弁護人=「狭山の警察にいる時に、地下足袋を履いて土の上を歩かされたことがありますね」 被告人=「はい」 弁護人=「前にもちょっと言ってるんですけども、その時の模様をもう少し詳しく聞いておきたいんですけれども、いつ頃か憶えていますか」 被告人=「六月の六日頃だと思います」 弁護人=「もう少し早くて、六月の一日頃じゃないですか」 被告人=「嘘発見器に最初にかかったのが五月の三十日か三十一日かだと思いますので、それから大体五日くらい経ってると思います」 弁護人=「最初に嘘発見器にかかってから五日ぐらい経ってからですね」 被告人=「はい」 弁護人=「その歩いた場所ですがね、どこですか」 被告人=「留置場内です」 弁護人=「あなたが入っていた房の外ですか」 被告人=「房のすぐ前です。前に担当台があって、その担当台をいつも弁護士さんと面会する西側の方へ寄させて、その前へ土を盛って、その上を歩いたわけです」 弁護人=「そこへ土を盛る時、あなたは見ていますか」 被告人=「はい、留置場の中から見てました」 弁護人=「どういう物で土を運んで来たのですか」 被告人=「リヤカーでみかん箱三つぐらいだと思います」 弁護人=「そのみかん箱から出して、土を盛ってるとところをあなたは見ているわけですね」 被告人=「はい」 弁護人=「土を盛ってから、房から出るようにと言われたんでしょうが、誰が出るように言いましたか」 被告人=「長谷部さんです」 弁護人=「房から出てどうしたんですか」 被告人=「房から出て、長谷部さんに足袋を履かしてもらって椅子の上へ腰掛けて、それで東側の方へ向かって右から歩けと言われたので、六歩歩いたと思います」 弁護人=「長谷部さんに足袋を履かしてもらったと言いましたね」 被告人=「はい」 弁護人=「どういうことですか」 被告人=「自分でも、履けば履けたですけど、魚の目が右足の方へ出来てたもので、少し痛かったから長谷部さんに入れてもらったです」 弁護人=「入れてもらったというのは、長谷部さんがつま先を持って、ぐっと押し込むとか、そんなことをしてくれた、という意味ですか」 被告人=「はい、そうです」・・・(続く)
一九六三年五月二十三日の石川一雄氏。この日早朝、取るに足りぬ暴行と窃盗を名目に逮捕され、狭山警察署へ・・・。