【公判調書2968丁〜】
「第五十六回公判調書(供述)
証人=市村美智子(旧姓 石川)
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山上弁護人=「美智子さんのお父さんは、こわいか、厳格というか、子供にしつけがやかましいか」
証人=「はい、やかましいほうです」
山上弁護人=「当時お兄さんの一雄くんは、これも覚えていないならいいですが、五月一日の前後、どういう所へ働きに行っておったか、知ってますか」
証人=「いえ、覚えていません」
山上弁護人=「お父さんは、六造さんにしても一雄さんにしてもだけど、仕事をさぼってなまけることに対して、非常に厳格なんですか」
証人=「ええ」
山上弁護人=「それで怒るのを見たことある」
証人=「ええ、あります」
山上弁護人=「頭からどやしつけるわけ」
証人=「そうです」
山上弁護人=「すると一雄あんちゃんもやられとったわけだな」
証人=「はい」
山上弁護人=「仕事をさぼると」
証人=「はい」
山上弁護人=「それから、今の"りぼんちゃん"だけど、これは"りぼんちゃん"という本の名前があるのですか、そうじゃないように調べがなっているから確かめるが」
証人=「『りぼん』となっているんです」
山上弁護人=「『りぼん』という本の名前」
証人=「そうです」
山上弁護人=「本の中に、りぼんというテーマで何かあるというんじゃないですか」
証人=「ええ、違います」
山上弁護人=「お兄さんは、仕事に行く時は大抵お弁当か何か持って行くんですか」
証人=「はい、持って行きます」
山上弁護人=「どういうのを」
証人=「アルミの普通のものです」
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佐々木(哲蔵)弁護人=「あなたの話ですと、五月一日の六時から七時頃にお兄さんが帰ったことになるね、大体」
証人=「はい」
佐々木(哲蔵)弁護人=「あまり濡れてなかったということですが、あなたのご記憶で、何か特別に泥んこになって帰って来たと、そういうことだと特に印象に残ると思うが、その一日、あるいは二日の晩帰って来た時に、泥んこになって帰って来たという記憶はありますか」
証人=「記憶ありません」
佐々木(哲蔵)弁護人=「それから、一日は大体十時頃寝たように思うと、二日も大体同じ頃寝たように思うということですが、十時頃寝たとかいうことは時間の点について、よりどころがあるのですか」
証人=「お父さんが十時過ぎるとうるさいから、いつも十時頃みんな寝ます」
佐々木(哲蔵)弁護人=「テレビをやめるのですか、十時頃」
証人=「はい、そうです」
佐々木(哲蔵)弁護人=「お父さんがうるさいんで、それがよりどころで十時頃ということですか」
証人=「はい」
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石田弁護人=「当時、昭和三十八年五月一日頃、一雄くんの履物は、普通どんなものを履いていたか覚えがありますか」
証人=「はっきり記憶ありません」
石田弁護人=「長靴をよく履いていたかどうか。その辺の覚えはどうですか」
証人=「長靴はよく使用するようです」
石田弁護人=「あなたが使われていたノートですね、四、五枚破られていたかどうかという質問がさっきありましたけれども、四、五枚に限らず、その頃破られていたことがありましたか」
証人=「なかったと思います」
石田弁護人=「お兄さんの一雄くんが警察に逮捕されたことをご存じですね」
証人=「はい」
石田弁護人=「その前でもあとでも結構ですが、警察官があなたに事情を聞きに来たことがございませんか。さっきは警察とか検察庁で調べられたかという問いに、調べられていないと言っていましたが、お宅へ、あるいは学校でもいいんだけど、聞きに来たことはありませんか。お巡りさんか、誰か、何か雑誌のことでもノートのことでも、あるいは一雄くんどうしていたかということでもいいんですけどね、あなたが尋ねられたことはありませんか」
証人=「一度、派出所みたいな所に行って調べられました」
石田弁護人=「それは一雄くんが警察に逮捕されてからですか」
証人=「はい、そうです」
石田弁護人=「その時、どんなことを聞かれたか覚えていますか。警察に」
証人=「はっきり覚えていません」
石田弁護人=「細かいあれでなくてもいいんですが、もし思い出したら、こんな点について聞かれたとか、こんな風な形でもし思い出せれば思い出して下さい」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
石田弁護人=「思い出せませんか」
証人=「一日の夜のことを・・・・・・」
石田弁護人=「そのほかは聞かれたかどうか」
証人=「ノートのこととか、そのくらいです」
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裁判所速記官 佐藤治子
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○佐々木(哲蔵)弁護人の質問にある「(石川被告が)五月一日、二日の晩、泥んこになって帰宅したか」という問の趣旨は、下記を見れば理解できよう。
狭山事件再審弁護団は石川被告の自白を再現した実験を行なっている。その中、写真二点は死体を埋める作業の様子であるが、再現実験の日は雨でなかったにも関わらず、実験終了後、作業者を演じた人物の衣服は泥にまみれていた。