【公判調書1435丁〜】証人=遠藤 三(六十七才)・元警察官
裁判長=「その図面を書くときには、同じものを一枚書かせたのですか。何枚も同じものを書かせたのですか」
証人=「どれもこれもというわけではありませんが、中には何枚も書いたのもあるかも知れません。それは上手に出来たとか下手に出来たとかいう様なことで書いたものですから」
裁判長=「書き直したこともあるのですね」
証人=「そういうわけです」
裁判長=「書き直して調書に付けない分はどうしたのですか」
証人=「そういうのは捨ててしまったですな」
裁判長=「同じ図面を書くときは炭酸紙でも入れて書かせたのですか、それとも鉛筆だけで同じものを書かせたのですか」
証人=「炭酸紙を使って書かせたことはありません」
裁判長=「警察官の方で青木にしろ長谷部にしろ、あるいは証人にしろ、図面のメモというものを見せて書かせたことはありませんか」
証人=「ありません」
裁判長=「あるいは、石川が書いた図面を見て、これは違う、ここはこうなっていないのだから書直しをしろという様な意味の指図をしたことはありませんか」
証人=「ありません」
裁判長=「そうすると、図面は石川が考える通りに書いたわけですか」
証人=「極端なことを申し上げると、石川が勝手に書いていったわけです」
裁判長=「書いているのを、どこがどうとかここがこうとかいちいち指図して書かせたということはないのですか」
証人=「ありません」
裁判長=「証人が、あらかじめ書いた図面を石川に渡して、それを写させたということはないのですか」
証人=「ありません」
裁判長=「あるいは、なぞらせたということは」
証人=「ありません」
裁判長=「鉄筆とか石筆とか、あるいは鉛筆などで書くと跡が付くが、そういう跡の付いたものを石川に渡してこの通りに書けといって、石川がその上をなぞって鉛筆で書いた、という様なことはありませんか」
証人=「ありません」
裁判長=「一回もないですか」
証人=「ありません」
裁判長=「青木なり長谷部なりがそういうことをしたことはありませんか」
証人=「私が知っている限りにおいてはそういうことはありません」(続く)
*遠藤証人が発した、「極端なことを申し上げると、石川が勝手に書いていったわけです」との証言は聞き捨てならない。この証言が事実ならば、石川被告人がなぜ勝手に書いたのか、その理由や、そこに至る状況を明らかにせねばなるまい。しかし裁判長はこの証言を追及せず、自身が感じた疑問を解明することに終始している。被告人にとって、鈍感な裁判官がたずさわったことは災難であった、と写真の猫は語る。