【公判調書1602丁〜】
「現場足跡は偽造された」 植木敬夫
二、足跡採取の怪
(六)、『もっとも、この点についても、二審証人長谷部梅吉は答弁を用意してきた。彼は、第二の足跡について、五月三日の夕方に捜査員を集めて調べたら、「当時そこへ入った者もないし、そのように歩いた者もなし、またそういう地下足袋を履いた者もない」ので、これは犯人のものに間違いないと思った、と供述している。
しかし、足跡が犯人のものである根拠が捜査記録上にはまったく出て来ず、後に捜査の責任者の「言葉」だけで説明されるということ自体、われわれの通常の常識からみて異常なことである。
この証言の内容についてみても、第一、深夜多数の警察官などが慌てふためいて畑の中を飛び廻ったのに、翌日になって「そこ」へ入ったことがないとか、歩いたことがないなどと断言できる者がいるであろうか。また、静寂そのものの深夜に、犯人の来ることがわかっている傍らで張込もうというからには、誰でも、少しでも音の立たない履物を履こうと考えない者はないはずである。そしてここは農村なのであるから、地下足袋はもっとも普及した普通の履物である。そこに張込みに行くのに地下足袋を履いた者が一人もなかったとしたら、むしろ、そのことの方が不思議である。現にこの実況見分調書にも「無数の・・・地下足袋・・・跡が認められ」たと書いてあるではないか。
長谷部の話が、地下足袋を履いて行った者はいたが、現場にあったような「そういう地下足袋を履いた者」はいなかった、という意味なら、これまた尚おかしいことになる。現場の地下足袋跡は、形状等が「明らかでな」かったのであるから、「そういう」ものかどうか判断する基準がないからである。大体、長谷部の右の話は、彼らが三日の午前中に足跡を石膏で採取したというお話が前提になっているのである。そうだとすれば、長谷部等はまだ犯人のものと確認しないうちに石膏をとり、その後で、それが犯人のものだと理由付けたことになる。それも「言葉」だけで。
もちろん、こんな話は信用できるものではない。ここでも長谷部の証言は、はっきりした偽証である』
*次回、(七)へ続く。