【公判調書2762丁〜】
「第五十二回公判調書(供述)」
証人=関 源三(五十五歳・飯能警察署勤務、警部補)
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宇津弁護人=「それは前のページを見て結構ですが、あなたの取った調書に添付されている図面ですね」
証人=「はい」
宇津弁護人=「今のこの調書は六月二十一日付の調書なんですね」
証人=「はい」
宇津弁護人=「あなたは土地に詳しいということも言われましたね」
証人=「はい」
宇津弁護人=「その図面を書かした当時はその図面がどこを表わしたものであるのかということはあなたは理解した上でそれを調書に綴り込んだということになりますか」
証人=「大体、山の道や何かから言って見当はつきましたです」
宇津弁護人=「そうすると、何も説明のない⬜︎やらⓍやらいろんな符号があるけれども、あなたとしてはこれは何であるとかこの⬜︎は鞄を捨てた場所であるとかⓍは何であるとか説明を受けてあなたとしては納得して図面を綴り込んだということになりますか」
証人=「そうです」
宇津弁護人=「その二十一日付のあなたの供述調書が出来てすぐその図面は綴じ込んだのですか」
証人=「はい」
宇津弁護人=「調書が出来てそのまま図面を綴り込んだのですか」
証人=「はい」
宇津弁護人=「そして割印を押して調書を完成させたと、こういうことですか」
証人=「はい」
宇津弁護人=「ところがね、あなたは先ほどの記録一九五丁第六見取図の指示説明では至加佐志街道という所ですね、道路をずっと南へ降りて来まして、二股になってその下に説明文があってその説明文のすぐ上辺りに捨てたという説明だったですね」
証人=「はい」
宇津弁護人=「それをこの記録一九九九丁の図面に写してみた場合にですね、その二股の股の内側というのは一体どこになるんですか、この図面で」
証人=「・・・・・・・・・よく分かりませんですが」
宇津弁護人=「あなたは石川君の最初の指示した内容自体は、土地勘のあるあなたには理解出来たということですね」
証人=「大体あの辺だと思います」
宇津弁護人=「それから今裁判所の検証図面でも場所を指示することが出来た」
証人=「はい」
宇津弁護人=「そしてこの一九九九丁の図面を書かせる時もその当時はそれはどこを表わして、いろんなマークも⬜︎とかⓍとか、そういうのも何を表わすかについても理解していたと仰いましたね」
証人=「その時は分かっていました」
宇津弁護人=「そういうあなたに今お尋ねしているんだが、その先ほど裁判所の検証図面の二股になっている股の内側に置いたという点はこの図面のどこになるか」
証人=「・・・・・・・・・よく分かりませんですが」
宇津弁護人=「今この図面見ても分からない」
証人=「はい」
宇津弁護人=「当時は理解していたはずであるということになるんですか」
証人=「はい」
宇津弁護人=「そしてこの今の図面の裏を返して見ますと、また何やら図面みたいなのがありますね、これは何ですか」
証人=「これは最初書く時に石川君がこっちへ書いて、それで書き直してこっちへ書いたんだと思います」
宇津弁護人=「なぜ書き直すようになったのですか」
証人=「分かりませんです」
宇津弁護人=「分からない」
証人=「ええ、どこか間違えたんで書き直したんだと思いますが」
宇津弁護人=「どの点を間違えたんでしょう」
証人=「いや、それどこかを間違えて書き直したんだと思うんです」
宇津弁護人=「間違えて書き直したんだということは記憶にあるんですか、本当に」
証人=「はっきり間違ったから書き直すという記憶はございませんけれども、この図面を見まして間違って書き直したんじゃないかという風に考えるわけです」
宇津弁護人=「今そのように推測するということなんですか」
証人=「はい」
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私が入手した狭山事件裁判記録には供述調書添付図面一九九九丁が見当たらない話。
たびたび宇津弁護人が証人へ示す、石川被告の供述調書添付図面一九九九丁であるが、私が入手した狭山事件裁判記録にはそれが見当たらず、かなり歯痒い思いである。裁判記録の中にある供述調書添付図面の一覧表には確かに一九九九丁と記載されており、そして丁数は異なるが、他の六月二十一日付供述調書添付図面は載っていることから、私が入手した裁判記録は、たまたまそれが落丁していたと考えるほかないと思われる。
この点を解明したく、ならば別の狭山事件公判調書を入手し比較すればどうかと思い古書ネットで検索したところ、この書物にはなんと二十万円の値が付けられていた。
供述調書添付図面の⬜︎印やⓍ印の確認ごときにそのような莫大な金はさすがに払えない上に、そちらも該当する図面が落丁していた場合、かなり笑えない話となるであろう・・・・・・。