【公判調書1626丁〜】ここには、昭和四十五年四月二十一日の日付で、弁護人=橋本紀徳による東京高等裁判所第四刑事部宛の “弁論要旨・「 荒なわ」などの物証の問題点” が記載されている。内容は以下のとおり。
第一 遺留品をめぐる問題
一、手ぬぐい
二、タオル
三、細引
四、荒なわ
五、スコップ
六、ビニール紐と丸京青果の荷札
七、玉石と棍棒
第二 脅迫状をめぐる問題
一、封筒
二、大学ノートとボールペンの出所
三、「少時様」の謎
四、「りぼんちゃん」
五、加入訂正文字の謎
第三 被害品
一、財布
二、三つ折財布
三、筆入
第四 その他の物証
○はじめに
本件には、数多くの物証が提出されているが、これら物証のあるものは出所が不明であり、あるものは使途が不明である。
「物」の「出所」、「物」の「特異な用途・使用方法」などは、ひとり真犯人のみが知り得るところである。捜査官があらかじめ知ることができず、真犯人のみが知ることのできる「物」の「出所・使用方法」が確定的に裏付けることのできる証拠によって証明されることによって、はじめて「物」の「出所・使用方法」に関する自白は信憑性を得ることができる。
ところが本件に提出されている「物証」の「出所・使途」などに関する自白は、以下に述べるとおり、確定的な裏付がなく、いくつかの疑問があり、到底信憑性がない。これはひいては本件自白全体の信憑性をくつがえすものであって、自白を全面的に採用して有罪の判決を云渡した原判決をその根底からくつがえすものである。当裁判所に於けるこれまでの証拠調をもってしても、未だもって以下に述べる物証にかかわる自白の疑問点は解明されていないのである。
*
第一、遺留品をめぐる問題
一、手ぬぐい
(1)死体を後手に縛った手ぬぐいは、自白によると五月一日の朝、被告人が家を出るとき母より手渡され、ズボンの後ポケットに入れておいたものであると云う。
しかし五十子米屋から被告人宅に配布された手ぬぐいは、事件后被告人宅から警察に提出されているので、被告人が自白どおり、五月一日の朝、問題の手ぬぐいを持ち出し、それを使用して善枝さんを後手に縛ったとするのは、被告人宅に五十子米屋から同種の手ぬぐいが二本配布されているとしなければ説明がつかないところである。
ところが当審の滝沢検事の証言から明白なとおり、死体現場にあったのと同種の手ぬぐいは被告人に一本しか配布されていないのであるから、結局手ぬぐいの出所に関する自白は全く裏付けられないと云うことになる。繰り返せば、被告人が持ち出したと称する手ぬぐいは、事件後も厳として被告人宅に存在していることが明らかなのであるから、被告人が五月一日自宅よりこれを持ち出し、死体を後手に縛ったまま現場に置去りにするなどと云うことは到底あり得ないことなのである。
*次回、(2)へ続く。
問題の配布された手拭い。(写真は“無実の獄25年狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社”より引用)