弁護人=「あなたが歩いた土ですがね、どのぐらいの高さ、或いは、どのぐらいの広さに盛ってあったものか、憶えてますか」 被告人=「十五センチぐらいだと思います、高さがですね。それから、巾三尺、長さ六尺ぐらいです」 弁護人=「ともかくその上を六歩、歩いたんですか」被告人=「はい」 弁護人=「右側から歩けと言われて右側から歩いたわけですね」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「あなたは、前にその関係のことを伺ったときに、何か、そこを往復して歩いたということを言ってるんですがね」 被告人=「往復じゃないです」 弁護人=「一回歩いただけですか。まず六歩」 被告人=「はい」 弁護人=「東から六歩ね」 被告人=「いいえ、西から東へ歩いたんです」 弁護人=「土の上には六歩、足跡が残ったという記憶ですね」 被告人=「はい」 弁護人=「それからどうしましたか」 被告人=「それから、白いミルクみたいな物をちょっと見ましたが、お前は調べ室へ行けと言われて、調べ室へ行って十五分ぐらい経って、また戻って来ました」 弁護人=「十五分間何してましたか」 被告人=「いろいろ雑談したり、煙草を吸ったりしてました」 弁護人=「特別、調べがあったわけではないですか」被告人=「はい」 弁護人=「十五分ぐらい経ってから、また、先程歩いた所へ戻ってきましたか」 被告人=「はい」 弁護人=「その時、その土はどうなっていましたか」被告人=「元の通り、平らに均してありました」 弁護人=「白いものを入れた物なんかは片付けてあったわけですか」 被告人=「はい」 弁護人=「それで今度はどうしたのですか」 被告人=「それから、自分の好きなように今度は歩いてみろと言われたので、前に歩いたのと同じように歩きました」 弁護人=「と、やっぱり西の方から、右足を第一歩として歩いたわけですか」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「何歩ぐらいですか」 被告人=「やはり前と同じくらいだと思います」 弁護人=「その歩いた土ですけれども、一回目と二回目と変わってる様子でしたか」 被告人=「同じ土だと思います」 弁護人=「どんな土だったですか」 被告人=「赤土が少し混じっていました」 弁護人=「柔らかい感じですか、堅い感じですか」 被告人=「柔らかいです」 弁護人=「歩くと大分へこむ感じですか」 被告人=「はい」 弁護人=「砂みたいにざらざらした土ではないんですか」 被告人=「そうじゃないです。百姓してましたから、その点は判ります」 弁護人=「何か、粘土のような土はなかったですか」被告人=「なかったように思います」 弁護人=「赤いものが混じっている比較的柔らかい土ですか」 被告人=「はい」 弁護人=「二回目に歩いて、その足跡のほうはどうなりましたか」 被告人=「二回目に歩いて、今度は調べ室に行かずに元の留置場へ入れられて見ていましたが、それは、土はもう、ただ歩いただけで片付けてしまいました」 弁護人=「前のように、白いものを流さなかったですか」 被告人=「ええ、そうです」 弁護人=「それは確かですか」 被告人=「ええ、そうです。ちゃんと見ていましたから」 弁護人=「すると、運んで来た箱に入れちゃったわけですか」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「そうしますと、結局、あなたが土のを歩かされて、あなたの見ている前で白いものを流したりしたのは、最初に歩いた六歩分の足跡だけになりますか」 被告人=「はい、六歩入れたかなんか判らないが、とにかく最初歩いたものだと思います」 弁護人=「六歩歩いた記憶はあるけれども、白いものを全部六歩に入れたかどうかは見ていないわけですね」 被告人=「ええ、見てないです」
狭山の黒い闇に触れる 283
【公判調書1183丁〜】