はなかったように思うんですが」

山上弁護人=「大学ノートですか、それは」

証人=「・・・・・・・・・」

山上弁護人=「かねがね登美恵さんが使っていらしたノートですか」

証人=「ええ、日記らしいものも書いていましたから、それと一緒だったというような気もするんですが」

山上弁護人=「この山下初雄さんはお通夜には来られたんですか」

証人=「・・・・・・・・・」

山上弁護人=「これも世間体ということで遠慮してもらったということでもあるんですか」

証人=「遠慮してもらったということより、うちでは仲人さんの考え方次第に持っていくことの方がと自分も思っていたし、父もそのような考え方でした」

山上弁護人=「仲人さんの考え方に従うと」

証人=「そうです。それで夜遅くまで仲人さんが来られていろいろ父と話しているようでした」

山上弁護人=「初雄さんのことについて」

証人=「そうです。それと籍が入っていることと、まあ、うちで生まれてうちで亡くなったんだし、うちの人なのだから、じゃ、うちで葬式をしようということで」

山上弁護人=「私が聞いているのはお通夜に初雄さんが出席しているかどうかということを聞いているんですがね」

証人=「記憶ありません」

山上弁護人=「お葬式はどうでした」

証人=「お葬式は・・・・・・・・・来られたと思います」

山上弁護人=「お葬式には来た」

証人=「・・・・・・・・・」

山上弁護人=「どうですか」

証人=「・・・・・・・・・」

山上弁護人=「覚えてない」

証人=「ええ、葬式をするほうが主体で、そこまで記憶しておりません」

山上弁護人=「登美恵さんをこの日最後に見たのはどういう機会ですか」

証人=「朝食を一緒にしてお茶碗などを洗っているのが最後です。後片付けの」

山上弁護人=「そうしますとだいたい八時」

証人=「だいたい七時頃です」

山上弁護人=「そしてあなたはすぐお仕事に出かけられた」

証人=「ええ、そうだと記憶しています」

山上弁護人=「喜代治さんは何をしていたんですか」

証人=「喜代治はその前日、二日か三日間、奥日光だか妙義山だかに登山に行って、朝帰って来て、その時にうちで休んでいました」

山上弁護人=「亡くなられた日は、朝帰って来ておうちで休まれておった」

証人=「はい」

山上弁護人=「喜代治さんがどういう機会に登美恵さんを発見したかということをあなたは喜代治さんに確かめましたか」

証人=「登美恵がだいたいあの当時はうちの小銭のほうは預かっていたものですから、そういったことでの清算か何かのことで声をかけたら返事がないから行って見たら、それで発見したということです」

山上弁護人=「行って見たらどうなっていたんです、布団の中に入っていたのか、倒れていたのか」

証人=「そこまで記憶がないんです」

山上弁護人=「しかし、登美恵さんが急死されたことについて覚えていらっしゃいませんか」

証人=「・・・・・・・・・」

山上弁護人=「喜代治、登美恵はどういう形で倒れておったのかねということを聞くのが普通だと思うんですがね」

証人=「・・・・・・・・・」

山上弁護人=「特別の事件でしょう」

証人=「・・・・・・・・・」

山上弁護人=「本当にないんですか」

証人=「ええ、ほじって聞いたことはありません」

山上弁護人=「当時、何か登美恵さんが首を吊って亡くなられたという噂が出たことはご存じですか」

証人=「いえ、知りません」

山上弁護人=「あなたは原因は思い当たらんと仰いましたね」

証人=「はい」

山上弁護人=「自殺にしたところでなぜ自殺したか分からんと」

証人=「はい」

山上弁護人=「本当に分かりませんか、ずっと一緒にご生活なさっていらしたんでしょう」

証人=「はい」

山上弁護人=「分からん」

証人=「ええ、分かりません」

山上弁護人=「それから、当時中田さんというおうちは四、五軒あったんですか」

証人=「ええ。十軒くらいあると思います」

山上弁護人=「中田さんの家の前に道がありますね」

証人=「はい」

山上弁護人=「だいたい東西に走っているいるんですか、あの道は」

証人=「そうです」

山上弁護人=「で、あなたの家を中心に東、西にそれぞれ四、五軒あると、こういうことですか」

証人=「そうです」

山上弁護人=「そうすると、まあ事情に詳しくない人が中田栄作さんを訪ねるという時ですね、中田という姓はたくさんあるわけですね」

証人=「はい」

山上弁護人=「お宅は表札は出していますか」

証人=「あの当時は出していませんでした」

山上弁護人=「まあ中田栄作さんのおうちはどこですかと尋ねて、表札を出していない中田さんがたくさんあるというような状況ですか」

証人=「そうです。あの当時はまだ郵便屋のほうでもあまりそういったことも勧めておりませんでしたし」

山上弁護人=「郵便屋も分かりにくい程度ですね、中田栄作さんがどこかということはね」

証人=「そうです。ましてうちと西隣の吉田太郎さんという家は特に間違いやすいです」

山上弁護人=「犯人があなたのうちがすぐ分かったというんでおかしいと思ったんで聞いたんですが、郵便が間違って入るくらいですか」

証人=「中田健治宛の封書や葉書などが間違って行くことがあります。中田栄作は間違って行くことはないです」

(続く)