【公判調書2077丁〜】
鑑識課長 警視 山中芳郎 殿
埼玉県警察本部刑事部鑑識課
警察技師 斎藤義見
警察主事 吉田一雄
警察主事 塚本昌三
昭和三十八年五月十三日
「指紋検出および対照結果について」
昭和三十八年五月二日付、狭鑑発第一三六号をもって狭山警察署長より依頼のあった狭山市上赤坂○○番地中田善枝誘かい被疑事件にかかる物件について、指紋印象の有無を検査し、対照した結果は次のとおりであるから報告する。
一、事件名
誘かい被疑事件
二、検査物件
1 封筒(白色二重封筒)
2 脅迫状(ノート紙片)
3 身分証明書(中田善枝名義のもの)
三、指紋の検査および対照年月日、場所
1 指紋の検査
昭和三十八年五月二日 当課において実施。
2 指紋の対照
(1) 所轄狭山警察署員指紋原紙との対照
昭和三十八年五月二日 当課において実施
「対照者は当課警察技師斎藤義見」
(2) 被害者家族の関係者指紋原紙との対照
昭和三十八年五月十二日 狭山警察署特別捜査本部 において実施。「対照者は当課警察主事吉田一雄」
四、検査方法
1 肉眼検査
拡大鏡を使用し、前記物件の各部位について指紋印 象の有無を検査したが、現象指紋の存在は認められなかった。
2 写真撮影
指紋検査の薬品加工前において、物件をそれぞれ写真に撮影した。
3 薬品検査
(1) 封筒について
汚染し開封されている白色の二重封筒について、ニンヒドリン、アセトン溶液による検出を行った。
なお、肉眼検査において、封筒表面の上部中央に「少時様」ようの文字が認められたが、溶体法およびその還元法(過酸化水素水による還元)等により、該文字は消滅した。
(2) 脅迫状について
横書きされたノートの紙片に、ニンヒドリン、アセトン溶液による検出方法を該紙の第一行目および末行について実施したところ、アセトン溶剤により記載文字のインクが溶解し、拡散したので中止し、沃度瓦斯(ヨードガス)による気体法により検出した。
(3) 身分証明書について
液体法(ニンヒドリン、アセトン溶液)により検出を行った。
五、 検出部位および個数
別紙写真に告示の通り
検査物件1封筒表面より二個(No.1〜No.2)
検査物件1封筒裏面より一個(No.3)
検査物件2脅迫状表面より四個(No.4〜No.7)
検査物件2脅迫状裏面 検出されない。
検査物件3身分証明書表面 検出されない。
検査物件3身分証明書裏面 検出されない。
六、 写真撮影年月日、場所および撮影者
昭和三十八年五月二日当課において
警察主事 塚本昌三
七、 物件の処置
1 検査物件1の封筒および検査物件3の身分証明書については、過酸化水素水をもって還元したが完全には還元されないため汚染痕が残った。
2 検査物件は返戻する。
八、 指紋の検出(採取)および対照結果
1 検出(採取)結果
2 対照結果
検出指紋のうち、対照可能の指紋について、関係者指紋と対照した結果は次のとおりで遺留指紋はない。
(1) 第四号は狭山警察署巡査木村豊の右手示指に符合する。
(2) 第五号は被害者方関係人(実兄)中田健治の右手拇指に符合する。
検査物件1(白色二重封筒)
検査物件2(脅迫状)
検査物件3(身分証明書)
*
○昭和三十八年当時の警察における捜査技術、その一端を担う鑑識課の職員が任務を完遂し、出した結論が上記の通りである。被害者の身分証明書から指紋は検出されなかった。表面、裏面共にである。
この身分証明書は脅迫状と共に封筒に同封されている。指紋が検出されなかったということは、この行為を行なった者がその手に何らかの処置を施していたと推測される。手袋、軍手着用など。
すると、ここに石川一雄被告人の供述が綻びを見せる、つまり虚偽の自白の証明である。
彼の供述には、犯行時に手袋等の着用をしたという証言はない。