アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 483

【公判調書1593丁〜】

「現場足跡は偽造された」                              植木敬夫

はしがき

『この事件の記録をざっと一読すると、われわれはまず、この事件には比較的よく物証が整っている、という印象を受ける。ところが、もうひとつ気を付けて読んでみると、今度はその物証の整い方には、もうひとつすっきりしない、どこかにわざとらしさがあり、どこかに密かに人の手が加えられている、という感じが残る。これはこの事件の大きな特徴の一つである。多少ともこの種の刑事事件の経験を持っているわれわれにとっては、この不審感は決して見過ごすことのできない重大な問題である。なぜなら、それは現れた事件記録の裏に大きな虚偽と作為が隠されていることの微表であるからである。

証拠の収集は、言うまでもなく捜査当局が行なったものであるから、もしも彼等がその過程で不正を行なったとしたら、彼等は十分に注意してその秘密を隠そうと努めるから、それを弁護人が暴き出すことは普通の場合でも容易なことではない。ところが、この事件では一審で被告人が自白を維持していたし、それだけならまだ良いが、弁護人を相手にしない態度を取っていたから、一審での弁護人は右のような不審を効果的に追及してゆくための、もっとも重要な手懸りを失ったままであった。こうして失われた月日は、今日から見るとまことに大きなものであった。

しかし、本件捜査段階での捜査当局の異常とさえ思われる焦り{恐らくそれは、いわゆる「吉展ちゃん事件」で犯人を取逃がしたのに続いて、再びまた本件の犯人を取逃がしてしまったことに対する社会的非難のためと思われるが}や、異常と思われるほどの弁護権行使の妨害、法廷での数多くの偽証などを考えると、右に述べたような証拠の全体的な印象からくる不審は、絶対に見逃すことはできないのであって、われわれはどんなに時間がかかっても、どこまでも追及してゆくつもりである。

そこで、まず手始めにわれわれが本件記録を十分な注意を払ってもう一度読み返してみると、その不審をもたらす実体が、かなりな程度までその正体を覗かせていることを発見することができる。その中で私は、本件では最有力な証拠の一つとしての地位を与えられている足跡について、その隠された秘密を探ってみることとする』

(続く)