狭山の黒い闇に触れる 224
昭和四十二年五月二十日、被告人石川一雄のABO式血液型、MN式血液型及び分泌型、非分泌型の別、これらの鑑定書が提出された。鑑定人となった「東京大学医学部法医学教室教授・上野正吉」は、「直ちに同法廷内において在廷の東京大学医学部法医学教室助教授医師医学博士・山沢吉平をして、被告人の血液及び唾液を採取せしめ、これを東京大学医学部法医学教室に持参し、同日よりこの資料につき慎重なる注意の下に精確なる血液型検査を行い、この結果に基き誠実に本鑑定書を作成」した。私は後学のため、この厳正なる血液型検査の過程をここに書き記すことにした。［検査記録］【検体の採取】①血液の採取は、滅菌・包装された閉鎖式注射器により被告人の左肘静脈より血液約3mlを採取した。②唾液の採取は、滅菌試験管中に自然に流出する唾液約1.5mlを採取した。【検査資料の作製】①血液は凝固を待って血清を分離し、血餅より赤血球を分離し、生理食塩液に浮遊せしめ血清及び赤血球浮遊の二資料を得た。尚、対照としてA型、B型及びO型(M型及びN型)血球浮遊液を別に作製した。②唾液は100度水浴上に10分間加温し資料とした。③以下の検査に使用された抗A、抗B正常血清、抗O(免疫)血清及び抗Lea血清の特異性は充分なる検査によって確認された。【ABO式血液型】①本件血清に対しA及びB血球浮遊液を加えるに、前者に対しては本血清の64倍希釈液まで擬集を示したが、後者に対しては全く反応を示さなかった。またO型血球浮遊液に対しても全く擬集を示さなかった。即ち血清の性状よりみるに本件の血液型はB型と判定される。②本件血球浮遊液に対し抗A及び抗B血清を作用させるに、前者は全く擬集を見ないが後者はつよい擬集を示した。即ち血球の性状よりみるに、本件の血液型はB型と判定される。【分泌型・非分泌型の別】①本件唾液を生理食塩液で倍々法により4096倍希釈まで階段的に希釈したもの3列を用意し、第1列の各試験管には4単位の抗A血清、第2列の各試験管には4単位の抗B血清、第3列の各試験管には4単位の抗O血清を各等量づつ添加し、2時間室温放置後、各列に夫々A型血球浮遊液、B型血球浮遊液及びO型血球浮遊液を加え、その擬集反応の有無及び程度を検するに、第1列については全ての試験管に強い擬集反応を示しだが、第2列については唾液希釈1024倍まで擬集反応の完全及至部分的阻止を見た。尚第3の抗O血清の列では唾液希釈5111倍まで完全及至部分的阻止を見た。従って本件唾液中にB型物資及びO型物資の強い分泌があり、即ち本件被験者の型は分泌型に属すると判定される。②本件血球浮遊液に抗ルイス(Lea)血清を加え、擬集反応を検する蔭性であった。即ち(一)型に属する。即ち血球の性状よりみた型も分泌型に一致する。【MN式血液型】①本件血球浮遊液に対し、抗M及び抗N血清を加えるに両者に共に強い擬集反応を示した。尚、対照として使用されたOM型血球及びON型血球は夫々(それぞれ)抗M及び抗N血清に対してのみ擬集反応を呈し、そのほかの血清に対しては全く反応を示さなかった、従って本件のMN式血液型はMN型に属する。［説明］①ABO式血液型・・・普通の判定方式である血球から検査した結果はB型であり、その裏試験ともいうべき血清から検査した結果も亦(また)B型である。即ち本件被告人のABO式血液型はB型であることは疑いないところである。②分泌型非分泌型の別・・・本件被告人の唾液中には多量のB型及びO型物資が分泌されている。即ちこれによって本件被告人は分泌型に属することが知られるが、この結果は同時に本件被告人がB型に属することを示すもので、前項の結果を裏づけたものである。尚、ルイス(Lea)血清は分泌型血液に対しては陰性反応を示すものであるが、本件の血球も蔭性であり、即ち血球によって検査した結果も上記の唾液によって検査した結果と一致し、本件被告人は分泌型に属することはいよいよ確実とされた。③MN式血液型・・本件被告人の血液型は式に従った検査でMN型と判定され、これは対照試験の結果との比較によって確認された。④以上総括するに、本件被告人の血液型はB MN型で、しかも分泌型であることは確実とされた。［鑑定］前記検査並びに説明の理由に拠り次の如く鑑定する。一、本件被告人の血液型はABO式でB型、MN式でMN型、であり旦分泌型に属する。以上 。本鑑定に要した日数は昭和四十二年五月十六日より同年同月二十日に亘る五日間である。昭和四十二年五月二十日 鑑定人 東京大学教授 医学博士 上野正吉………… ・・・ふぅ。後学のため、などと偉ぶったが、私に残された人生において、これらが役立つ日が来るとは思えない。まぁこの件は良しとし、さて文中に見慣れぬ語句を発見。下の画像がそれである・・・旦分泌型？
